急の章
急の章1
「私は君に世界を見てほしい。私がセカイをずっと気にかけていたように」
世界が崩れ落ちた。
音のない世界は音のないままに崩壊した。
俺の目の前で、この不可思議な現象に終止符が打たれた。
今の一瞬で何が起こったのか、理解できなかった。
「何、が」
「そんなに特別なことじゃないよ。君の世界はあんな面白みのない世界じゃなかったってだけ」
いいや、待て。
待ってくれ。
今の言葉一つで全てのことが完結した?
そんなもの否だ。
俺は彼女の言葉に納得をしていなければ、そもそもなんの感情も動かされはしていない。
「さぁ、暁セカイくん。デートの続きを始めようか!」
でも、何か。
閉ざされていた何かが解放されたような、そんな気がした。
だから俺はこう答える。
「嫌だね。俺は陰キャなんだ。せめて土日のどっちかに、知り合いのいない場所で誘ってくれ」
「おや? 人気のない場所でならOKなんだね」
チッ、と思わず舌打ちが漏れた。
それを聞き逃してはくれなかったようで、目の前の少女はムゥと頬を膨らませる。
「セカイくん。君は人の心を拒絶することをやめなさい」
「うわぁ、何その上から目線。イラつくんだけど」
「君もいえたことじゃないと思うよ?」
何を失敬な。
でもまぁ、とそう考えてしまうあたり俺はこの短い時間の中で感化されてしまったのだろう。
志を持って生きているとはいわずとも、人を優しく包み込もうとする彼女に。
「俺は……。俺は、お前と対等に生きてもいいのか? 人の心に寄り添ってあげてもいいのか?」
————彼女の言葉を、忘れたように元に戻ってしまってもいいのか?
「別に、彼女もあなたにこんなことをさせたかったわけではないって言ってるじゃない。それに」
風が俺たちを攫う。
これは、私からのお願いだと少女はそう言う。
「おいでよ暁セカイ。私と君と。そしてみんなの物語を始めよう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます