伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
第1話プロローグ
ユースティティア・プライドは、伯爵令嬢である。
王国きっての名家の娘。
ただの伯爵家の娘ではない。
彼女の伯父はグリード公爵。
二人の伯母も有力貴族に嫁いだ名夫人。
更に両親は社交界の花形。
父のユーノス・プライド伯爵は、若くして画家として成功を収めている。
父は、先代グリード公爵夫妻の末子として生まれ、兄と姉二人とは年齢がかなり離れていた。
そのせいか、彼は家族から溺愛されて育った。
年を取ってから生まれた息子。
年の離れた弟。
公爵家の後継者も立派に育ち、次の世代を産み育てる段階。
後継者争いなど起きるはずもなく。だからこそ、ユーノスは家族のみならず親戚一同から
溺愛されたからといって、教育を疎かにはしない。
当然だろう。
幾ら可愛いといっても公爵家の次男。
公爵家に相応しい男に育つよう厳しく躾けられた。
公爵家が持つ「伯爵位」の継承を許されたのが、なによりの証拠。
自他共に厳しい家なのだ。
一定の才覚を持っていなければ爵位すら渡されない実力主義。
甘やかすだけ甘やかすような育てられ方はされていないものの、それでもやはり末っ子は可愛いもの。 ユーノスの結婚は、上の三人と違って政略結婚ではなく、恋愛結婚を許されるほどに。
彼が己の妻にと望んだのは男爵家の娘、ロディーテ。
社交界で「妖精姫」と謳われるほど美しい少女だった。
身分差はあれど、グリード公爵家からすると悪い縁組ではなかった。
寧ろ、愛する息子、または弟が愛する女性と結婚することを殊の外喜んだ。
その背後に「なまじ権門の家から嫁を貰うと後々面倒になる」という意図はあれども――
高位貴族としては珍しく恋愛結婚を果たしたユーノス・プライド伯爵。
程なくして夫婦に可愛らしい娘が誕生する。
それが、ユースティティア・プライド。
彼らは幸福の絶頂にいた。
だが、娘が二歳になると大病を患い入院を余儀なくされる。
突然訪れた悲劇に、悲しみに暮れる夫妻だったが……。
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