第10話 聖護治癒院の歴史と治癒士の少女

ユベル宮の宝物庫の戦いから数時間後、休息を取った俺は書庫から持ってきた何冊かの魔界帝国の歴史書に目を通した。


前世から歴史が好きだったのでお兄さんワクワクしてしまう!


「何から読もうかな、【魔界帝国帝立フェネークス聖護治癒院の歴史】か。リーネが確かここの施設で治癒師やってるって言ってたな。読んでみるか」


リーネは俺の部下になった治癒術の女の子だ。彼女は魔族であるが魔族が得意としない白魔術 所謂、治癒術や回復魔法が得意だ。

俺の部下は攻撃主体なので支援役は頼もしい。

それは置いといて本を読むとしよう。


♦♦

帝立フェーネクス治療院は呪術、厄災、怪我、感染症などの病の治療機関だ。

魔界にも病院や治療院といった施設はあるがそこでは治癒出来ないものがこのフェーネクス治癒院を訪れる。


そもそも魔族は呪術 衰弱 疾病といったものには強い耐性を持ちそれらの影響を受けることは無く風邪なんて言葉がない程の種族が魔族だ。


それではなぜ、当院が設立したのかその成り立ちに至るまでの経緯を記そう。


かつては魔界に回復魔術や治癒術の知識は一切なかった。

魔族は戦争を好む種族で絶えず魔界帝国の君主の座を巡って戦争が絶えなかった。

だが、戦争で怪我を負ったとしても呪いをかけられても強力な自然治癒力で傷は治るし大魔神の加護で災厄や呪術を受けることは無かった。


だが、そんな状況が変わったのは今から8000年前に起きた第3次人魔戦役での事だ。


魔王軍が人界完全征服を目的とする3度目の大戦役で魔族は初めて【病】に出会った。

最初、魔族は呪いと思い自らの力で解呪しようとしたが無駄だった。【病】が流行りだした時既に遅し魔王軍は『感染』により弱体化し人族の勇者や英雄によって壊滅状態になった。


人界では天上神族の力が強く大魔神の加護は魔族に効かず強力な自然治癒力を魔族は発揮出来ず未知の疫病や戦傷の前に魔族は大いに苦しめられた。


苦境に立たされた魔王軍はある種族に助けを求めた。

その種族の名は【邪仙】 厳密に言えば種族の名前ではない。

元々は人間だったものが修行を重ねて神や精霊の力を得て悟りの境地に達し不老の身体と高度な魔術を身につけた神に近しい存在【仙人】の

中でも邪な考えを持ち魔性を得た仙人達の総称だ。


かねがね、魔族との誼を持とうと考えた邪仙の長老【ミンイン・シフン】は魔王軍人界攻略軍大将軍【ゼルムド・バルバディス】に話をもちかけた。


「我々、邪仙達は魔族の味方であります。我々は持ちえる全ての叡智をもって閣下と魔王軍将兵をお助けします。お助けした暁には我が同胞と魔王軍に味方するもの全てを魔界に住まわし魔族としての地位と身分を子々孫々保証すると誓約してください。魔族に有効な回復魔法と治癒魔法を教えよう、医学書も授けるし人界にいる魔族に協力する種族の長も紹介しましょう」


この提案はゼルムドにとっては好機でしかない。だが、老獪な邪仙のしかもその長老だ、裏があるに違いないとゼルムドは悩んだ。

ゼルムドの考えが正しければこの苦境は乗り越えられるが失敗すれば魔王軍は全滅しゼルムドは一族郎党、敗戦の責を問われ処刑される。

ゼルムドは不安を払拭するため魔王軍人界攻略方面軍参謀長であり魔神教大司教である【マルキアス・ナザベディ】に相談を持ちかけた。


「ゼルムド、お前は魔王軍総司令官の地位にある。陛下より絶対忠誠をさせることが出来るアーティファクト 【魔誓血盟】ゲッシュ・サクリファを託されたのであろう?

