セカイは非日常の中に住んでいる。
おとも1895
序の章
序の章
妄想癖があるのは、小さい頃からのことだった。
ああなればいいな、こうなればいいな、と小さな妄想から、世界を滅ぼす敵から自分が地球を守ってやるみたいな大きなものまで。
厨二病……とは妄想癖の一種なのだろうが、俺は常にそんな感じだった。
それがハタリ、と止んでしまったのは中学生の頃。
俺こと不詳『暁セカイ』は交通事故にあってしまったのだ。
数年経って、高校へ進学した今も額にうっすらと残っているその傷を押さえて、今日もベットからゆっくりと足を下ろした。
「学校面倒くせぇ……」
けたたましく音を立てる目覚まし時計を叩きつけるようにして止めてから、いつものルーティーンというやつは始まる。
校則の範囲内ギリギリまで伸ばした髪の毛で、額を覆い隠し朝食をほどほどに食べてから家を出る。
途中に、同じ高校の生徒とすれ違ったが、俺が声をかけることも、相手から声をかけられることもなかった。
リア充と非リアとで分けるのなら、俺は絶対に後者であろう。
ふむ、胸を張って言える。
俺はリア充ではない!
……悲しいな。
とはいえ、だ。
別に学校生活には困っていないし、最低限のコミュニケーションは取れるし。
困っていることといえば、俺の席の真後ろが、一軍人間たちの席だということか。
そのせいでなんだかんだ話が耳に入ってきて気分が良くない。
べ、別に盗み聞きなんてしてないんだからね!?
「結衣っち。なんだか今日は元気なくない?」
「気づいた? 実は今日あんまり寝てないんだよね……」
さて俺は、気まずくなる前に退散するとしよう。
トイレにでもいっていれば、少なくとも女子の声だけは遮ることができるはずだ。
男子の話は……、まぁ、聞こえてもどうでもいいでしょう。
だって、俺だって同じ男子だもの。
女子の話を盗み聞くようなことになるよりも罪悪感が少ないし。
これは、差別ではなく区別だから。
「結衣ちぃ。好きな人でもできた?」
うん、やっぱり男子トイレにダッシュ!
結局、今日もクソみたいな授業を受けた後に、俺は誰とも会話もせずに帰ることになったのだった。
そう。
でも、そんなわけがなかった。
これは、暁セカイという人間の
何もないなんてことはなかった。
何もないなんてことがあり得るはずがなかった。
あの日から狂ってしまった俺の人生に限って。
俺はふと、奇妙に感じて立ち止まる。
なぜなら耳を澄ましても、何も聞こえてこなかったからだ。
人の声も、車の音も、風の音も。
はたまた、自分が歩くときに立てる足音でさえも……。
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