たぶん知らないけど

水瀬彩乃

第一話 恋を知る

「それでさ〜でね〜」

「うん、うん。」


友人の晴夏の大して面白くない話に馬耳東風。

でも、相槌を打ってにこにこ笑ってないと、こんな贅沢な日々が壊れてしまう。


「凛花は話聞いてくれるから好き!」

「ありがとう。」


これでいい。

本当に話を聞いているかどうかは、本人次第。

私も晴夏もWin-Winな関係を築けるから。


私も大好きだよ、晴夏。


ーー

「凛花、ちゃんと薬飲んでる?」

「あぁ、うん。」


お母さんって心配性だ。

無理に笑ってる私に気づいたのか、精神科に連れて行ってくれた。

そこで何かが変わったということもなく、普通に薬だけもらった。精神安定剤。


「そういえば、晴夏ちゃんは元気?」

「晴夏?まぁ、うん。」

「そう。晴夏ちゃんはあんたにも優しくしてくれる子なんだから。」

「うん、うん…わかってる。」


晴夏の家とは家族絡みの付き合いだ。

妹は晴夏の妹と仲がよい。


だからこそ、喧嘩なんかしたら大変だ。

あと、もう少しの辛抱なんだから。


ーーー

3月。

卒業式のリハーサルも終え、中学生最後の授業日。


「おはよ、凛花!」

「おはよー、晴夏。」


クラス全体がそわそわしていて、晴夏もそうだった。

席が隣同士なのもあって、いつもはHR前はずっと話している。でも、今日は違う。

晴夏はなぜだか顔を赤くしながら、無言でこちらを見てくるのだ。


「は 晴夏?どうしたの?」

「あっ!ごめん、ちょっと用事があって!!!」

「あっ…」


椅子をガタン、と勢いよく入れ教室から出て行ってしまった。

何があったのか、私も知らない。


「内野って晴夏ちゃんと仲いいよね。」

「え?」


学ラン姿の冴えない男子が寄ってくる。 高橋くんじゃないか。内野は私の苗字だ。


「まぁ、そうだけど。」

「俺、晴夏ちゃんに告白したいんだよね。」

「………そうなんだ。」


晴夏かわいいもんね。

たぶんだけど、「彼女にしたいランキング」のアンケートを取ったら1位になるタイプだ。


「勇気が出ないから、一緒に付いてきてほしい。」

「なんで私?高橋くん友達いるじゃん。」

「振られたらどうすんだよ。」

「……」

「内野が口堅いのはよく知ってるからな。人間関係崩れるの怖いんだろ。」

「……なんで。」


高橋くんとは義務会話以外喋ったことないけど、意外と人のこと見てるんだ。


「とりあえず、協力してくれよ。」

「いいけど。」


「り 凛花…と、高橋くん?」


丁度いい。晴夏だ。

本当に顔が真っ赤になっている。


「あー、晴夏。高橋が…」

「ま 待って待って!」

「高橋くん?どうかしたの?」

「う ううん。何でもないよ。」

「そう!2人が一緒なんて…珍しいな!」

「そうかな?」

「うん。凛花が私以外の人と楽しそうに話してるの見たことないから!」

「えっ、みえる?」

「見えるよ!面白くなさそうなときはすぐ分かる。」


自信満々にそう答える。

なんだ、バレてんじゃん。


でも、私は晴夏の話を面白いと思ったことなんて…


つまらない授業が6回繰り返され、放課後。

教室に居残る人は誰もいなくて、皆部活だ。


「晴夏って何部なの?」

「私?吹奏楽部だよぉ〜!」


ケースをぐいっと持って歩く。

私は何にも入ってないから、こういうの憧れるな。

実際のところは知らないけどね。


「内野、」

「よぉ高橋。どしたの?」

「どしたのじゃねーよ、今日告白すんだから。」

「あー…」


やけに顔が赤いのか。

本当に晴夏のこと好きなんだなー…と複雑な思い。


ん?いやまて。

複雑な思いってなんだ?

普通に親友の幸せを祈る、だけではダメなのか?

えっ…晴夏に嫉妬してるのか? 

高橋に告白される晴夏を?


「どうしたんだ?内野。」

「あっううん。告白頑張って。」


この思いに気付いてしまったら、もうここには居られない。


「いや、まて。今日告白すんだから一緒に告白の計画立てるぞ。」

「え?」


放課後の教室に2人。

しかも、もしかしたら好きな人と。


「女子のお前に質問する。理想の告白シュチュエーションを教えろ。」


真剣な表情。

理想のシュチュエーションなんて考えたことなかった。普通の女子の考えを!


「えーと…体育館裏での告白なんかどう?」


少女漫画にありそうな、ありきたりな答え。

それに満足していないようで…


「そういう普通なのは違う。内野の考えが欲しいんだよ。」

「私の…?」


もし、高橋くんに告白されるなら…


小鳥が囀る中、木陰に隠れたベンチに2人。

軽く談笑して、不意に「付き合わね?」と言われる。なんかいい。


「ー…って、そんな場所どこにもないけど!」


小鳥も囀らないし、木陰に隠れたベンチなんてないし、高橋の様子で談笑できるとも思えない。


「…いや、いける。」

「え!?」


高橋の考えはこうだ。

私が木の裏に隠れ、小鳥の囀り音声を延々と流す。

木の下に、椅子を置いてベンチを再現。

談笑はしりとり。


「…どうだっ!完璧だろっ!」

「しりとりは気になるけど…まぁいいと思う。」


違和感はありまくるけど、これでいいの。

どっちに転んでも、私に出る幕はないし、受け止めるつもりはある。


「…内野、ありがとーな。」

「うん、どういたしまして。」


これでいい。

これでいいんだよ。


これが普通の高校生だ。


「なぁ、やっぱ気持ち変わった。」


「えっ?」


誰もいない教室で。

好きかもしれない人と告白の計画を練っていた。


ただ、それだけなのに。


私の唇は、奪われた。

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たぶん知らないけど 水瀬彩乃 @hitorichan

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