第35話副団長side ~罪の行方1~
ついにやらかしたか。
親の思うことじゃねぇ。
だが、年々癇癪が酷くなる娘に手が回らなかったのは事実だ。
母親が居ないことが影響しているんじゃないかと団長に言われた。
そうかもしれねぇ。
学校での些細な喧嘩。
相手の女子生徒と取っ組み合いの喧嘩になっちまった。それはいい。いや、よくねぇが……。ただの喧嘩なら問題なかったんだ。
問題は、相手の子を突き飛ばした場所が悪かった。階段。
運悪く、喧嘩相手が足を踏み外し、頭を強打して昏睡状態。最悪だ。このまま目を覚まさない可能性もある。
娘に悪気はねぇ。
わざとじゃない。
そう自分に言い聞かせても娘のせいで人が一人、死にかけてることに変わりはねぇ。
事情聴取で娘は刑務所に拘留された。
「事故ですし、計画的犯行ではありませんので。お嬢さんもわざと狙ってやったわけじゃないことは相手側も理解しております。加害者とはいえ未成年ですからね。未来ある若者を前科者にするのは忍びないと被害者の身内は仰っています。お嬢さんがやったことは決して許されないことですが、まだ子供。更生する機会を与えてあげてほしいとの申し出がありました」
「それは……。ありがたいことですが、その……本当にいいんでしょうか?」
「はい。相手側もお嬢さんの更生を望まれてます」
「そうですか……」
俄かには信じがたい話だ。
被害者側の弁護士が話し合いに来たと思ったら「罪には問わない」と言う。
最初は冗談だろ?と思ったさ。
そうだろ?
家族が昏睡状態に陥ったっていうのに。今だって予断を許さない状況なんだぞ?
加害者が未成年だからって許すか?
俺だったら許さねぇ。
「少し、時間をいただいても宜しいですか?妻とも話し合わないといけないので……」
加害者家族の言うべき言葉じゃない。
変な話だ。
「勿論です。ゆっくりご家族と話し合い、よく考えてみてください」
にこやかに言う弁護士。
子供だから無罪放免って訳にもいかないだろう?
何らかの罰は必要だ。
違う。罰を与えなけりゃいけない。
そうしないと娘は何も変わらない。
罪には罰を。
そんな俺の決心を鈍らせたのは妻だった。
「あの子は十分反省してるわ。相手側だって反省すればいいと言っているのでしょう?なら問題ないじゃない」
妻はそう言うが、それは違うんじゃないか?
「お前の気持ちはわかる。だが、それはエンビーのためにはならねぇ」
「じゃあどうしろって言うのよ!!」
妻はヒステリックに叫んだ。
「あの子の将来を潰す気!?前科者にしてどうするのよ!!あの子はまだ子供なのよ!!?更生する機会を与えないなんて親として間違ってる!!」
妻の言うこともわかる。だが……。
「お前は、エンビーが本当に反省していると思っているのか?」
「当たり前でしょう!?あの子がどれだけ反省しているか、私はちゃんとわかってるわ!!」
「本当か?エンビーの口から聞いたのか?エンビーに会いに行って確かめたのか?」
「会わなくたってそれくらい分かるわ。母親ですもの!!」
「本気で言っているのか?」
会わないで分かる訳がない。
魔法使いじゃないんだ。
母親だから理解しているとでも言いたいのかもしれないが、それは無理というものだ。
あの子は反省なんかしちゃいない。
どうして自分が拘置所にいるのかと不貞腐れていた。
被害者の生徒のことなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
俺が指摘して漸く、突き飛ばした相手を思い出したくらいだ。あの子は何も反省なんかしちゃいない。
「と、兎に角、相手側がいいって言ってるんだからその通りにすればいいの!」
「今、あの子に必要なのは自分が何をしたのか、だ。それと理解させないといけないだろ」
「だから犯罪者として裁かれろっていうの!?」
「そうじゃねぇ。まずは過ちを認めさせることが重要だって言ってんだ!……それでも解からねぇなら……それも仕方ないだろ」
「冗談じゃないわ!そんなことしたら私は犯罪者の母親として後ろ指を指されるじゃない!」
「だからなんだ!俺達はエンビーの親だろうが!?親なら子供が正しい道に進めるよう導かねぇといけねぇだろ!!」
「止めて頂戴!今は大事な時期なの!そんなことされたら今までやってきたことが全て無駄になるじゃない!!貴方だって騎士団を辞めさせられるわ!!」
「俺はいい。覚悟はできてる」
「何ですって!?」
驚愕する妻に俺は言った。
「エンビーをちゃんと躾けなかった俺達の責任だ。だから俺が辞めようが離婚しようが構わない」
「貴方っ!」
俺がここまで言うとは思わなかったんだろう。妻は酷くショックを受けていた。
だが、それでも譲れないものがある。
「……私は反対よ」
「そんなに王子の教育係の地位が大事か?」
「当たり前じゃない!」
「自分の娘よりもか?」
「……どちらも大切よ」
嘘だな。
仕事の方が大事なんだろう。
人一倍向上心のある女だ。
文官になれないことを、そのスタート地点にすら立てないのがどれだけ悔しかっただろう。
女性採用枠。
それさえあれば、彼女はとっくに文官になっていただろうに。
きっと俺と結婚なんてしてなかった。
いや、誰とも結婚せずに仕事一筋に生きてたかもな。
無言で睨みつけてくる表情はエンビーとそっくりだ。
自分は悪くない、と本気で思っている目だ。
そういうとこもエンビーと同じだな。
娘は親の嫌な部分だけはしっかり引き継いでやがる。
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