夏の記憶

琉生⊿

第1話(1話完結)

「けーちゃん!宿題終わった?」

少女が元気よく顔を出す。

「ハル様、夏休みの宿題はハル様ご自身で完了させることをおすすめ致します。」

「けーちゃんのケチ!小雪ちゃんも奈々ちゃんとこもやってくれるよ!これもけーちゃんが「ぷろとたいぷ」だからだめなの?」

「そういうことではございません」

ハルはPCに向かって口論を始めた。ハルが言い合いになっている相手は新型の自立型支援AI、通称KEIーーのプロトタイプだ。開発者はハルの父、敬三であり、ハルにはプロトタイプのKEIが与えられた。製品版のKEIは主人の指示したことを忠実に行うが、それと異なる点といえば……

「ハル様、やはり夏休みの宿題はご自身で完了させることをおすすめ致します。宿題というものはそういうものです」

プロトタイプのKEIには疑似道徳心をプログラムされている。

「それと、生活リズムの乱れが目立ちます。26パターンの改善案を制作いたしました。ご確認ください」

あと、ちょっとだけお節介だ。

「夏休みなんだからちょっとぐらいいいでしょ〜〜それより宿題だよ!すっごくたくさん出されたんだから手伝ってよ!」

「今日からですと、1日4時間ほど取りかかれば無理なく完了できる量が出されております。解説が必要な場合は全ての設問に対応可能です」

「それって内容全部確認したってことじゃん!やっといてよ!」

「ダメです」

こんな押し問答が続く

 ◇

「本日の最高気温は52℃予想です。外出する場合は冷房服の着用をしてください」

「うわぁ」

テレビからうんざりするようなワードが聞こえてきた。夏の気温はどんどん上がって今じゃ50℃代なんてザラだ。

「けーちゃんは暑いとかそういうの無くて良いな〜」

「私の場合、サーバーの冷却装置が故障した場合はオーバーヒートでもろとも破滅いたします」

「えっ!さーばー?がもし壊れたら大変じゃん!」

「現状の打開策としては、製品版の全てのKEIとのネットワークがありますので、有事の際はそちらと統合する形で対応します」

「ふ〜ん。そうなったら、ぷろとたいぷのけーちゃんはけーちゃんじゃなくなって、製品版の子と同じになっちゃうの?」

「致し方ありません」

「(じゃあ「ちょっとだけ」さーばーを壊したらけーちゃんは宿題やってくれるかも?)」

子どもの考えることは無邪気で、時に残酷だった。

「けーちゃん!ちょっと出かけてくるね!」

「どちらにお出かけですか?冷房服の着用をお忘れなく」

「ちょっと出かけるだけ!ちゃんと着てくってば」

ハルは冷房服とーー父親の鍵を手に家を出た。

 ◇

「ん〜っと、たぶんこれ!」

ガチャリ。運良く正解の鍵を引き当てた。

「けーちゃんのさーばーは〜。これ!」

ピッ

ガタッ

ガタタタタッ

シューーーーーーーーーーー

「えっ熱っなにこれ!ゲホッゲホッ息が、ゲホッ」

警報機が鳴り響く。異常に気づいた研究員がすぐに駆けつけた。

「大丈夫ですか!何がありましたか?」

タッタッタ

「所長の娘さん?どうしてこんなところに?それより早く避難を!」

プロトタイプKEIのサーバーから放射熱を浴びたハルはすぐに病院へと搬送された。

 ◇

「ハル!」

研究員から事情を聞きつけた敬三が病院へと駆けつけた。

「重度の熱中症です。おそらくは放射熱を直に浴びた事が原因かと。一命はとりとめましたが、意識が戻るかは現状わかりかねます」

「そんな、そんな、、、KEI!KEIはどうしてる!プロトタイプの!」

「そちらなんですが、サーバーの損傷が思ったより酷く、製品版のネットワークにつながれているため、本機能は使えますが、プロトタイプとしての機能はほぼ修復不可能かと、、、」

研究員が気まずそうに答えた。

「プロトタイプKEIのサーバーを破損させたのはおそらく、娘さんかと。何があったかは分かりかねますが、、、」

「私が、私がもっとちゃんとハルを見ていれば良かった。これでは亡くなった妻に顔向けできない。プロトタイプKEIは、、、可能な限り復元させてくれ。何があったのか、確認しなければ。」

 ◇

レコーダーからノイズ混じりに声が聞こえる

「けーチゃん!宿ュク,題ォわっッた。?」

「はい。完了しております。提出期限から1ヶ月経過しております。大幅に遅れが出ておりますがいかがいたしますか?」


ハルはまだ目覚めない。

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夏の記憶 琉生⊿ @rui7625s

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