マリオンが絶対に来てほしくなかった人
「マリオン! マリオン、わしの可愛い孫ちゃん! どこだ!? じいじに顔を見せておくれーっ!!!」
冒険者ギルドの食堂で大声を張り上げる大柄なイケジジに、一斉に人々の視線が集まる。
よりによって一番利用客の多い昼過ぎの時間帯だった。
「に、逃げられ……る?」
「ピュイ〜」(マリオン、あきらめなよ)
マリオンが変装用の眼鏡を装着しててもお構いなしだ。
「お、おじいさま。お久し振りです、その……心配をお掛けしてしまって……」
「マリオン! じいじはそんな他人行儀な口を聞かれたら悲しい!」
「うっ、……じいじ! 会いたかったっ」
「マリオンー!」
「ピュイー!」
腕に抱いていたルミナスごと抱き締められ、感動のご対面だった。
あのまま食堂で互いに号泣していると、慌てたギルドマスターがやってきて3階の執務室に通された。
そして今、涙でべたべたになった顔をお姉さんたちに拭いてもらい、ルミナスの真っ白ふわふわ羽毛をもふってマリオンはようやく落ち着きを取り戻したところだ。
「じいじ……ごめんなさい」
「ん? 連絡を寄越さなかったことは怒っておるぞ。だがお前が無事ならわしは」
「違う。じいじが送ってくれた希少素材、盗られちゃってるんだ。回収……できないと思う。多分もう売り払われたか使われたかしちゃったと……思う……」
マリオンが研究学園の滞在時に偽王子たちから受けた仕打ちは多岐に渡る。
支度金の横領、発明した魔導具の設計図の強奪、そして実家からの素材の横取り。
マリオンの祖父ダリオンは今でこそ冒険者ギルドのお偉いさんで故郷の国でギルドマスターだが、元は大剣使いのS Sランク冒険者で老いても実力は折り紙付き。
今でも出張先にダンジョンがあれば視察とうそぶいて潜っては採集や討伐報酬の素材をマリオンに持ち帰ってくれていた。
「わしが送った素材って、まさかアダマンタイトをか!?」
アダマンタイトはこの世界ではダイヤモンドの上位鉱物で、究極の浄化作用を持つと言われている。
お値段はありえないほどお高い。グラムあたり白金貨(約500万円)でも買えない。そもそも入手経路が謎で市場にほとんど流通しないことで知られている。
「……ルミナスを譲ってくれたおじちゃんとこのダンジョンのだよね? じいじが乗り込んでくるのも怖かったけど、あのハイヒューマンのおじちゃんが来るのは絶対阻止したくて、それで……」
「ピイイイィッ」
ああ~とその場の誰もが嘆息した。それは怖い。この世で一番怖い。
マリオンにルミナスを子守りドラゴンとして与えてくれたハイヒューマンは、かつては聖剣の聖者とも言われていた人物だが、なぜかまったく真逆の“魔王”のあだ名がある。
情の深く厚い人物だが、道理に反したことが大嫌いで、一度敵と認定した相手には容赦がない。
「結局こんなことになっちゃって、ほんと僕って役立たず……ごめんなさい」
「ピュイ……」
しょんぼりしてしまったマリオンの腕の中で、ルミナスがふわふわのお手々でマリオンを叩く。慰めているつもりなのだ。
「そ、それで、エドはどうなったかわかる?」
「あ、ああ。王子か。王子なら事態に慌てて対処に奔走してるぞーう」
「……僕に会いには来てくれないんだね」
「!?」
しまった、とダリオンは己の過ちを悟った。
(ヤベェ。エド君を殴ってミスラル持ってこいって言う前に、あいつ引き摺ってマリオンに会わせるのが先だった!)
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