第22話副団長side ~始まり~
俺とアンビーの第二子は死産だった。
男の子を欲しがっていたアンビーは、息子の死に随分気落ちしていた。
俺はそんなアンビーを励まそうとしたが、仕事が忙しくてあまり帰れなかった。
やっと時間が取れたのは、息子の死から一ヶ月が経った頃だった。
『ジャスティ、私は王宮に行くわ』
突然のことに驚いた。
それはそうだろう。急に王宮に行くと言われて、はいそうですかと納得できる奴はいねぇ。王宮に呼びつけられる理由は、ひとつしかない。
『まさか……』
『ええ……ご誕生した王子殿下の乳母にと打診があったの。正式にお話が来たわ』
『嘘だろ……!?』
『本当よ。国王陛下直々のお達しだもの。断れる人なんていないわ』
俺は言葉が出なかった。
王子殿下の乳母に打診が来るのは名誉なことだが、ロディーテは第一子を亡くしたばかりだ。
それなのに第二子を亡くしたばかりの彼女に頼むなんて……ひどい話だ。
『そんなに気落ちしないで。寧ろ、私は喜んでいるの』
『えっ……?』
『王子殿下の乳母になれるなんて、この上ない名誉だわ』
『だが、エンビーはどうするんだ?王宮に子供を連れて行くことはできないだろう?俺だって仕事がある。騎士団の仕事はスケジュール通りとはいかない場所だからな』
定時で帰ってこれる職場じゃない。
昼間は良いだろう。
他の騎士の奥さんにお願いして預かってもらうという手もある。
しかし、夜が問題だ。
『それなら大丈夫よ。エンビーはプライド伯爵家が預かってくれるわ』
『はぁ!?な、なんでプライド伯爵家が……?』
『ロディーテに事情を話したら、すぐに快諾してくれたの。あちらの子供は今、入院中でしょう?ロディーテもエンビーを娘同然に扱うと言ってくれているし。ああ、ただね、名目上は“メイド見習い”という形にしないといけないのだけど。それだけが残念ね。でも将来を考えたら伯爵家の上級メイドにさせるのもいいかもね』
『い、いや……ロディーテはそれで良くてもプライド伯爵は?』
『ロディーテがお願いしてくれたみたいよ。快く承諾してくれたらしいわ』
俺の知らないところで勝手に話を進められていた。
疎遠になってたロディーテと連絡を取り合っていたなんて知らなかった。
アンビーは笑って話すが、俺は複雑な気持ちだった。
プライド伯爵の人となりをよく知らない。
身分が違い過ぎるというのもある。
ロディーテと結婚しているとはいえ、相手は伯爵様だ。
伯爵家と縁もゆかりもないエンビーを預かるなんて。
伯爵様にとってメリットなんてどこにもないだろうに……。
『話はわかった……だけどな、ロディーテは大丈夫なのか?』
『大丈夫って?何が?』
『いや……確か二歳になる娘が病で入院しているんだろう?』
『だからでしょう?エンビーを預かるのは』
『だが……ロディーテの娘は病で倒れたんだろう?そんな時に預かってもらうのは……』
『ジャスティ、言ったでしょう?だからこそ、だって。エンビーが傍にいることでロディーテは“娘の代わり”ができると喜んでいるわ。エンビーだって家でひとりぼっちで留守番するよりずっといい。お互いにとって良い話だわ』
『……そうか』
『それに、プライド伯爵家なら安心だわ』
『ああ……そうだな。すまない』
俺はそれ以上何も言えなかった。
アンビーとロディーテの間で既に話しは済んでいる。伯爵にすら了承を得ているんだ。
俺にできることは何もない。
幼い娘を手放すことに葛藤があったが、アンビーは王子の乳母になることは決まっている。
俺も仕事を辞めてまで娘の面倒を見ようとは思わなかった。
騎士団の副団長になったばかりだ。
これからという時に仕事を辞めるのは、正直躊躇われた。
俺は頷くしかなかった。
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