故郷と新聞社にお手紙書きます

「こういう場合、どこの誰に訴えたらいいんだろ」


 陰謀というより、マリオン的には詐欺に巻き込まれたような状態だ。


 そもそも、わざわざこの国の王子から頼まれたからこそ来てあげたのに、お手当ては最初に旅費が送られてきたのみ。

 この国に来てから支払われるはずの支度金や、研究学園での特別講師としての報酬も現在まで銅貨一枚たりとも支払われていない。


 ちなみに特別講師に就任するにあたって、故郷にいた間に手紙のやり取りで契約書は交わしている。

 マリオンは既に独立した魔導具師で、いくつもの開発品で賞を取った若手の有望株。本来なら月に大金貨5枚(約百万円)の報酬が支払われるはずだったのに。


 それにマリオンはこの国は初めての来国で不慣れだから、世話人ぐらい付くのかと思ったら、それもなし。

 そのせいで、いまだにタイアド王国という国の事情に疎いまま。


 王宮に手紙を出しても返事はなかった。

 この国の王都の魔導具師ギルドもちょっと怪しい。

 やはり他国なのでアウェー感は否めないということか。


「マリオン君、この国じゃまだ無名なんでしょ? 自分の手に余るなら、故郷のおじいさまを頼ったほうがいいと思うの」

「でも。じいちゃん、ギルマスで忙しいから」


 マリオンの母方の祖父は、故郷の国の冒険者ギルドの支部でギルドマスターをやっている。

 マリオンのブルー男爵家の一族は商人やマリオンのような魔導具師が多いのだが、この祖父だけは身体も大きくて力も強い大剣士として名を上げていた。


「後で隠してたことがバレて怒られるのと、自分から伝えて助けてもらうの、どっちがいいの?」

「……手紙書くよ」


 家族への現状説明はそれで良い。

 では、この国では誰に文句を言えばいいのか。


「探偵ギルドに依頼出す?」

「そんなお金ないよー」


 あったら安い野菜の煮込みじゃなくて、お高めの肉の煮込みを食べている。


「ピュイッ?」(もっとぼくの羽いる?)

「ハゲてもいいぐらいむしってもいいなら貰うけど」

「ピャッ!」(やだー!)


 どちらにせよ、帰国するための旅費を稼がないと出国もできない。

 綿毛竜コットンドラゴンのルミナスに乗ってひとっ飛びできたら楽なのだが、まだ成竜になりきっていないから長距離飛行は難しかった。


 一応、低ランクだがマリオンは冒険者登録して冒険者証を持っている。

 冒険者証があって、任務達成記録が基準値に達していれば冒険者ギルドの宿泊施設を安く利用できるから、しばらくは日銭を稼ぎながらお金を貯めるつもりだ。




「……そういえば昔、西の小国で王族の暴露記事を披露した聖女がいたわね」


 新聞を見てガブリエラが思い出したように呟いた。


「何それ?」

「昔、聖女を虐げた愚かな国の王族がいたのよ。辛い思いをした聖女は気持ちを整理するため、紙にそれまで自分が経験した出来事を書いたの」

「そうそう。捨てるはずの広告の裏紙にね。そしたら後に聖女の恋人になった男がゴミで燃やさないで新聞社に送りつけたわけ」


 この世界では、新聞は比較的公正で、中立の立場を保っているメディアだった。

 聖女の書き付けを見た新聞社は、聖女を虐げる王族の非道を丸ごと掲載し連載した。

 結果、その国の王家は潰れて、王国から共和制の国になったという。


「新聞かあ。僕、月刊の魔導具師会報しか読まないからなあ。新聞社に僕の状況を送ったら掲載してくれるかな?」

「その国の国民が知るべき内容だと編集長が判断した記事なら、子供が書いた投稿でも載るわよ」

「じゃあ、じいちゃんに送る手紙と2通書いて出してみるよ。僕みたいな一市民のトラブルなんてスルーされると思うけどさ……」


 などと言っていたら数日後、まさかの全文掲載されて王都を震撼させることになろうとは。



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