王子がまさか!?
「一応自己紹介すると、私はクリストファー。君の幼馴染みエドの母親違いの兄だ。クリスと気軽に呼んでほしい」
「……マリオン・ブルーです。僕のことはお好きに呼んでください」
お互いのことはもうわかっている。
自己紹介は様式美みたいなもので、会話の段取りを固めるためだ。
ハンバーガーをあらかた食べ終わり、まだ温かく籠にたくさん残っているポテトフライを齧っていると。
「私の母が本当に申し訳ないことをした。本当なら本人が謝罪するのが筋なのだが、王妃は悪いことをしたとまったく思っていないんだ。顔を合わせたら君を不快な気持ちにさせると思い、私が来た」
「……そうですか」
テーブル越しに深く金髪頭を下げられたが、マリオンは謝罪を受け入れるとも拒否するとも答えなかった。
不敬? マリオンがこの国の国民なら恐縮するところだが、生憎マリオンは他国の貴族だ。しかも最悪の失礼を働かれた側だ。このくらいの意趣返しは勘弁してほしい。
「ピゥ……」
コート代わりの魔導具師のローブのフードの中から、
そのまま仔犬サイズから大型犬より二回りほど大きなサイズになって、背後からマリオンをもふっと包み込んだ。
冬だが昼間で陽気が良かったのでさほど寒くはなかったが、やはり天然羽毛の暖かさは格別だ。
「ギャウ」
ルミナスの瞳はガーネットの深みのある赤で、大きく
瞳孔は竜種らしく縦長なのだが、虹彩がガーネットの濃い赤色なので黒目がちに見えてとても愛らしい顔に見える。
その辺りが『竜種きってのアイドルドラゴン』と言われる由縁だ。
そして草食だが竜種なので鋭い牙を持つ。
わざとその牙を見せて、クリストファー王太子や周囲の騎士たちを威嚇した。
騎士たちは咄嗟に警戒する体勢になったが、王太子がすぐ片手を上げて制した。
「君がマリオン君の守護竜ルミナスだね。西の神人の眷属だとエドから聞いてるよ。……大丈夫、我らは君の友達を決して傷つけない」
「グルゥ?」(本当だな?)
「絶対だ。タイアド王国の次期国王として誓おう」
お近づきの印にと、クリストファー王太子はデザートのまだ剥いていなかったオレンジをルミナスに放った。
ぱくっと口でキャッチしてひと噛みしてごっくん。
「ピュア!」(おいしい!)
「気に入ってくれたようで何よりだ」
(あー。これはこっちのことも調べ尽くされてるな。まったく、何の話があるものやら)
しかし、そんなマリオンの警戒は次の王太子の言葉で吹っ飛んだ。
「それでね。エドは君への慰謝料代わりに希少素材の収集に出てたんだけど、出先のダンジョンで大怪我してしまって」
「え!? で、でもそんなの新聞には何も……」
「エドはいま一番人気の王族だからね。国民に不安を与えないよう情報をしばらく止めるよう新聞社に要請した」
「……そうですか」
ポテトをもそっと齧ってマリオンは俯いた。
この世界で新聞社は比較的公正なメディアだ。
権力からの命令は受け付けないが、事情を話した“お願い”には対応するのだろう。
「ピュイ……」
「駄目だよルミナス。油で揚げたものはお腹壊しちゃうからね」
ルミナスがポテトフライに興味を示したが、代わりに途中買っていたリンゴを与えた。
しゃくしゃくと嬉しそうにルミナスがリンゴを齧るのに微笑んで、マリオンは王太子に向き直った。
「それで、エドの怪我を僕に知らせて、あなたはどうしようというんです?」
「弟を見舞ってくれないだろうか。……全然意識が戻らないんだ。でも大事な幼馴染みの君が来れば変化があるかもと」
「それを早く言ってください!」
「ピャ!?」
ガタッと椅子から勢いよく立ち上がった。
背後のルミナスがビックリして、丸いガーネットの瞳を更にまん丸にしている。
「行きます。行くに決まってます、エドは僕にとって大事な人ですからね! エドのところに連れて行ってください!」
呑気にハンバーガーを食べている場合じゃなかった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます