第36話副団長side ~罪の行方2~

 翌日――


「もう相手側と話は済んだわ」


 はぁ!?

 まだ一日も経ってねぇぞ?早すぎだろ!

 平気な顔で「示談が成立した」と言う妻に俺は困惑した。


「エンビーの更生の機会を奪っていいのか!?」


「もう終わった話を蒸し返すのはよして!相手にだって迷惑よ」


「迷惑なわけないだろ!怒っているに決まっている。エンビーが未成年だから怒りを抑えていてくれているだけだ!!」


だったから丁度良かったそうよ」


「……どういう意味だ?」


「言葉通りの意味よ。昏睡状態の子は子爵家の娘だけど、後妻が産んだ子だったの」


「お家騒動か?」


「さぁ?そこまでは知らないわ。弁護士は守秘義務があるから詳しく教えてくれなかったけど、そうなんじゃない?」


「……向こうの親御さんはなんと言ってたんだ?」


「来てなかったわよ。こっちだってアポなしで弁護士の所にいったから。弁護士も親は関係ないって言ってたわ。全部、弁護士任せみたいね」


「……そうか」


 俺はそれ以上何も言えなかった。

 一週間後、とある子爵家の当主代理とその妻と一部の関係者が逮捕されたと新聞の一面に載った。

 なんでも入婿の当主代理は、本来の跡取りである嫡出の娘を不当に扱っていたらしい。後妻は元々愛人で、その間に生まれた子供に子爵家を継がせようと企んでいたとか。ただし、元愛人の後妻は平民で、幾ら貴族と結婚しても貴族籍には入れない。貴族と平民の子供なら貴族籍の申請をすればいいが、どうやら、その申請は通らなかったらしい。理由は簡単。子爵家の血を一滴も引いていないからだ。

 まあ、当然だな。無関係の子供を貴族にするなんて出来っこない。入婿の当主代理は男爵家の四男坊か……こりゃ、実家に頼んだところで無理だろうな。


「ああ、入婿もこの一件で子爵家の戸籍から抹消されたのか。なら夫婦揃って平民か」


 新聞には、平民の身分で「子爵夫人」「子爵令嬢」を詐称したこと、財産の着服など多数の余罪があり、無事に逮捕に至ったとある。

 更に嫡出の娘から「子爵家の屋敷を不法に占拠し、平民が貴族令嬢自分を虐げたことに加え、不敬罪の数々と、名誉棄損と殺人未遂、及び公文書偽造の罪で私刑を司法に訴えた」との声明文が提出されたことも書かれていた。

 場合によっては入婿の生家も共犯の疑いで罰せられる恐れがあるとかないとか。


「共犯じゃねぇ可能性もあるってわけか。父親の親戚とは付き合いがないって書いてあるからな。それでも何らかの罰は与えられるか……」


 使い込まれた財産の払い戻し、慰謝料、賠償金。

 これらを支払って男爵家は大丈夫なのか?


「最悪、爵位を売ってチャラにするか、だな」


 国王陛下の許可があれば爵位を売ることもできる。

 そうか。

 あの被害者の子は、どっちにしても帰る家はない。

 国立病院で今も眠り続けている。

 起きない方が幸せってもんだ。


 妻の言っていた「問題のある家」の意味を俺は漸く理解した。






 もういいだろう。

 そう自分に言い訳をして俺は離婚届を妻に送った。

 別居に近い状態だった。そのうえ、離れていた分だけ話が合わなくなっていた。価値観とでも言えばいいのか……。


 子供の教育にも悪い。

 ああ、これも言い訳だ。

 大して育てた覚えのない娘を持て余している現状だ。


「大人しく記入してくれるといいんだが……」


 プライドの高い妻のことだ。

 素直に記入するとは思えない。


 思った通り、妻は空欄で離婚届を送り返してきた。

 恥ずかしいことはするな、という一文を添えて。


「はぁ、離婚は恥ずかしいことじゃねぇよ」


 俺は溜息を吐いた。

 とことん話が噛み合わねぇ。

 それから離婚の話し合いは持ち越しとなり、俺は仕事に忙殺される日々を送った。

 忙しい合間を縫い、娘との時間を作ろうと努力はしたが、結果は惨敗。

 最近は奇行が増えた気がする。


 病院に連れて行くか。


 


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