サッカーで飯を食っていく。

@manato33

第1話

u12全国サッカー選手権大会長野県大会決勝



今日はいい天気だ。空から太陽がジリジリと人工芝を照りつけ、スパイクから足の裏へと熱が伝わってくる。

額から顎に垂れてくる汗をユニフォームの袖で拭う。

この人工芝特有のゴムの匂いとピリピリした雰囲気を感じると緊張で口が渇き吐き気がしてくる。それを必死に耐えていると、横にいるキャプテンの羽田智也が話しかけてきた。


「おいおい、一輝(かづき)。緊張しすぎだって!そりゃ決勝戦だから緊張するのはわかるけどさ、なんか病人みたいになってるぜ?」



「う、う、うるせぇ。緊張なんかしてねぇよ!今必死に昨日見たエロ動画おもいだしてんだよ!黙ってろ!」


「いや、なんでだよ、それじゃアソコまで緊張しちまうじゃねぇか!」


そんな俺たちのやりとりに周りの仲間たちが笑う。

俺も少しは気が紛れた。どうにも試合前になると緊張してしまう。このあがり症どうにかならないかな…


そんなことを思っていると監督が声をかけてきた。


「おい、お前たち。バカなこと言い合ってないで準備しろよ。レガース、爪、スパイクの紐なんかちゃんとチェックしろよ。もうすぐ呼ばれるからな。」


「「「はい!」」」


それぞれ準備をしていると、審判から声がかかった。


「それでは両チーム整列してください。」


その後、チェックを終えて主審の声でピッチに入り、相手選手と握手をし、円陣を組む。コイントスをしているキャプテンを待っているとキャプテンが円陣に加わってみんなに言った。


「キックオフはこっちから。コートはそのままだ。みんな、この決勝戦、相手は強いが、普段やってることができればいい勝負ができるはずだ。気合い入れていくぞ!」


「「「おうっ!」」」


円陣をとき、それぞれ8人がそれぞれのポジションにつく。


俺のポジションはトップ下だからポールを持ってセンターサークルに向かう。そこでふと観客席を見ると、ヘニャヘニャっとした頼りなさげな笑顔のの父と、キリッとしたクール顔な母が

笑いながら俺を見ていた。少し恥ずかしいけど、応援に来てもらって嬉しいと感じた。


相手チームも準備が整い、主審が笛を吹く。


ピーッ


僕がボールを後ろに転がし、試合が始まった。



試合の展開は相手チームに押される形で進んで行った。


相手チームのfc長野は全国大会常連のチームで全員のレベルが高い。


細かいパスで狭い盤面を潜り抜け、シュートを撃たれたり、相手エースの駒沢がドリブルで二、三人を抜き決定機になった時もあった。


僕らのチーム伊那fcはそれでもキャプテン智也を中心に真ん中をガッチリとかため、サイドに振られた時はやられる場面もあったが、何とか耐え忍び、前半は0ー0の同点で終わった。


ハーフタイム。


僕らのベンチでは監督がこのような指示があった。


「前半はよく耐えた。後半も敵はそのままの勢いでくるだろう。苦しい展開になるが、相手もバテてくるし、絶対に集中力が切れる。特に相手ディフェンスだ。前半もたまに切らしている時があったから、そこを見逃さずにカウンターだ。一輝、響に裏にボールを出してスピードでぶっちぎれ。相手DFは足がそんなに早くない。必ず行けるぞ!」


チームでも抜群に足が速い俺と左サイトハーフの左利き、響の名前を出して指示を出した。


後半


依然として試合展開は攻め込まれている。さすがは全国常連。なかなか集中力が切れず、守備ばかりの僕らは体力も削られていく。シュートの本数も相手は十一本に対して、こっちはロングシュートの2本のみ。


そろそろ試合時間がなくなってくる後半二十分、相手のパスをカットした智也が偶然少しバテていて、高めの位置にいた俺を見て裏へ出す。

きた!

そう思った俺は自慢の俊足を活かして相手DFを置き去りにした。

キーパーとの1対1の場面。

キーパーはシュートコースを狭くするために前へ出てくる。

どうする…股の下か、それとも右ヘ大きくかわすか、後ろからもDFがあってきている…

俺は迷えば迷うほどミスするだろうと思い、一つキックフェイントをし、ゴールキーパーの体勢を崩し、そのうえをつま先でボールをループ気味に蹴り、ゴールに決めた。


うおぉぉぉぉぉぉ!

よくやった!

ナイス!


チームメイトが僕に駆け寄って頭をタコ殴りにしてくる。

一通り祝福し終わって智也が言った。


「よし!後五分、集中切らさず守り切るぞ!」

みんながそれに応える。

「おうっ!」


残りの時間は相手も必死になって攻めてきた。しかし僕らはボールを持ったら、相手陣営のコーナーフラッグ付近にボールを集め、徹底的に時間稼ぎをし(ハーランドがやるやつ)、守って行った。

監督も大声で指示を出し、観客の親たちも応援だか、悲鳴だかよくわからない声をだし、大盛り上がり。そして…



ピッピッピッー!



主審が試合終了の笛を吹いた。



よっしゃー!!!

よくやった!!!

ブラボー!!!

抱いて!?!



観客席から聞こえてくる。

ぼくもチームメイトと一杯喜んだ。



試合が終わり監督がみんなを集めて言った。


「みんなよくやった!苦しい試合だったが、よく頑張ったな!一輝もよく決めたな!今夜は監督の奢りで焼肉行こう!」


やった!とチームのみんながよろこぶ。


こうして僕らは全国大会への切符を手に入れたのだった。










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