第2話 魔界皇太子のお出まし

魔界帝国 帝都 「アザルカント」魔皇宮殿 ユベル宮。


「うんぎゃー!おんぎゃー!」


魔界帝国にして魔界大帝が住まう居城の一室で1人の赤子が泣いていた。


「アンリ殿下、お食事の時間ですね~お待ちください」

角の生えた茶髪のメイド服をきた美しい若い女性が急いで食事を持ってきた。


「はい、あーん♡」

美人にアーンされてにやけ顔になっている赤子の正体は逆恨みから殺されてしまい前世では平凡でなんのとりえもないアラサーフリーターの俺。


何故か魔界を統べる魔界大帝の皇太子「アンリマンデモス=ドラグ・ドラガルフォン」として転生した。

俺は今、幸せの絶頂にある。


「殿下はよくお食べになりまちゅね~メイド長のメリッサは感激ですわ!」

俺の専属メイド長のメリッサは俺の汚れた口を拭き妖艶な桃色の唇を俺の頬にキスして頭を撫でた。


最初は夢ではないかと何度も疑った。

自分の顔を何度もつねったけど目から覚めることはなく夢であると確信した。

夢であればどれだけ良いか……という心境ではなかった。メリッサを始めお世話係のメイドは皆、魔族の美少女か美人だった。

お胸も大きく可愛いケモ耳や獣や悪魔の尻尾生えていたりが翼が生えていたりと天国にいるような感じだった。


まぁ、ここは魔界なんですけどね。

しばらくすると部屋のドアの前で綺麗な女性の声がした

「メリッサ入りますわよ、よろしいですか?」


「はい、皇后陛下。どうぞ、お入りください」


俺にご飯をあげた時の可愛らしい赤ちゃん口調から厳しい口調になったメリッサは部下のメイドに部屋のドアを開けさせ深く頭を下げた。


「皆の者、大儀であるぞ」

部屋中のメイドが深く頭を下げ6人の女官を従えた気品溢れる女性は俺の方を振り返ると

「アンリー!今日も可愛いですわね~!」


黄色い声を上げてベビーベットにいる俺を思いっきり抱きしめた。

彼女こそ魔界大帝皇后 ドロテーア・ジャヒー=ドラグ・ルサルカリア=ドラガルフォン。


この魔界でNo.2の実権を持つ魔族で俺の実母だ。

腰まで届く長い銀髪と血のような赤眼、そして2本の龍の角を持ちナイスバディな2つの果実を持っている恐らく魔界で最も美しい魔族だ。


「あ、うぁ…」


まだこの体は言葉が上手く発せられないせいでドロテーアの胸に挟まれながら抱きしめられた。


いかん、嬉しいけど結構苦しいぞこれ。


「本当に可愛いでちゅわアンリ!ずっと赤ん坊のままで居させたいけど〜そろそろ言葉とか喋らせないと良くないから陛下に聞いてみましょうか」


ドロテーアはまだ少し泣いている俺に何度もキスして抱き抱えながら再びお付きの女官を連れて魔界大帝が居る大広間に向かった。


それにしてもそろそろ言葉とか喋らせないといけないってなんだろ?

俺の体感時間的には1ヶ月経ったぐらいなんだが。


走行している間に玉座の間がある大広間に着いてしまった。



魔皇宮殿 ユベル宮 玉座の間 正式名称 ヴリトゥラーナの間

宮殿内で最も広く豪奢な部屋であり部屋の隅にはリリュークの血族 魔龍人種の頭を象った龍柱、大理石や魔石が埋め込まれた床、最奥にある階段の奥には魔龍の鱗や魔石であしらった高さ2mはある高座が2つ設けられている。

魔界大帝と魔界皇后の玉座である。

玉座から見下ろした広間には1000人以上の魔族が大帝陛下の入来を待ち望んでいる。


玉座から見て右側は皇族・帝国軍の幹部たる最上級武官と軍人貴族たち武官が居並び、左は諸侯と大臣などの文官が居並んでいる。

前列が皇族、そして皇帝となれる12の魔王家「12魔王家」からなる最高位魔族の席であり後ろから位階が下の魔族が列席している。

位階が下と言ってもヴリトゥラーナの間に入れるのは騎士爵以上の貴族、帝国軍少将以上の階級にあるもの、帝国大宰相とその内閣、そして皇族と12選帝王家の当主たちであ……


古風かつ厳格な魔族のラッパの響きが広間に集まりし魔界帝国の重鎮たちの姿勢を正させた。


ざわめきがあった広間では今や音ひとつない静寂の空間となった。


魔界帝国を統べる至尊者の入来を式部官が広間中に響き渡るように告げる。


「全魔族の支配者にして魔界帝国及び魔大陸の統治者、魔龍人種の大王、魔界を統べる魔力と魔界知識の保護者、魔界帝国軍大元帥にして魔界帝国第99代皇帝 リリューク・バール=ドラグ・ドラガルフォン魔界大帝陛下のご入来!」


広間の中央玉座の前に闇の炎と光に包まれたのはリリューク皇帝と皇后ドローテアそして、俺こと魔界帝国皇太子 アンリマンだ。


皇帝に永久の忠誠と恭順を誓った帝国12王家と帝国諸侯、そして皇帝の部下たる魔界帝国(通称:魔王軍)の将軍達、宰相と大臣、高位文官、神官達の前でリリュークはまるで永久凍土のような内なる冷たさを合わせた厳格な声を発した。


「我が子、我が帝国の皇太子 アンリマンは生後間もないが帝国のために活性の秘技を使う。この秘技を使えばたちまちに13歳程度の魔族になる。だが、アンリマンは赤子に等しき存在、故に卿らは皇太子アンリマンに永久の成約を誓え」


皇帝の発言に広間にいたもの達は「御意!」と叫び跪いた。


突然、俺が赤ちゃんから13歳になるんだって!?意味がわからない……。


まだ、赤ちゃんライフを満喫したいのだがと抵抗を思案していたがドロテーアは無慈悲にもリリュークの前に俺を置いた。


「我が偉大なる魔龍人種と魔界大帝の血を引きし魔界の御子よ、今より偉大なる力の片鱗を与えん。大魔神アジェルニヒトよ、我が御子に力を与えたまえん。「 」

リリュークは俺の目線まで身体を下げ何か呪文を唱えながら俺の頭に右手を置いた。


リリュークの右手から黒色の光が俺の頭に照らされた。

眩しいが何故か温かみを感じた。一体なんだ、この力は?


「アンリ、目を開けるのです」


ドロテーアの優しさに満ちた声が聞こえたので目を覚ます。


なんかさっきより体が大きくなった気がした。

更に体に有り余る以上の魔力があるような感じもした。

俺は一体、どうなってしまったのか?


「さぁ今1度、己の姿を見よアンリよ」


リリュークの声に従うまま玉座の前にいつの間にか置かれた鏡を見た。


高そうな魔石が鏤められていかにも豪華さな雰囲気を出している鏡だ。父の命令だし覗いてみよう。


「うん?」


俺は鏡を見て違和感を感じた。否、違和感では無い。


「俺ってこんな姿だっけ?」


俺は改めて鏡を見直した。


そこには長く雪のように輝く銀髪、右目は鮮血の如く紅く、左目は空や海のように如く蒼く、13歳適度の少年が立っていた。


「俺、中学生になっている!?」


 広間中に響いた声に両親や諸侯が驚く。


「中学生とはなんですかアンリ?」

「いえ、なんでもありません母上。」


ドロテーアの問いに素っ気なく答えた。

中学の存在を知らないものに教えると色々厄介だ、恐らくこの魔界には中学校はないのだろう。


戸惑う俺を尻目にリリュークはまた、厳格な声を発する。


「卿らよよく聞け!ここにいるアンリは正統なる魔界帝国皇太子だ。真の皇太子の誕生だ!」


リリュークの宣言に貴族や将軍たちは口々に「皇太子殿下万歳!」「大帝陛下並びに皇后陛下万歳!」「帝国万歳!」と叫んでいる。


俺が成長したことに喜んでいるのは正直、嬉しいが不安もある。


なぜならさっきまで生後半年の赤子から13の青年になったのだから。

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