「あまり使いたくないが同胞のためだ、やむを得んだろ。」|

ゼルムドはシフンの取引に応じて医療知識、治癒魔法、回復魔法を得た。

もちろん、【魔誓血盟】ゲッシュ・サクリファを使い邪仙を従えたのだが……。


ゼルムドはマルキアスの功績に酬いるため魔神教にのみ治癒魔法・回復魔法の術式と解呪法の使用、医術書の研究・教育の独占を認めるよう皇帝に上奏させ認めさせた。


無論、邪仙を含む人界にいた魔族に協力した種族を魔界に住まわせたことは言うまでもない。



この第3次人魔戦役から2000年後、ドラガルフォン朝魔界帝国体制成立によって魔神教による回復治癒魔法、解呪法、医術の独占は禁止された。

ドラガルフォン朝以前の治癒院は高額な『お布施』を納めさせて治療させたが無料開放とした。


歴史書にはまだ続きがある。


「ドラガルフォン朝魔界帝国初代皇帝 ズメイ・トゥーガリオ・バール=ドラグ・ドラガルフォン始祖大帝陛下の御親友で大賢者カイナ・イフリーテア=フェネークス公が人界に赴いて医術を修め大量の医術書を持ち帰り医師や治癒士を育てあげた。

今では全ての治療院と病院で治癒と治療が受けられるのです。ズメイ始祖大帝陛下のおかげである。」


その後は治癒院の実績、歴代院長の事績といったことが書かれていた。


「ち、治癒院のこと気になりました?」

「ふぇっ!?なんでリーネが俺の部屋に?」

「こ…皇后陛下よりあ…アンリマン殿下に...か…簡単なか…回復魔法とち…治癒術をお...教える...よ…ようにい…言われてま……まいりまひた!」


急に耳元で声がしてびっくりした俺は後ろを振り返ると今にも消え入りそうに震えている子羊のような少女がいた。

彼女は我がパーティーの治癒士 【リーネ・コボルト=ラピス・アメジシア】だ。


彼女の特徴を述べると銀髪のミディアムヘアで紫水晶アメジストのように深い紫の瞳をしていてどこから薄幸なオーラを感じる。人見知りだろうか、言葉も少しどもっている感じだが守りたくなるような透き通って可愛らしい声だ。


「母上がそのような事をいったのですね、調度私も回復魔法や治癒術について学びたかったんです!」

「そ、そうなんですか!そ、それは良かった……です!」

「リーネ、それと僕のことはアンリマン殿下でなくてアンリでいいよ」

「そ、そんな……おお、畏れ多いこと…です…。」

「気にしないでいいよ!僕たちは共に旅する仲間になるんだしさ」

「わ、分かりました…アンリ…殿下…。」


緊張しているのかまだどもっているが確かにアンリと呼んでくれて嬉しかった。

彼女なりに勇気を出したのだ。前世の自分だったら1時間はかかるかもしれない。

しかし、リーネはずっと何かに怯えているかすごく緊張をしている感じがかなり伝わっている。

俺が帝国の次期皇帝たる皇太子と話すのは確かに緊張する。

またもや前世の自分なら感激のあまり気絶するだろうとアンリは考える。

確か、アリサから「緊張している相手の緊張を解いてコミュ力を高める魔法を教えますね!」と言われて無理やり教えて貰った魔法があったな、試してみるか。


「なぁリーネ、ちょっリーネに使いたい魔法があるけどいいか?」

「は、はい!アンリ殿下の命であ、あれば!」


胸の前でガッツポーズをし 一生懸命に答えるリーネを見て少し罪悪感を覚える、だがリーネの明るい笑顔が見たいんだ。


「 光の女神よ、太陽の光の加護の下に汝の前にて震える者を救い給え!シャインスマイレート!」


リーネを包み込む輝きが放たれた。


「大丈夫かリーネ!?」

「はい!大丈夫ですアンリ殿下!あれ?緊張が解けてきました〜ふえ〜」


急に床にへたれこんだと思ったらふにゃふにゃした可愛らしい笑顔を見せた。


魔法は成功したんだ!やったぜ!

だが、安心はつかの間、リーネは立ち上がり回復魔法が書かれた魔法書を持ちながら俺に迫る。


「アンリ様、そういえば回復魔法を教えなければいけません!いいですか!?」

「その前にリーネのことあまり知らないし俺の事も知らないだろ?お互い自己紹介しながら回復魔法を教えてくれないか?」

「た、確かに言われて見ればそうですね。わかりました!」


俺とリーネは宝物庫の戦いで知った仲だ。彼女の感じは何となくわかるがどんな性格で素性なのか分からないことだらけだ。


「では、私から自己紹介致しますね」


リーネは魔法書を開きながら自分のことを語り始めた。


リーネ曰く父が大貴族の血を引く魔人で母がハーフエルフだそうだ。未だに父の家門がどこなのかは不明だが母がリーネに託した手紙によると帝国72家門のいずれかの家に属しているそうだ。

魔界に住むエルフは皆ダークエルフと思う人も多いが実際には人界や精霊界などの他の世界から何らかの理由で自分が住む世界を追われた普通のエルフや他種族との混血であるハーフエルフは保守派が多い精霊界では住みにくいようでドラガルフォン朝帝国政府の他種族保護政策によってリーネの母は保護されていたがリーネが5歳の時に亡くなり帝立フェネークス孤児院で養育された。

12歳の時にリーネは養父であるコボルトに引き取られたのだとか。


「リーネって元々、コボルトとエルフのハーフじゃなかったのか。てっきりコボルトとエルフのハーフだと?」

「わ、私は本当はコボルトの血は引いてないんです。エルフの血は引いていますがコボルトは育ての父なんです」

「なんか、変なこと聞いてごめん。気悪くしたら申し訳ない。」

「そ、そんなことありません!リーネも自分のこととか分からなくてほとん孤児院で育ったので……でもお父さんは優しいです!」



リーネは孤児院の話をしてくれるが基本的には楽しかった話だが話す時に不意に神妙な面持ちや少し目を逸らしたりする。

厚い待遇が受けれる孤児院と言っても辛い過去を歩んできたのかもしれない。

リーネが背負う薄幸なオーラはそのせいなのか。

つくづく自分が前世の時から空気の読めない性格だと言うのを痛感する。

皇太子でなければリーネからの好感度は激下がりだろう。コミュ力をつけていけねばならないな。皇太子だし。


「リーネありがとう!特級の回復全部覚えれたよ!」

「い、いえ、アンリ様の方が凄いです!む、無詠唱で回復魔法を使える魔族がいるなど聞いたことはありません。聖人や神、そして神に使える天使ぐ、ぐらいですから……で、でも皇帝陛下も皇后陛下を始めとする皇族方は出来ますので魔皇種となられた方々は出来て当たり前ですよね。」


魔族はこれまで回復魔法を必要としなかったのはリーネから教えて貰った。

だが、時が経つにつれて魔族も回復魔法が必要になると回復魔法や医術の研究が盛んに行われた。その中で他の世界で学ぶ魔族は多くいる。無論、魔界に住む魔族以外の種族も学んだ訳だが彼らを持ってしても回復魔法だけは無詠唱で使えなかった。

元々は魔族と敵対する神々や聖霊由来の術だからだろうと結論付けられている。

アンリの体質はどうやら特殊らしく魔術だけでなく精霊術、呪術、霊術、妖術も無詠唱で頭の中でイメージするだけで発動でき魔力も無尽蔵にあるから攻撃魔法連打やかみ強力な王式合体魔法が使える。

転生の影響なのか、同じ秘術を受けたユノアとの魔力総量だがユノアの方がアンリより下回っている。



「でも、孤児院のみんなは優しくしてくれるし聖護院の治癒士の皆様も優しいです、あ、アンリ様の方がもっと優しいです!」


突然の褒めはお兄さんびっくりしちゃうよ!?

リーネの顔を見ると憧れ視線というか好きな人が出来た女の子の顔をしている気がする。

アンリは客観的に自分を見つめ直すと普通にその考えは気持ち悪いので胸にしまって置くことにした。


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