【第十二話(2)】 コラボ配信―共同戦線―(後編)
【登場人物一覧】
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配信名:勇者セイレイ
本作主人公。純真無垢な性格であり、他人の為に全力を尽くす。
センセーの方針によりデッサン技術を磨いており、その経験から優れた観察眼を持つ。
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配信名:ホズミ
本作ヒロイン。大人しめで引っ込み思案気味な性格。
機械操作が得意。主に配信ではドローン操作・情報支援を行う。
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配信名:noise
役職:盗賊
セイレイの配信に突如現れた、戦闘技術に長けた女性。
勉強熱心であり、日々魔物やダンジョンに関した研究を独自で行っていた。洗練された回避技術を持ち、戦闘ではその能力を惜しみなく発揮する。
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通称:センセー
元高校教師。
瀬川と前園の育ての親。また、一ノ瀬の元担任でもある。
彼等の将来を案じており、どうすれば彼等が真っ当に生き抜くことが出来るのか日々苦悩している。
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配信名:ストー
役職:武闘家
海の家集落のリーダー。しかし、方針を決める者は別に存在し、彼自身は余所から来た者の対応などの役割を担っている。
格闘家の家系に育ち、幼い頃は格闘技術を叩き込まれたそうだ。
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「死ぬことが怖いくせにのこのことダンジョンに入ったバカが一匹」
光の帯に身体を縛られ、恨めしそうに睨んでいるストーに視線を送る。
「自分の力なら仲間を守れるんだと思い込んでいたバカが一匹」
同じく光の帯に身体を縛られ、今起こっている状況を懸命に分析しているnoiseに視線を送る。
「自分の”したい”ばかりで仲間を危険に送り込むリスクを考えなかったバカが一匹」
顕現させたファルシオンを正面に構え、ホブゴブリンを睨むセイレイに視線を送る。
「そして――自分が引き立て役に使われるとも知らない可哀想なバカが一匹」
最後に、ディルは目の前の全長2mもあろうかという巨大な体躯のホブゴブリンをのんきに見上げた。ホブゴブリンはジロリと恨めしそうにディルを睨む。
「おお怖い怖い、どうせ君は僕に勝てやしないのに随分とお熱だねえ」
右手に持ったチャクラムを指先で器用に回しながら、楽しげに口元を緩める。そして、高く指で弾いたそれを空中で掴んだ。
「しつこい男は嫌われるよ?あははっ」
まるで舞踊でも披露するかのようにくるりと身体を
くるり、くるりと行ったり来たりと不規則な動きを繰り返すチャクラム。その動きに釣られるようにホブゴブリンはどう対応するべきか判断できず、
その隙を逃すセイレイでは無い。
「せああああっ!!!!」
大きな掛け声と共に、両手に持ち直したファルシオンで背後から斬り掛かる。意識の外からの攻撃に、思わずホブゴブリンは苦痛に表情を歪めた。
[ダメージが通った!?]
[多分、セイレイの攻撃が意識の外になったから通ったんだ]
[どういうことだ?]
[ディルという男がホブゴブリンの注意を引いた。その結果、セイレイの攻撃のタイミングが予想できなくなった。受ける、という意識が出来なくなったんだ]
[確かに、今から攻撃される、と思うと身構えるよな]
[さっきはnoiseの動きが、予想の範疇を出なかったから、囮としての機能が果たせなかったと]
[言っていることが規格外だが……恐らくな。ただ、それよりも俺は総支援額が減っていることの方が気になるが]
[あ、本当だ。さっきまで1500円だったよな。500円減った?]
[その辺もどうせ説明されるだろ]
[ほい補填 1000円]
[ナイスパ!]
[あ、じゃあ俺も 1000円]
コメント欄の人々は、お互いの知見を共有し合い納得しているようだ。ホズミはそのコメント欄を目で追いながら、じっとその戦況の行く末を見守る。
ディルから「セイレイと二人だけで戦いたい」と釘を刺されていたが、情報共有くらいは大丈夫だろうと判断。スピーカーを介し、セイレイに情報共有する。
『セイレイ君。恐らくですが、先ほど使ったスパチャブースト”青”はあと二回……いえ、総支援額増加に伴い、あと六回使う事が出来ます』
スキル使用前後の総支援額の変化。そこから、彼女は”青”を使用した際に500円が消費されると分析。
更に加えて、スーパーチャットが入ったことにより総支援額は3000円に増加。以上のことから彼女はそう判断したのだった。
ホズミはいつも適切な判断を下す。そう信頼を置いているセイレイは「分かった」とホブゴブリンから距離を取りながら頷いた。
ディルは不服そうに「あー、理解が早いなあ、面白くない」と子供のように頬を膨らませる。
「ま、スキルの使い方は任せるよ?どうせ慣れるでしょ」
「いちいち言い方がムカつくなお前は!!」
憎まれ口を叩くディルに対し、苛立った様子を隠しもしないセイレイ。ホブゴブリンから距離を取るようにバックステップし、次の動作を警戒する。そんな最中、彼の耳にnoiseの叫ぶ声が響いた。
「セイレイ!!右に避けろ!!」
「っ!?」
考える暇もなく、ほぼ反射的にnoiseの言うとおりに右方向へとサイドステップ。先ほどまで彼が居た空間を、崩落した瓦礫が貫く。
いつの間にかホブゴブリンが放っていた瓦礫の投石が、天井を貫いたようだ。
「ありがとう姉ちゃん!」
「これぐらいしか出来ることが無いからな」
そう言って微笑んだnoiseにディルは右手を向けた。
「
「ぐっ!?」
彼が手を握る動きをすると同時に、光の帯が強く締め付けられる。noiseの表情が
だが、セイレイが
『サポートスキル ”支援射撃”!!』
「わぁーっ」
ディルはわざとらしく身体を仰け反らせる。彼の足元のアスファルトを、ホズミのドローンが放った銃弾が深々と貫いていた。ディルは呆れた様子でドローンを半目で睨む。
「あのさ、スキル使っちゃ駄目だって言ったよね?」
『……次は当てます』
もはや彼の言うことなど聞こえていないと言わんばかりに一方的に自身の意見を告げるホズミ。ディルはやれやれと溜息を付きながらホブゴブリンへと向き直る。
「もう……ねー、敵は僕じゃ無いのに酷いと思わない?ホブゴブリンさん。あ、でも君も敵か!あははっ」
わざとらしくホブゴブリンに近づいた彼を追い払うように、大振りに棍棒を振り上げディルを叩き潰そうとした。
「ガアッ!!」
「はい、バリアー。スパチャブースト”緑”」
[ディル:単体防御力上昇]
だが、それよりも先にディルはスキルを展開。全身に淡い緑色の光を纏ったかと思うとホブゴブリンの一撃を難なく受け止める。そして、魔物の奥に見えるセイレイへと声を飛ばした。
「ねー、そろそろ潮時だと思わない?じゃ、倒しちゃってよ」
「……ちっ」
正直、
セイレイは、再び
「……スパチャブースト”青”」
[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]
コメント欄にスキルログが流れると同時に、セイレイの足元に徐々に青く、淡い光が集まり始めた。
グッと大地を踏みしめるように立ち、ホブゴブリンに向けて一直線に駆け出せるように低く姿勢を構える。
次の瞬間セイレイの足元を中心として、大地は激しく爆ぜた。
「っ、おおおおおおおおっっっっっ!!!!」
夜空を貫く流星のように、セイレイはホブゴブリンの元へと土煙を巻き上げながら駆け抜ける。そのまま一気にホブゴブリンまで距離を縮めていく。
ファルシオンを振り抜き、ホブゴブリンとシルエットが重なるのに合わせてそれを横に薙ぐ。
一瞬の静寂が流れた。
セイレイは剣を振り抜いた姿勢のまま、静かに佇む。ホブゴブリンは、ディルへと棍棒を振り下ろした姿勢のままピクリとも動かない。
[……どうなった]
[……]
[決まったのか?]
徐々に、ホブゴブリンの皮膚が剥がれるように、シルエットが零れ落ちては灰燼に変わっていく。
ゆっくりと、灰燼は空へと舞い上がり、世界からその痕跡を削る。
このダンジョンの中から、ホブゴブリンが居た痕跡が消えていく。
セイレイはファルシオンから手を離した。やがて、その剣は光の粒子となり、大気に溶け込むようにして姿を消す。
「……もう良いでしょ、はい解放。お疲れ様」
ホブゴブリンの崩れゆく姿を見届けたディルは、満足そうな笑みを浮かべながら指を鳴らす。
その動作に呼応するように、ストーとnoiseを縛り付けていた光の帯が解かれた。バランスを崩した二人は、思わずよろける。
「……セイレイは勝ったのか?」
「ああ、そうみたいだ」
noiseはセイレイがトドメを刺したホブゴブリンの方へと視線を向ける。
それは、灰燼と化したホブゴブリンの身体から魔石が零れ落ちるのと同時だった。
----
「はーい、お疲れ様ー。みんなよくやってくれたねえ」
ディルはうんうんと頷きながら大きな拍手を繰り返す。しかし、決して彼等は喜ばない。
配信に携わるものの意識は、ホブゴブリンを倒したことには無かった。
勇者一行は、お互いにどうするべきか判断するように顔を見合わせる。そして、ディルに対峙するようにnoiseが先に立った。
敵意を露わにして睨みつけ、ディルへと問いかける。
「おい、ディルと言ったか。お前はどうしてここに居るんだ?」
「どう、とは?」
ディルはnoiseの神経を逆なでするようにへらへらと笑う。noiseは更に苛立った様子で、怒鳴るように言葉を続けた。
「私達がここにくるまで、お前はダンジョンにいなかったはずだっ!!一体、お前は何者だ!!」
「居なかった、かあー。随分と自分の観察眼に自信があるんだねえ」
「質問に答えろっっ!!!!」
烈火の如く激したnoiseの
「優先順位が違うんじゃない?」
「はぁ?」
彼の発言の意図が分からず、noiseは苛立ったまま、当惑の声を上げる。
やがてディルは目的のものを見つけたのか、ダンジョン奥へと歩みを進め始めた。そしてくるりと振り返った彼は、勇者一行を手招きする。
「はいはい、これだよこれ。皆にも見て欲しいからしっかりとドローンで撮影してねー、インサート?ってやつかな。ほらテレビで料理をアップで映すやつ!あははっ」
相も変わらずいい加減なことを発する彼を無視して、先行したnoiseがそれを確認する。
ダンジョン奥の展示台にのせられていたのは、一つの片手大の結晶体だった。
見る角度によって、様々な色が反射する。七色とも言える輝きを放つそれは、以前noiseが作戦会議の中で見せたものと同様のものだ。
「これは……”追憶のホログラム”だな」
配信を見る視聴者にとっては初めてとなるその情報。その単語の意味を理解できない視聴者の困惑したコメントが流れる。
[ホログラム?宝石じゃん]
[何なら追憶要素も無い]
[一体何を言ってるんだ?]
[まだ何か隠された要素があるのかも]
コメントの内容は殆ど、以前セイレイ達が抱いた感想と同様のものだった。コメント欄に目を通したnoiseはこくりと頷く。
「ああ、これを私が”追憶のホログラム”と呼ぶ理由。それは、これだ」
彼女は追憶のホログラムに手を差し伸べる。彼女の細い手が、爛々と煌めくそれに触れた瞬間。
鬱蒼とした薄暗いダンジョンに、その場の世界を書き換えるほどの目映い光を与えた。
「うわっ!?」
セイレイは目映い光に、思わず顔を背けた。
「っ!?」
ストーは瞬時に、両腕で顔面を覆う。
『きゃっ!?』
ドローンからホズミの悲鳴が響く。それと同時にガタン、と何やら物音がした。
「……」
ディルはどこか満足そうに腰に手を当て、光から目を逸らすこと無くじっとその光景を見つめていた。
To Be Continued……
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