学校で一番かわいいオオカミさんの弱みを知ったら、避けられるどころか懐かれてしまった~恋愛は不要だと言うくせに、彼女は友達以上の距離で接してくる~
光らない泥だんご
プロローグ 学園天国
「朱莉はさー、彼氏ができたらどこに行きたい? あ! 彼氏ができたらダブルデートとかしようね!」
「はいはい、分かったから……少しは落ち着きなよ?」
「もー、なんで朱莉はそんなに冷静なの? 朱莉だって校則が変わって嬉しいでしょ?」
「そりゃあね。私だって恋愛したいし、彼氏もほしいけどさ、何かイメージつかなくない?」
「朱莉くらい可愛かったら、そっこーで彼氏できるって! 今までだって告白されてきたんでしょ」
「ま、まぁ……」
あははと、朱莉と呼ばれた女子が苦笑する。
どことなく居心地悪そうに見えるのは気のせいだろうか。
おそらく、教室がシンと静まりかえっていることが関係しているのだろう。聞き耳を立てていると言ったほうが正確だろうか。男子生徒たちは息をひそめて、二人の様子をジッと見ていたのだ。
「じゃあさ、じゃあさ、どんな男子がタイプ?」
友達の質問に少しだけ悩んだ後。
「優しい人かな……?」
耳に届くか届かないかの小声だったが、男子達にはバッチリと聞こえたようだ。
「実は昨日、落ちてる小銭を交番に届けたんだよ。俺って優しい人だからね!」
「へー、奇遇だな。俺もさ、近所の人からよく言われるぜ。君ほど優しい人間はいないってね」
「そんなもんか、お前ら。まだまだ甘いな。俺くらいになると、抑えてても優しさってのがあふれてきちゃうからな」
途端に始まる優しい人アピール合戦。聞き耳を立てていた男子生徒達を中心に行われている。
「何言ってんだテメェ! 落ちてたお金でジュース買ってただろ!」
「そっちだって、近所の人間から優しい人間なんて言われたことないだろ!」
「醜い君たち、喧嘩はよさないか? どうだい、ここは優しいことに定評のある僕が──」
「「今のお前のほうがよっぽど醜いぞ!」」
「あんだと、おまえらーっ!」
ぎゃあぎゃあと、じゃれ合っているのか、言い争っているのか。微妙なところだが、おそらくじゃれ合っている範疇なのだろう。チラチラと周囲の女子達を見ているあたり、ウケを狙ってもいるようだ。
なお、そんな男子達を女子達は呆れたような目で見ており、効果は薄そうだが。
(うちのクラスはバカな奴ばっかりなのか……)
そして、男子の中にも呆れたような目で見ている生徒が一人。名前は
(そんなにいいもんかねぇ……まぁ、本人の勝手なんだけどさ)
ほほ杖をつきながら、一枚のプリントに視線を落とす蒼太は静かにため息をつく。
書かれている内容は、校則変更について。
ツーブロックやポニーテールの禁止、下着やインナーシャツの色の指定など、時代錯誤だという理由でいくつかの校則が撤廃されたのだ。
そして、撤廃された校則の中に、ひと際生徒たちの心を躍らせたものがあった。
恋愛禁止だ。
実際の所、教師に隠れていただけで数人の生徒は彼氏・彼女を作っていたのだが、学校でも一緒にいられることに喜んでいた。律儀に校則を守っていた生徒だって、これからの期待に胸を膨らませている。そんな解放感もあって、学校全体が文化祭や体育際のような雰囲気になっていた。
そんな中、蒼太だけは違った。みんなが浮かれている中、蒼太だけは何も変わらなかった。
興味があるのは自分の成績だけで、それ以外はどうでもよかったのだ。
(まぁ、これであいつの成績が下がってくれれば俺が一番になる可能性も……)
そんなことを考えていると、
「みんな座るさねー、HRを始めるよー」
蒼太のクラスの担任の先生が教室に入ってきた。
「二年生になって多少は落ち着いてきた頃さね。そろそろ、アンタらが楽しみにしている席替えをしようじゃないか」
『席替え』という言葉が聞こえた瞬間、わっと静かにだが、教室中から歓声が漏れた。特に男子生徒達は分かりやすい。みんな目の色を変えている。中には、神に祈るように手を合わせている生徒だっていた。それぞれの頭の中にあるのは、可愛いあの子と、気になっているあの子と、隣の席になりたいだろう。
「くじを用意してきたので、一人ずつ引くように。分かってると思うけど、くじの交換とかはダメだからね」
箱に入ったくじを生徒達が真剣な表情で引いていく。そして、蒼太の番が回ってきた。
(どこの席でも構わないけど、あの二人の近くは嫌だな。うるさそうだし)
あの二人とは、蒼太が聞き耳を立てていた女子生徒達のことを指す。
蒼太のクラスどころか学校でトップ3に入る美少女二人。
特に朱莉は人気が凄かった。蒼太のクラスどころか、学校一の美少女と言われている。クラスメイトの名前どころか、顔すら疎い蒼太でも知っているくらいだ。
実際朱莉は成績優秀で料理上手。それを誰かに自慢することもなく、謙虚で大人しい性格らしい。だが友人の唯にだけ、よく笑ってはしゃいでいるとか。彼氏もいないからか、そんな彼女の一面に夢見ている男子は多いようで。
これだけのものが揃っているのだから、モテるというのも頷けるものだ。
近くの席になれば、人が集まって騒がしくなる。勉強に集中する環境を考えると邪魔にしかならない。
(ま、あの二人と近くの席になるなんてありえないだろうけど)
そんな可能性を少しでも考えた自分に苦笑しつつ、蒼太もくじを引く。黒板に貼られた座席表を確認し、くじに書かれた番号の席に向かう。
場所は、一番後ろの窓側の奥の席だった。
ぽかぽかと心地の良い春陽がさしており、そよそよとなびく春風にカーテンは揺れている。
(これは当たりの席だ、幸先がいいな)
自然とほほが緩む。
しかし、自分の目の前に座る女子生徒を見て、固まってしまった。
「えーと……確か、八木君だったよね? 私、日向唯って言うの。あ、気軽に唯って下の名前で呼んでくれていいからね。よろしくー!」
パっと弾けるよう笑顔で挨拶してきたのは、蒼太が近くになりたくない女子だったからだ。
「ああ……うん」
気持ちを立て直して、蒼太はなんとか返事をした。
(まぁな、一人くらいならそういうこともあるってもんだ……うんうん)
しかし、蒼太にとっての不幸はこれだけで終わらなかった。
「あ! 朱莉の席って八木君の隣なんだ。近い席になるなんて運命みたい!」
「もーう、唯は大げさだって。それに、八木君だってそんなこと言われたら困るでしょ」
「そんなことないって。ねー、八木君。仲良くしようね!」
楽しそうにじゃれつく二人を見て、蒼太は苦々しい笑みを浮かべることしかできなかった。
(くそったれ……)
手に持ったくじをぐしゃっと握りつぶす蒼太は、心の中で自分のくじ運のなさを呪わずにはいられなかった。
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