豚貴族・狩

ファンラックス

 俺は秀斗!高校二年生だ。突然だが…俺は毎日が楽しい!!


 バスケ部ではエースだし、友達との人間関係も良好。

 幼馴染の、勉強もある程度こなし、テストは毎回あたり。成績も優秀なので、もすでに決まっている。まさに…最高!!


 しかし、そんな完璧に見える順風満帆な学校生活にも、一つがあった。


「やっ…どうも秀君。今日もいい天気ですなぁ」

 同級生の が、毎日必ず俺のところに来る事だよ!!


 井口 言いぐち げん…顔は普通に良いが、毎日…端っこの席で昼休みもボソボソと何かをやっている。いわゆる…という奴だ…!!

 まぁ…俺は、クラスのどんな奴とも良好な関係を築けているので、インキャが特別嫌いかというと…そうでも無い。だが…コイツは違う。


 妙なんだよ…なんか、行動がいまいち読めないというか、あっちのペースに乗せられるというか…


「あぁ…良い天気だな。こんな日には思いっきり外でサッカーでもしたい気分だよ!!」

「ほぉ…秀斗君はサッカーが好きなのですね。そんなのだったらバスケ部を辞めて、サッカー部に入ったほうがいいでしょう」

 冗談で言ったつもりなのに、急に真面目にそんな事を言ってくるコイツに、俺は嫌気がさしていた。


「おいおい…!そりゃあ俺はサッカーも好きだけど、そんなに上手く無いっていうか…バスケの方が得意なんだよ」

「だったら両方の顧問に頼んで兼部して貰えばいいじゃないですか。先生に言って紙もらってきますよ」

 言はそう言いながら、休み時間の職員室の方へと走って行こうとする。


「待て待て、冗談だって…冗談!」

「冗談ですか…すぎたので、さっぱり気がつきませんでしたよ」


 腹立つなぁぁ…コイツ。なんかこっちをおちょくってるというか、試されてるというか…




   ◆ ◇ ◆


 その夜…俺は部活で遅くなった夜道をヨタヨタと歩いていた。


「あのクソコーチ…夜の九時までやらせるとか、正気かよ」

 昼間の事もあるし、まじムカつく…


「今日は彼女と寝落ち電話しよう」

 そう思いながらを通り過ぎようとする時に、ふと…公園の方を見ると…公園のベンチの上に、何やら黒いモヤモヤがいるのだ。

 …好奇心だった。俺は好奇心でソレに近寄ってみることにした。


 なんだろう…!?幽霊とか地縛霊だったりして…!!


 しかしそこに居たのは、幽霊でも地縛霊でもなく、ただのガリガリにやせ細っただった。


「はぁ…何だよつまんねーな…のくせして、人様にたかってんじゃねぇよ!!」

 イラついた俺は、寝転がっているの脇腹を思いっきり蹴り上げる。


「グフュッ…」

 屑は情けない声を口から漏らした。


「へへッ…いい声で泣くじゃねぇか。なぁ…!!!」

 俺は社会のに何度も何度も蹴りを入れていく。


 それなのにも関わらず、拒絶も反応もせず、グヒュッグヒュッと屑は笑い袋のように声を漏らしていた。


————————————


「これくらいにしてやるか…」

 俺はベンチから転げ落ちた男を見て、そう呟いた。

 それにしても、あぁ…スッキリした…!!やっぱのお掃除は積極的にしていかないと…


 俺はそのままウキウキと帰路に着いたのだった。




 

   ◆ ◇ ◆


 次の日の学校。俺は昨日あった事を思い出していた。


「おやぁ…今日は随分とですねぇ、秀斗君」


「うわぁ!!…何だか、びっくりさせるなよ…」

 俺は思わず椅子から飛び上がってしまった。

 おかげで周りからは変な目で見られるし、コイツにはどうも…振り回されてばかりだ。


「いえいえ。秀君、先程からずっと上の空でニヤニヤしていましたから、相当嬉しいことがあったのかと…」


「まぁ…そうだな。確かに嬉しい事はあったが…」


「そうですか…そういえば昨日、に話しかけられましてね…『何処かで睡眠を取れる場所はありませんか』と聞かれたんですよ〜。それで、その人が寝れる場所を探すうちに随分と時間を取られてしまいましてね…いやぁ、なかなかに大変でしたよ」

 俺は昨日のことを思い出し少しビクッとなったが、すぐに落ち着き、言君にこう返した。


「はぁ…お前も随分お人好しなんだな。全く、いいのに…」


「というと…?」


「いうも何もあるかぁ…アイツらは対して努力もせず、いつまでも社会にたかっている豚どもなんだよ…」

 俺は常々思っている。


 なぜ社会は、そんな奴らにいつまでもを与え続けているのか、なぜ最後まで助けてやろうと手を差し出そうとするのか。そんな事に経費を削ぐから、国はいつまで立っても借金を抱えたままなんだよ。


「いやぁ…しかし、ホームレスの中にも社会に馴染めなかったり、家族関係や生活環境の成り行きでどうしても浮浪者になってしまったという人もいるのでは?」


 はぁ…?何を言ってるんだコイツは。


「呆れたよ…全く、お前は何もかも間違ってる。家族関係?生活環境??そんなの弱者どもの言い訳でしかない!!!!いいか…対して努力もしないような奴が、俺と同じように生活できてる事自体がおかしいんだよ!!」

 俺は思わず声を張り上げ、言にそう言い返す。


「だからと言ってですね…」


「はぁ…分かったよ、もういい」

 俺は苛立ちのあまり、教室を飛び出した。






   ◆ ◆ ◆


「成る程…『俺と同じように生活できてる』ですか」

 フフフ…これは面白くなりそうです。


   ◆ ◇ ◆



 その日の放課後、俺は部活がない日の、まだお天道様が外に出ている帰路を歩いていた。そして、昨日の公園の近くに差しかかった時、主婦と思われるおばさん達がこんな話をしていた。


「ねぇ、聞いた?」

「聞いた聞いた…今朝この公園で、重症ですって」

「全身の骨が折れていて、今も意識がないんですって…怖いわねぇ」

「怖わよぉ〜。もう子供を公園で遊ばせられないわ」


 今朝、公園…まさかな。






   ◆ ◇ ◆


「ねぇ秀君…おつかい行ってくれないかしら?」

 家に帰った俺は、丁度料理を作っている母ににそう言われた。


「分かった。すぐ行くよ!!」

 俺は母の好感度を上げるのも忘れてない。

 母との関係を円滑に進めるために、自分の意見は最小限にとどめ、相手の意見を肯定しなくてはならない。しかし…この時に何も言わずに親の話をホイホイ鵜呑みにしてはいけない。勘のいい親だと、それにすらを持つ人もいるからな。

 …そしてうちの親もの人物だ。


「その代わりだけど…お釣りは貰ってもいいよね?」


「えぇ…秀ちゃんの好きに使ってちょうだい。気をつけてね!!」


「うん、行ってきます!!」

 俺はそう言い残し、外へと駆け出して行った。






   ◆ ◇ ◆


「うわぁ…値上がりしてるなぁ」

 俺は主婦のような声をあげながら、近所のスーパーを徘徊していた。


「やっ…どうも」


「うわぁぁ!!!?何だよ!?」

 声がした方を振り返ると、買い物カートを引いている がいた。


「奇遇ですね。私も買い物をしていた所なんですよ〜」


 最悪だぁ…何でコイツがいるんだよ。


「…んで、何だよ。俺がってクラス中にバラすのか?」


「いいえぇ…そんなことしませんよぉ〜。それより、昼はすみませんでした。私もつい強く言いすぎてしまいましたもので、ご容赦を…」

 言はそう言いながら、俺に頭を下げた。


「あぁ…俺もすまなかったな。つい夢中になっちまってた」


「それにしても近頃は物騒ですよね〜…あなたのお家の公園の近くで、があったようじゃないですか…!!秀君のお家も気をつけてくださいね」


「あ、あ…あぁ!!心配ありがとう。確かに家は親一人だから心配だなぁ」


にも、早めに帰って来るよう…連絡したほうがいいんじゃないですか?」

 俺は何気なく言われたその言葉に、思わず口が詰まった。




「親父は…いねぇよ。俺の親父は俺がガキの頃に…





 ————————————


 俺の親父は、俺の誕生日の帰り道、そこら辺にいたに刺されて死んだ。

 そいつが言うには、俺の親父が俺のを持っていて、それを見せつけるように歩いていた事に嫉妬して、殺した…だってさ。

 その時、俺は子供ながらに殺意を覚えたよ。本当に…

 母もその時はすごく荒れていて、とても手のつけられる状態じゃなかったよ。

 それでも…子供ながらに母の痛みに気づいていた俺は、身の回りの家事を全てこなし、学校の人間関係やテスト、宿題…全てのことを何年も何年もこなし続け、母も今になってようやく落ち着いてきたって感じだ。

 父が殺されてから、もう…10年が経とうとしていた…この頃だ。




 ————————————


「そうでしたか、それはご心中お察しします」

 外のベンチで俺の話を聞いていた言は、静かにそう言った。


「よせよ…逆に気を使ってもらう方が、俺は嫌だぜ」

 俺は静かにそう返す。


 コイツはきっと、のだろう。実際、俺の話を聞いてもしてくれているような奴だ。

 俺はいつか…誰からも好かれるような、信頼されるような、賢く…優しい人物になりたい。そして、それはコイツも例外じゃない。…そうだろう?


 俺は奴の横顔をゆっくりと見る…そして、すっくとベンチから立ち上がった。


「それじゃあ俺はもう行くわ。また学校とか、今みたいに俺の事を見かけたら…声掛けてくれよ…!」

 俺はゆっくりと家に向かって歩き始める。


「えぇ…私も、そうさせていただきます」

 そいつは後ろから、静かにそう返したのだった。


 俺は、ようやく…コイツともになれた。





   ◆ ◇ ◆


 スーパーからの帰り道。すっかり日が暮れ、人気がない住宅街を歩いていると、前から一人の男が歩いてきた。


 見るからにらしき男だった。

 俺は必死に湧き上がって来るを抑え、その男の横を通り過ぎようとした。


 その時だった…男が俺の足に抱きつき、こんな事を叫んだのだった。



「飯をぉ…飯をぉくれぇ…!!」


 俺は一瞬下を向き、少し考えたようにした後…その男に微笑みながら言った。

「いいですよ…!結構多めに買っちゃって…あなたにも分けてあげますよ!!」



「あ…あ、ありがとう…本当にありがとう…!!!」

 その男は目を輝かせ、俺に泣きながらお礼を言う。



「フフフ…良いんですよ、なんたってタダですからね…」

 俺は左手に力を込める。










「貴方への

 俺はそのまま拳を男の顔面に思い切りぶつけ、殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。


 ————————————


 俺は血まみれになったを、近くのゴミ捨て場に捨てた。

 血まみれになった拳を見ながら呟いた。


…そういや母さん、今日…オムライスにするって言ってたっけ」



 ————————————


「おかえり秀く…どうしたの!!!!?」

 俺の制服を見ながら金切り声を上げた。


「襲われた?!100番…いや110番か、どうしようどうしよう…!!電話どこにあったっけ、そういえば家電いえでんあった…待っててね秀ちゃん。すぐに通報するから!!!!」


「いや、襲われたわけじゃないけど。こけてケチャップの中身…ぶち撒けちゃった」

 俺は片手に持っていたを母に見せる。


「そぅ…だったのね。ハハ…そうよね!秀ちゃんまで居なくなるわけないものね。神様はそこまで鬼じゃないものね!!」

 そう言う母の目からは、大粒の涙が溢れていた。


 次の瞬間、母は俺を思いっきり抱きよせる。

「良かったぁ、良かったよぉ…貴方までいなくなっちゃったら私。もぅ…私おかしくなっちゃうよぉぉ…」

 喉を枯らしながらそう叫ぶ母を見て、俺は情けなくも…もらい泣きをしてしまった。





   ◆ ◇ ◆


 次の日の朝、学校ではある事が話題となっていた。


「ゴミ捨て場にだって…」

「隣町の住宅街のゴミ捨て場にだって…」

「怖すぎでしょ…」

「もう隣町行くのやめようかな…」



 俺は正しい事をしたはずなんだ。社会の屑を始末したんだ…!!

 俺は…間違っていない…!!!!


「俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は正しい俺は…」


「あのぉ、そんなにナニカを…一体どうしたんです?」


「うわぁぁぁぁぁ!!!!……び、びっくりさせるなよぉ、言」


「びっくりさせたのは貴方の方でしょうが…そんな事より昨日は大丈夫でした?貴方の家の近くで、暴行騒ぎに引き続き、今度はが起きたそうじゃないですか。全く…近頃のこの国は、治安が悪いったりゃありゃしませんから」


「そ、そうだな…ハハハ」


「一回目は秀斗君の家の近く。二回目は秀斗くんの家から少し離れたゴミ捨て場。いずれの被害者も家を持たない。いわゆるホームレスと言われる人たちでした。秀斗君、浮浪者に父を殺されているんでしたっけ?まさか…秀斗君がを始末した。なんて事は無いですよねぇ…」



「おい…言って良いことと悪い事があるぞ」

 俺は言の制服の襟首を掴みながら小さく、重い声で囁いた。


「すみません、失言でしたね。おっと…私は用事がありましたので、それでは…」

 言はそう言い、クラスの外へと逃げるように出て行った。



 

 

    ◆ ◇ ◆


 俺は部活動を終え、暗い道…帰路に着いていた。

 そして、を抜けようと思った、その時だった…


「よぉ、兄ちゃん…アンタが最近起こっているなんだってな」



 俺は情けない声を上げ、その声から遠のいた。

「な、は…!!?なんなんすかアンタ!!?失礼にも程がありますよ!!!」

 その声の主を見るとそれは…フードを被り、ジャンパーを着た、いかにもらしい男だった。


「いいや…間違いない。アンタがだ」


「しょ、証拠はあるんですか!!?」

 俺はその男に叫ぶ。


「お前のその腐った顔で十分だ、人殺し」


「ひ、人殺しってねぇ…俺は社会に迷惑をかけたわけでもなければ、損失を生んだわけでも無い…!!」

 俺は腹が立ち、考えもなしに言い返した。


「ホームレスにもな…命があるんだよ。アイツらは俺のだった。

 一人は元会社の社長さんで、会社が倒産しちまってホームレスになった奴。

 一人は家族に夜逃げされた奴、元々はソイツもじゃ無かった。

 アンタはホームレスを社会のなんの役にも立たない屑だと思ってるかもしれないが、ホームレスも。十分社会に貢献し、皆んなから好感を持たれていた人も少なからずいる…!!それをお前は…こんな風に無惨に殺した」

 そう言って男は、ジャンパーのポケットから何かを取り出した。


??」

 男はそれを再生する。


 それは、俺が…俺の《《叫び》)だった。

『死ね、死ねよ屑!お前らさえ生まれなければなぁ…俺の親父は死ななかったんだよぉ!!優しいおやじだったんだよ。それをお前らみたいな屑は、クソみたいな理由で殺したんだぁぁ!!!!何で、何で親父が死ななきゃならない。何でお袋がこんなにも苦しまなきゃならない。何で俺がこんなにも…頼むよぉ…頼むからお前ら死んでくれぇ…しんでくれよぉぉぉ……」


 男そこでレコーダーを止め、無言で俺を見つめていた。


「お…お…お前…も、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 俺は我を忘れてに飛びかかった。



 俺の拳は…そいつに届くことはなかった。

「やっ…どうもぉ。豚貴族さんのASMR ありがとうございまぁす」


 俺の拳は、ソイツの手によって簡単に止められた。

 そして、俺はソイツの顔を見て、仰天することになる。

「言…君?」


「はい、大正解です。!!」

 フードを下ろしたソイツは、紛れもなく井口 言そのものだった。


「いやぁ…しっかしここまであっさりとうまく行くとは。貴方、史上…一番の鹿ですねぇ」


「え、で、でも声が…」


「実は僕、特技がありまして…って言って、声をボイチェンみたいにコロコロ変えれるんですよぉ〜。あっ、因みに声優オーディションも受かったことあるのは自慢です!!」


「な、なぜが俺だと分かった!!!!」


「余りにも、貴方の過去と今回の犯行がしすぎていたからですよ。

 二回目の犯行なんか…殺すならナイフでも良いのに、その犯人は被害者を血まみれになるまでしています。こんなの秀君みたいに、相当ホームレスに恨みのある人しかやりませんよ〜」


「そ、そんなこじつけみたいな理由で俺を襲ったのか!!?」

 俺はこの時、言に得体の知れないを感じていた。


「いえいえ、それだとタダのですから。

 私の考察が確信に変わったのは今日のの出来事でした。秀君に冗談半分で疑いをかけた時に、私はあえてホームレス兼浮浪者の事を『社会の屑』と表現しました。ここで犯人じゃなかったら顔を真っ青にするか、真っ赤にさせるかして私に激昂してきたはずです。


 しかし秀君はそれとは違う反応をみせました。

 秀君は私の言葉を聞いた後…


 …


 一瞬の間でしたが、顔の輪郭がわずかに上がっていたんです。私はそこで初めて、この事件は秀君の、狂気による物だと判断したんです」

 俺は思わず口を押さえながら、言の言葉を静かに聞いていた。



「さて…何か質問はありませんか?」


「ボ、ボイレコは…」


「ボイレコはとある方に貰いました。貴方の事近くで観察していたんですって。そりゃあ…あんな大声で叫べば、夜であっても人、一人は来ますって。…他に質問はありますか?」


「…何も…ねぇよ」

 俺は負けを認めたように膝から崩れ落ちた。


「さて…このですが、警察とお母さんの方に送りたいと思います。その方が何かと都合がいいですからね」

そう言い残し、言は闇の中へと立ち去ろうとする。


「頼む。警察には送って良い…母にはやめてくれ…」

 俺は言の足にすがりながら懇願した。


「俺は捕まっても良い…でも良い。でも…母さんを傷つけるのはやめてくれぇ…もう、傷つくところを見たくないんだよぉーー!!!」

 俺は泣きながら懇願した。




「ふざけるのも大概にしろ…」

 俺は髪の毛を引っ張られ、奴の鬼神のような顔と対面した。


「言ったよなぁ…ホームレスもって。

 実はあのホームレスの二人の経歴…あれはんだわ。

 俺は色んなホームレスと面識深いしなぁ…この町の《《大体の人》)の経歴は知ってるぞ。まぁ…それもお前が殺したんがな。こんな風に」

 俺は頭を思いっきり地面に叩きつけられる。そしてまた、奴の鬼神のような顔と対面する。


「彼らを殺したのはお前だ。そしてお前のでお前の母を傷つけたのも。俺はただ情報を伝えるだけにすぎない。そして、お前は俺に指図する立場にもいない…故に俺は真実を伝える。ただそれだけだ…」


「ぉお前は一体なんだぁぁぁ!!!なんなんだよぉぉ!!!!!」


 

   ◆ ◆ ◆


 俺は奴の顔面を覗き込みながら、こう言ったのだった。

「俺はなぁ…てめぇらみてぇな社会的に強い立場にある屑。を狩る事を己の快楽とする者だ」


「あ…く…まぁ…」

 秀君はそう言い残すと、気絶した。






 ふぅ…効果テキメンだなぁ…俺の怒りの籠った

 さぁて…こっからはお楽しみの時間…!!


 俺…私はジャンパーのポケットからを取り出し、秀君の涙と絶望でグチャグチャになった豚貴族顔を撮影する。


「良いねぇ…最高だねぇ…!!」

 そう言いながら撮影する事…三分。


 さぁて、ディナーも堪能したし、…しますかぁ。



 私は豚貴族をただ狩りたいだけなので、警察にも親にもこの事は決して。それはだ。私は警察じゃない。

 その代わり……




 

   ◆ ◇ ◆


 私は夜遅くに、ある家のチャイムを鳴らした。


「はーい…どちら様で…?」

 玄関の扉を開け、私の前に現れた人物、それはだった。


「実は私…の友達でして、さっきまで秀斗君と遊んでいたんですけど…秀斗君、この手紙を置いてどこかに消えてしまって!!」

 母親は俺の慌てた声に戸惑いながらも、その手紙を受け取り…読んだ。


 この手紙は秀君が目覚めた後、だ。

 私は秀君が目覚めた後、をし、そして…『罪を償うのは自分だ』とも伝えた。


 母親への手紙を要約するとこうだ…僕はとても許されるべきではない罪を犯しました。とても今のままでは、貴方に会うことなど、許されないでしょう。

 罪を一人で償えるような、背負えるような人間になった時…の元に必ず帰ります。心配かけるかもですが、必ず1ヶ月に一度手紙を送るので、それで生きてるかを判断してください。

 まぁ…ざっくり説明するとこんな感じだ。


 

 その手紙を読んだ瞬間、彼女は私にこう噛みついてきた。


「貴方ねぇ…何の冗談!!?」

 まぁ…そうなるわな。…って事でからある物を借りた。


「実は手紙の他にこんな物も預かってまして…!!」

 私は母親に物を渡す。


「これって…私の…髪…止め??」

 秀君曰く、の時にバイトをしてだそうだ。

 母がしばらく前に無くしていたもので、何故か、自分のバックの底にあったらしい。


 彼女はそれを受け取るとボロボロと涙を流した。

「私の、私の髪留めですぅぅ…息子が、一生懸命買ってくれて…!!」


 髪留めを必死に握りしめる。

「本当なのね…うぅん。心の奥底では分かってた。

 私、あの子に。しちゃったからぁぁ…

 でもあの子は、ずっと私のために頑張ってくれていて…それなのに私。あの子に寄り添ってあげなくて…ごめんなさい、本当に…ごめんなさい…」


 子も子なら親も親か…この人にはの素質はなさそうだがな。

 これで私の後始末も終わりだ。


 ————————————


「ありがとうね…言くん。の手紙を渡してくれて…」


「ええ…私、ずっと心配だったので…そういえば、警察には出さないのですか…?」


 私の言葉に対し、彼女は優しく返した。

「ううん…捜索届は出さないわ。母親失格かも知れないけど…あの子がそう決めたんだったら、私も帰りをいつまでも待ちます。それに、私に決定権なんて…もう無いんだから」

そう言い切る彼女の顔は、今の心境を表すには十分すぎた。


「そうですか…母親である貴方がそう言うのでしたら、私も警察には言いません。私も彼を待ち続けます。では…おやすみなさい」

 そう言いながら私は…玄関の戸をゆっくりと閉めたのだった。


「だってよ…ったく、捜索届を出さずに待ってくれるってさ。感謝しろよに」

 私は家の陰で待っていた秀君にそう言った。



「かぁさん…かあさぁん!!!…」

 秀君は母親の名を叫びながら、ずっと…ずっと泣き続けていた。






   ◆ ◇ ◆


「なぁ…何で俺のこと、言わなかったんだ?」

 秀君は私にそう尋ねる。


「さっきも言いましたよ?私は豚貴族を狩ることだけを生きがいにしていますから。更生とか他人の犯罪とか、そういうのに興味はないんですす!更生するかは…自分次第って事です。まぁ…それにしたって警察のなんかに引っ掛かったら一発アウトですからね…それでも逃げ続けると決めたのには、何か理由がお有りで?」


 秀君は少し考えた後…私にこう告げた。

「もう…俺は屑に落ちたから、せめて人の役に立てるようにはなりたいなって…それまでは、でひっそりと生きるのも悪くないかなって。すごく身勝手な事だっていわれると…本当にその通りなんだけどね」


「はぁ、さっさと刑務所に入って死んだ方がいいと思いますよ…社会の

 私は秀君に呆れたようにそう言った。


「君だって…なかなかにだと思うよ」

 私達は互いの醜さを見つめ、少し笑った。


 ひょっとするとができたのが嬉しかったのかも知れない、などとも思いながら…


「さて、ももらった事だし…そろそろ帰らせていただきますか」

 私は秀君にそう言った。


「おう、またどっかで会おうな!!

 さて俺は…どっか寝れるところ探さないとなぁ。参ったなぁ…ホームレスをあれだけ憎んでた俺が、まさかにたった一日でなるなんて…」


 まぁ…幸運を祈るよ、。次会う時にはさぞかし立派なになってる事を願う。ごちそうさまでした…





   ◆ ◇ ◆


 次の日…学校中に激震が走った。

 私のクラスの表里 秀斗君が学校をからだ。彼の行方を知る者は誰も知らず、(一応)優等生の秀斗君が辞めた事でクラスメイトも先生も大騒ぎだ。

 私は事の顛末を唯一知っていたため、別段驚く事はなかったが、一つ大きな疑問といえば、何故かについてのニュースが、どのテレビ局でも、ラジオでも、ネットニュースでも流れなかった事だ。

 マスコミがあんな事件を取り扱わないわけがないだろう?誰かに揉み消されたか…でも誰が?何のために??そして…どうやって???


「まぁ…いいや」


 さてと、私は次なる食材を探しますかね…そう思いながら、私は今日も…窓際でひっそりと時間を過ごすのであった。

 

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