エピローグ~ライバルが強すぎな件
そして王妃からのマリオンへの貢ぎ物の宝箱と装飾の職人集団を引き連れて、エドアルド王子は同盟国のアケロニア王国へ到着した。
国同士の話し合いはきっちり国王が、現地の王家とまとめておいてくれた。
ひとまず1年、王子はマリオンの国に滞在する許可を得た。
滞在の名目は留学だが既に本国で成人済みなので、マリオンの実家に滞在しながら社交に力を入れることになる。
「マリオン……俺は準備万端だよ!」
タイアド王国を出立するまで数ヶ月かかったが、その間に外交に必要な知識やマナーの復習、それに閨教育を受けていたエドアルド王子だ。
トラブルで王子はマリオンの誕生日を祝うことはできなかったけど、彼ももう18歳、成人だ。
そしてとっくに恋人同士になったと思い込んでいる。
あとは行き着くところまで行くだけだ! と気合いを入れていたら、兄のクリストファー王太子からちゃんと学べと言われて、閨の教師を付けられてしまったのだ。
『アケロニア王国はタイアド王国とは文化が違うからね』
もちろん実地はない。本番は絶対マリオン本人とだと心に決めていた。
マリオンの実家に到着して一休みした後、エドアルド王子はマリオンに連れられてブルー男爵家の墓地に案内された。
マリオンの前世、グレン・ブルーの墓参りである。
「あれ、享年38歳? もっと早死にかと思ってたけど中年期まで生きてたんだ」
マリオンが墓石を見て首を傾げている。
「グレン。久し振り」
エドアルド王子はここに来る途中で手配した花束をそっと墓の前に置いて供えた。
そして隣のマリオンの肩をしっかり抱いてから、墓石に語りかけた。
「もう捕まえたぜ。二度と逃さねえから」
「エド、何言ってるんだよ、もうー!」
肩を抱かれたマリオンが憤慨していると、赤く染まった頬と唇に、それぞれ口づけられた。
「こら、墓の前で何てことするんだ!」
「グレンに見せつけてるの! わからせてるの!」
それからひとしきり戯れた後で、ふたりして墓石に手を合わせると、すーっと胸の中を涼しい風が通り抜けていった。
この瞬間、マリオンとエドアルド王子の前世からの追いかけっこは終わったのである。
で、ちゃんと改めて互いの気持ちを伝え合って、お付き合いを始めた。
その日、ブルー男爵家の晩餐には領地の美味しいチーズを使ったピッツァやグラタン、サラダ、ミルクスープなど、祖母のサラがマリオンの好物をたくさん並べてくれた。
エドアルド王子がマリオンの好きな物を知りたいと頼んだので腕を振るってくれたのだ。
祖母サラはふたりのお付き合いには「若いうちの経験は賛成派」だ。
隣にいた祖父ダリオンはそもそも可愛い孫に付く虫は何でも気に食わない。
「ピューイッ」(エドくんもきたし、そろそろぼくはお嫁さん探しにいーこうっと)
食堂で甘い桃を齧りながら
◇◇◇
その後はようやくマリオンとの蜜月だ! とエドアルド王子は浮かれていたが、甘かった。
まず立ち塞がったのはマリオンの祖父ダリオンだ。
「おう、エド君や。とりあえずマリオンの前にわしを倒してから行けな?」
「え、SSランク冒険者様にはまだ勝てない……がんばる!」
次に来たのは、マリオンの魔法の先生だという、青みがかった銀髪と湖面の水色の瞳、銀縁眼鏡のちょっと酷薄そうだが麗しの美貌のお兄さんだった。
リースト侯爵家という、アケロニア王国でも屈指の魔法の大家のご当主様である。
「困るんだよね。うちの弟子を掻っ攫おうなんて真似されると」
「ルシウスおじちゃんとヨシュア兄ちゃんのご本家の方ーっ!?」
ということは無数の魔法剣を持つ魔法剣士だ。しかも当主となると当代最強のはず。
このリースト侯爵様のエドアルド王子を見る目の冷たさといったら、まさに極寒。
なのに弟子のマリオンを見るときは眼鏡の奥の瞳がとても優しい。
麗しクールなイケメンお兄さんは間違いなく強敵だった。
その後にはエドアルド王子たちと同年代で、赤茶の髪の三枚目タイプの大柄な騎士が来た。
王都騎士団の期待の若手だそうだ。
こちらはホーライル侯爵家の嫡男様。
「友人代表として、如何に他国の王子殿下とはいえ、マリオンを苦しめた国の男を近づけるわけにはいかないな」
「前世の俺の家の子孫ーっ!?」
これは不味い。前世のエドアルド王子と容貌がよく似ている。
確認してみると、前世の姉の子孫だそうだ。
(ダメだ、こいつはマジでマリオンに近づけさせてはいけない!)
マリオンの周囲にいるこの二人を警戒するだけでもうエドアルド王子はいっぱいいっぱいだった。
しかし、まだ敵がいた。
そして最後にやってきたのは、エドアルド王子の長年の最大のライバル。
「あたくしの可愛いマリオンちゃん、帰ってきたからにはもう離しません! オホホ、あたくしだってマリオンちゃんの幼馴染み。先に会ったのはあなたかもしれないけど、一緒にいた時間はあたくしのほうが長いんですからね!」
「出たな横暴王女!」
まさかのアケロニア王国の王女様だ。
黒髪黒目のショートボブの端正な顔立ちの彼女は、百年辿るとエドアルド王子たち今のタイアド王族と同じアケロニア王族のご先祖様がいる。
(やだー! 父上と兄上と顔そっくりー!)
違うのは彼女は黒髪黒目、タイアド王国の国王と王太子は金髪碧眼なだけだ。
「あたくし、確かに王女ですけどお。上に5人もいる末っ子の、しかも庶子だった王家のおまけなのでえ。男爵令息のマリオンちゃんにお嫁入りしても誰も文句を言われないんじゃないかなあって」
「言う! 言われるよ絶対、いくら庶子だからって王家唯一の王女でしょ、王様にも兄貴たちからも溺愛されてるじゃん!」
正妃の王妃様にはさすがに睨まれているが、基本甘えん坊なこの王女は世渡り上手だ。
身分の低い男と結婚しても父王から伯爵位ぐらいはもぎ取って持参金代わりにするのはお手のものだろう。
「だめ! マリオンは俺のだからね、前世からそうだって決めてるんだから!」
「あら。マリオンはどうなの?」
マリオンのブルー男爵家まで、わざわざ関係者二人を伴って遊びに来た王女様はマリオン本人に話を振った。
久し振りに友人たちに会えて嬉しかったマリオンだったが、魔法の師匠、学生時代の同級生、それに先輩王女様、エドアルド王子。
4人の視線が集中してちょっと恥ずかしい。
「……エドが、すきです」
きっといま誤魔化しても後から追求されて面倒くさい。
それだけ素直に言って、マリオンは本宅のサロンから逃げ出して同じ敷地内の工房へ逃げていった。
「マリオン。俺もすき」
ほわほわと頭の中にたくさんのお花畑が広がっているような顔で、エドアルド王子が蕩けている。
残った友人3人は顔を見合わせて、その後とてもわるい顔になった。
「とりあえず、鍛えようか」
「ああ。剣聖なんだって? お手並拝見と行こうか」
「ふふ。これから楽しくなりそうー♪」
邪魔者はたくさんいたが、これから1年、マリオンとエドアルド王子は仲良く楽しく暮らすのだった。
おしまい。
※最後までマリオンとエド君をご覧いただきありがとうございました!
【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします 真義あさひ @linkstorymaker
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