第41話変わらない母
「ユースティティア。ここにいたのか」
「お祖父様、どうかなさいましたか?」
私がグリード公爵に引き取られて、それなりの月日が経った頃のこと。
「いや、なに、大したことではないのだが」
「何かあったのですか?」
「実は国境沿いのリゾート地にユーノス達が訪れていたようだ」
「お祖父様、それは本当ですか?」
お父様達がリゾート地を訪れていた?お祖父様の仰るとおりなのでしょう。あの父のことです。きっと母の要望と言う名の我が儘に付き合っていたに違いありません。
「あぁ。だが、どうやらトラブルがあったようでな」
「……トラブルですか?」
リゾート地でのトラブル。
まったく予想できません。
「うむ。なんでも、ラース副団長の息女と鉢合わせしたらしい」
「エンビー嬢とですか?」
「そうだ」
「何故、エンビー嬢が国境のリゾート地に……?」
お祖父様は今なんと仰いましたか?
エンビー嬢が国境のリゾート地にいたと?
彼女が何故そのような場所にいたのでしょう?
例の事件の後は精神科医に通院していたと聞き及んでおりますが。
「風光明媚な場所だ。リゾート地として有名ではあるが、精神を病んだ者を隔離する施設も密かに存在する。まあ、自然の中で過ごさせることで病んだ心を癒す効果を狙っているらしい。若い者にはかなり効果的だそうだ。王都の精神科医は挙ってそこに患者を行かすらしい」
「では彼女も……」
「恐らくな。ボランティアの名目で、リゾート地に赴いているのだろう」
ボランティア。
あのエンビー嬢が?
「農場の手伝いやら、清掃活動やら。その中に療養も含まれているのだろう」
「そうですか……。それで、お祖父様。トラブルと言うのは?」
「うむ。ロディーテは分らなかったらしい」
「……は?それは一体、どういう意味でしょうか?」
「ラース副団長の息女は何時ものように叫んだそうだ。『ロディおねえちゃま』とな。それに対してロディーテは一切反応しなかったらしい」
「……」
「ロディーテが娘に言ったそうだ。『私はあなたの姉ではありません』とな。『誰かと間違えているのではないかしら?』とも言っていたそうだ。娘の方は思い出してもらおうと自分の名前を何度も言っていたが、ロディーテは『私のエンビーちゃんは小さくて可愛らしい子だったわ。貴女のように大きくはないの』と言い、その場を去ったそうだ」
「……それはまた……」
エンビー嬢はその後、絶叫し倒れたそうです。
精神崩壊はしなかったようですが、数日は錯乱状態が続いたらしく随分と大変だったようで……。
お母様の知っているエンビー嬢は幼い頃のままなのでしょう。
成長した姿が想像できなかったのかもしれません。
それにしても惨いことを。
ただ、現地で騒動を巻き起こしたというのに、素知らぬ顔で別の地に行く神経は流石という他ありません。神経が図太いといいますか、無神経というべきか。
何時、こちらに戻って来るのかは分かりませんが、帰ってきたら小型犬を飼うことを勧めてみましょう。ちゃんと四足歩行の犬を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます