ドワーフの鍛冶職人の息子に転生したけど跡は継がずに旅に出る
とんとんちんかん
第1話 そんな君がいちばん好きだった
きっかけがいつだったかもう覚えてない。ただ中学に上がる頃には異世界ものにすっかりハマっていた。受験生になるまではもし転生してもチートが貰えると思っていた。
しかし、とある小説投稿サイトで読んだ『女神さま、チートをください』という作品を読んで俺は絶望した。内容は俺と同じで異世界に憧れていた少年がチートを貰えずに異世界に転生してしまうというものだった。
そこから受験勉強と両立して体を鍛え始めた。最初は2回が限界だった腕立て伏せが卒業間近になると30回は余裕なくらいまで鍛えることができた。おそらくちゃんとやっていればもうちょっと伸びただろうが、運動をしてこなかったから仕方がない。
しかしそんなオタクフル開放して叶うはずのない夢を追いかけてきた中学生活だったが 1人気になる人がいた。おっと勘違いしてほしくないが気になるというのは別に好きという意味ではない。正直に言うと幼馴染が大の苦手だった。
高校に入ってからは異世界には憧れなくなった。俺も厨二病が治ったのだ。しかし筋トレは欠かさなかった。あれは一度ハマると辞められないのだ。段々と筋肉がついていくのを見ると楽しくなっていて今では趣味となってしまっている。
そんな楽しみな高校生活だったがまさかのアイツと同じクラスだったのだ。
「あれーようちゃんだー!やったーまたおんなじクラスだねぇ!」
そう、いちばん苦手なのがコイツである。物心つく前から仲良くしていた幼馴染である桐生院玲華である。ちなみに小中では全学年で同じクラスだったのだ。そして苦手なところはこんな年にもなってもあだ名で呼んでくるところだ。そして俺の名前だが松平葉一だ。
そして驚くことにこの高校生活3年間クラスも選択科目も全て同じだったのだ。そんなに被ってる俺とアイツだがあまり最近は話していない。まぁ、俺が一方的に避けているのだが。そんな態度をとっていてもアイツは態度を全く変えなかった。
そして念願のキャンパスライフ!お気づきの人もいると思うがそう、これまたアイツも同じ大学だったのだ!しかもほとんどの学科も同じだった。流石にここまでくると俺も諦めてアイツと話すようになった。話してみると小学生の頃と変わっていなかった。
アイツのスゴいところはなんといっても胸だった。ずっと一緒にいたからこそ分かるのだが通常女性は15を過ぎるともう胸は大きくならないと聞いていた。当時のアイツはギリギリBカナ?程度だったのだが今では走ると10m離れていても揺れているのが分かるほどに成長していた。おっと別に監視してたわけじゃあないからね。
そうこうしていると大学も卒業したのだが、1つ問題が発生した。それは、仕事がお互い決まっていなかったのだ。一方的に避けていた生活から抜けた今、アイツの良いところが沢山見つかった。映画の趣味も似てたし、友達が少ない事も似ていた。
卒業後孤独に生活するのは寂しいとの意見が互いに出たので同棲かシェアハウスに住むかの意見がでた。同棲は流石にヤバイので無難なシェアハウスを選んだ。なら大学はどうしてたって?そんなの寮生活に決まっているだろう。ぼっちオタク舐めんなよ。
シェアハウス生活が続いて分かったことがあった。それは、住んでる人が全員同じ深夜アニメを観ていることだった。そうと分かった瞬間、玲華は全員を誘い共有スペースのテレビで観ようと提案をしてきて、案の定全員賛成した。俺も賛成派だった。
アイツはそういうコミュ力があるくせに高校ではほとんど1人だった。理由はすぐに分かる。俺をようちゃんと呼び、親しく接しすぎたからだ。俺は適当に相槌打ってただけだが女子たちはそんな玲華が気に入らなかったのかもしれない。まぁ、俺の妄想だが。
だから本人に直接聞いてみた。そしたら意外な答えが返ってきた。
「だって他の人と関わってたらようちゃんと一緒にいれないじゃん」
と言っていた。だから俺は疑問に思った。適当に遇らう幼馴染とずっと突っかかるのは変ではと。だが俺の考えすぎなのかもしれないので心の中に秘めておくことにした。
気づくとシェアハウスの人たちとの交流が増えていた。月に数回だった交流が今では週1くらいで遊んでいる。遊園地に行ったり映画を観に行ったりとリア充しているのだが玲華は少しムッとしていた。
そんなことが沢山あったのだが久しぶりに玲華と2人で出かけていた。飯を食ったりバイトの話だったり、他愛のない世間話を沢山した。もうアラサーに近づいているというのにアイツは俺をまだようちゃんと呼んでいる。いい加減やめてもらいたい。本当恥ずかしいから。
色々と買い物をしているともう日が暮れていた。辺りはもうカップルが沢山いた。なので俺たちは速攻で帰ろうとした。しかしこういう時に人生というのは嫌な方に転んでいく。何があったかなんて周りの声を聞くとすぐに分かる。向こう側からバールを持った男が暴れているらしい。
おれは玲華を後ろに押し、隠れるように言った。どうするかって?決まっている少しでも時間を稼いで玲華を逃すのだ。あれからも毎日筋トレはしているし小学生の頃に柔道と空手は黒帯を取ったしボクシングも少しは経験しているから護身術は腐るほどある。
「どけどけぇ!テメェら全員殴り殺してやるっ。俺の前でイチャつきやがって!」
「待てっ。なぜカップルを責める!彼らは何もしてないだろう!」
そうこうしていると不審者が向かってきたのでまずは説得からやっていこう。
「なんだテメェ。女庇いやがって。そういう男が1番嫌いなんだよっ!」
男はバールを振り落とした。だが師匠の正拳突きの方が速いな。簡単に避けれてしまう。今のうちに玲華を逃がしておくか。
「玲華!早く逃げろっ!」
玲華は戸惑いながらも走って逃げてくれた。あとはコイツの身動きを封じるだけだ。コイツの武器はバールだ。とあるアニメにも説明があるがバールは武器としての評価が高い。だがコイツのような慣れていない者が相手なら対処は簡単だ。
まず避けてから
「一般人にしてはやるようだがあまりオレを舐めるなよ。肋のやつだって後ろに逸らせばダメージは少ないしな。だがテメェはオレのボディーブローがモロに入ったろ?その様子じゃあまだ起き上がれねぇよなぁっ!」
そういうと男はバールのL字の曲がった部分で俺の顔面を殴った。嗚呼、俺のイケメンフェイスが…そして殴った。ひたすらと段々と俺の意識が無くなるのを感じる。あぁ、これダメだな。死ぬやつだ。
そう思っているとパトカーのサイレンが聞こえてくる。男は殴るのをやめて一目散に逃げた。掠れた意識で最後に見たのは幼馴染の玲華だった。
「ようちゃんっ!死なないでっ!ひっぐあたし、ようちゃんのことずっと好きだった。なのになんでこうなっちゃうの」
泣くなよ、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。あれ、可愛い?てかなんで俺こんなんになったんだっけ。逃げれるなら一緒に逃げてたのに。いや、もう深く考えなくていい。答えはもう分かっている。
俺は苦手だと思ってたアイツが好きだったんだ。好きだからカッコつけようとしちゃったんだ。どんなに大人になっても、どんなに冷たい態度をとっても変わらずに接してきて、ようちゃんと呼ぶそんな君がいちばん好きだったんだ。
「れ、いか。おれも、おまえ、が、す…」
結局最後に気持ちを伝えられずに意識は暗い所に飛んだ。
意識が飛んだ後、暗い部屋にいた。そんな場所にはゲームで見るようなコマンドが浮かんでいた。
転生しますか?
▶︎YES ▷YES
選択肢イエスしか無いじゃん。転生させる気満々じゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます