下町でハンバーガーをご馳走になりました
王都の下町にある屋台街で、まさかのエドアルド王子の兄王太子と遭遇した。
金髪碧眼はエドアルド王子と同じ。
ただ、愛嬌ある顔立ちと雰囲気のエドアルド王子とは異なり、このクリストファー王太子はとても端正な作りの顔だ。
(うわあ。僕んとこの王女様そっくり)
およそ百数十年前、タイアド王家にはマリオンの故郷アケロニア王国の王女が政略結婚で輿入れしている。
だいぶ後になって、その王女の子孫が王権を獲得したので現在のタイアド王族は半数近くその血筋を受け継いでいる。
エドアルド王子とこの王太子、そして現国王はアケロニア王族の末裔。
同じ王族だが現王妃はアケロニア王族の血を引かないタイアド王族と言われている。
アケロニア王族は質実剛健、偉人賢人を多く輩出することで知られるが、タイアド王族は芸術と虚飾の国らしい退廃と享楽の王族と対比するように語られる。
さて、この王太子様はどちらの気質を受け継いでいるのか。
「君に早く謝罪したかったのだが、祖父のダリオン殿がなかなか面会を許可してくれなくてね。君が滞在する冒険者ギルドを張らせて、君が一人になる機会を窺ってたんだ」
「はあ、そうですか」
屋台街は下町の公園広場にある。
立ち食いもできるが、ベンチやテーブル席も設置されていて座って食事できるスペースもあった。
広場の端のテーブル席にマリオンは誘われた。
さりげなく周囲を見ると、近くの席は王太子の配下らしき者たちで埋められ、一般人が寄って来られないようになっていた。
「ここはハンバーガーといって肉やフライを丸パンで挟んだ軽食が人気なんだ。よくエドとお忍びで遊びに来ては食べてたものだよ」
「……そうなんですか」
何だかほのぼのしたエピソードを呑気に語られた。
「ほら、うちの国ってあんまり食事は美味しくないだろ? でもこういう屋台は素朴な分とても美味しくて。周りはあんな
「はあ、そうですか」
それならひとりでゆっくり食べたいんだけど、とマリオンが思っていると、テーブルの上に次々と彼のお付きの騎士と思しき者たちが料理を持ってきた。
ハンバーガーなるサンドイッチは一個ずつ紙に包まれて、開ければそのまま齧りつけるようになっていた。
「こっちが牛肉のひき肉をまとめて焼いたやつ。白身魚のフライや海老をカツにしたのもおすすめ。フライものはエドが好きなんだ。最近出没し始めたお野菜モンスターの亜種のビッグマッシュルームの厚切りソテーもなかなかだよ!」
「王太子殿下、めちゃめちゃ下町エンジョイしてますね」
「だって美味しいんだもん。王宮のシェフの洒落た料理も良いけど、こういう素朴なやつがいいんだよね」
子供のような口調が、かつてのエドアルド王子を彷彿とさせる。
なるほど、確かに彼らは兄弟なのだろう。仲は良いと以前文通で貰った手紙に書いてあった。
「ポテトのフライもおすすめ。ドリンクは?」
「あ、じゃあオレンジジュース貰います。ハンバーガーは……海老カツにします」
遠慮なくどうぞと言われたので、遠慮なく海老カツバーガーに齧りついた。
「……え、美味しい」
上下にカットされた丸パンの中に、キャベツの細切り、マスタード、海老カツ、それにレモンのきいたタルタルソースが入っている。
ざくっと揚げたての海老カツフライの感触も、マスタードやタルタルソースとの組み合わせも絶品だった。
「ポテトも美味しい……」
厚切りで太めにカットされたポテトだ。素揚げにされて粗塩を振られただけなのに、これがまたホクホクで美味い。
ただ、驚くほど量が多い。紙を敷いた籠に山盛りだ。二人分かと思いきや更に同じものがもう一つ来た。
いくら何でもこの量はあり得ないと思っていると、理由はクリストファー王太子が教えてくれた。
「今年に入ってからお野菜モンスターの大量発生で野菜の値段が下落してしまってね。野菜も芋類もほんとタダみたいな値段になってしまった」
材料のままなら二束三文だが、料理にすれば商品だ。
クリストファー王太子はビーフパティと例のマッシュルームソテーなどマリオンが手を付けなかったものを次々、途中ポテトを挟みながら食べていた。
平均よりやや高めの身長ぐらいの彼は大柄でもなく、騎士たちのように筋骨隆々でもないが、案外健啖家らしい。
それからさりげなく騎士たちに周囲から隔離されながら、ふたり黙々とハンバーガーセットを食べた。
さて、話の本題にはいつ入るものやら。
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