もふもふほど癒されるものはない
親戚の魔力使いのお姉さんたち、ハスミンとガブリエラ姉妹は冒険者ギルドの宿泊棟の二人用の部屋を借りていた。
そこにマリオンは
「マリオン君、ベッド一台貸すわよ? あたしはお姉様と一緒に寝ればいいんだし」
「いくら親戚だからって女の人たちと一緒の部屋でなんて寝れないよ~」
「あら、さすが未来の男爵様。気遣いの紳士ねえ」
それでどうなったかというと、冒険者ギルド付属の二人部屋はツインベッドの寝室と簡易キッチン設備のある台所部屋があるので、台所部屋のほうにマリオンが居候することにした。
「三人部屋にグレードアップしてもいいのよ? 床に毛布だけじゃ辛いでしょ」
「ううん、大丈夫。僕にはルミナスがいるからね!」
「ピュアッ」
ひと鳴きして
「ルミナスがベッド代わりだもん~」
勢いよくルミナスのもふもふ真っ白の羽毛の中に飛び込んだ。ルミナスはこれまた、もふもふの両腕でマリオンをぽふっと受け止めて、もふもふの胸元の羽毛に抱き込んだ。
「て、天然羽毛……!」
「間違いないやつね。こりゃあお布団いらないはずだわ」
そう、もう気温もぐっと下がってきた11月、研究学園の狭くて暖房もない小屋の中で過ごせた理由がこのもふもふだ。
竜種の
マリオンを暖かく保護するのはお手のものだった。
その日はもう研究学園から逃げてきたばかりのマリオンは疲れてしまったと言って、部屋のシャワーだけ浴びてすぐルミナスの羽毛に抱きついて眠ってしまった。
みっしり詰まっていながらもふわふわのルミナスの胸元の羽毛に頬を埋めて、幸せそうにすーすー安らかな寝息を立てている。
そんなマリオンとルミナスを肴に、部屋の明かりを絞って、台所のテーブルでハスミンとガブリエラ姉妹はワインを開けていた。
「ふふ、かーわいい。寝顔は赤ちゃんの頃から変わってないわねえ」
室内に入ってシャワーを浴びる頃にはもう、あの瓶底のように分厚い眼鏡をマリオンは外していた。
眼鏡の下にあるのは、可憐でとても可愛い男の子の顔だ。
色白だが健康的でほんのり薔薇色に染まった頬、大きくて長い睫毛に彩られた、今は閉じられているが鮮やかな水色の瞳は澄み切った大空のよう。
遠縁のハスミンが一番似ているのだが、可憐な人形のようと褒められるハスミンよりずっと可愛い。
マリオンの出身、ブルー男爵家はこの可愛い顔立ちが特徴なのだ。
次に出やすいのは、鮮やかな水色の瞳。
ここ200年ぐらいはピンクがかった髪色になることが多い。マリオンや祖父のダリオン、それに亡くなったマリオンの母はピンクブラウンの髪色だった。
「顔を隠してまで、大好きな王子様の国に来たのにね。かわいそうなこと」
オリーブを摘んで、藍色の髪の姉ガブリエラが嘆息する。
マリオンの眼鏡を悪戯でかけた妹ハスミンは、その可憐な容貌が一気にボヤけている。マリオンの眼鏡は単純な変装用の魔導具だ。
本当なら家族はマリオンを実家の領地から出したくなかったはずだ。
本国の王都の学園への入学も渋っていたぐらいで。
可愛すぎて危険な目に遭うことがあまりにも多い。それが、祖父ダリオンがマリオンを溺愛する理由のひとつだった。
とはいえ、祖父のダリオンが必死に伝手を辿って、王女や騎士団長の息子らを友人にすることに成功してからは、国内でなら身の危険はなくなった。
マリオン自身、学園在学時は自衛の手段と力をそこそこ身につけて、自分で変装用の魔導具眼鏡を開発するに至っている。
「両親が生きてらした頃は守ってあげられたけど、亡くなった後はやっぱり誘拐の危険が多かったのよね」
「可愛いからもあるし、ダリオン君が冒険者ギルドの上役ってのも良くなかった。ダリオン君の弱点として狙われまくってた」
「ピュイッ」
まだ起きていたルミナスが姉妹に向けて小さく鳴いた。
「そうね。ルミナスがマリオンの子守りになってから危険はぐっと減ったそうじゃない」
「ピュイッピュイッ」(これでも
ムフーとルミナスの鼻息がちょっと荒い。
生まれた時期こそマリオンの後だが、ルミナスにはこれまでマリオンを守ってきたという自負がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます