二十六話 グラットたちの戦い
二人とも上級魔族であるわけだ、なので
当然圧倒的な差を見せつけていた。
かつてアシュリーのいた町を襲った魔族たちと同等か、それ以上の魔族を相手にして尚 余裕な姿を見せる二人だが、その状況は長く続かなかった。
「さすがにお前たち相手では分が悪いという事か」
「っ!お前は……」
魔族たちの後ろから現れたのは、さきほど紅美に妙な力を与えた魔族であった。彼の登場に周りの魔族や魔物たちは動きを止める。
グラットは彼を見た瞬間その顔を憎悪で歪ませた。グレッタも同様である。
「ふふ、久しぶりだな。お前たちに会うのは」
「相変わらずニヤニヤと気色が悪いな。先代魔王を裏切った男が、今度は今の魔王か…また四天王でもやってるのか?」
「ハハッ!残念だったな、今の四天王は俺たちの時より遥かに強いぞ。当然 魔王様もな!」
その魔族は
二人は依然と不快感を隠さない。
「……どうだ?今からでも戻ってこんか…お前たちならばもしかすれば、こちらでもある程度は……」
「断る」
「嫌だね」
その魔族の言葉を遮るように二人は言った。
この兄妹にとってマハラはとても大切な人たちと過ごす、今や故郷とも言える場所。
それを易々と手放したりはしないと、強い意志を持っていた。
「ふ…バカなヤツらだ。なら、殺されても文句は言えないな?」
「やれるもんなら」
「やってみな!」
グレッタが言い終わると同時に
二対一だというのにほぼ互角の戦いをしているその魔族は、かつての魔王軍の幹部…その中でも四天王と呼ばれる実力者。
現四天王の実力が彼を上回っているため、ただの幹部という立ち位置であるものの、別に弱くなったわけではない。その証拠に今も苦戦する様子を見せない。
「ふふっ、まさかこの程度か?」
「周りの雑魚どもを使っているクセに!」
「所詮雑兵よ、物の数にもならん」
次第に魔族の配下たちも戦いはじめ、
とはいえ全ての相手はできず、幾ばくかは
彼らはそれらをあしらいつつも魔族の相手をしておりあまり状況は良くない。
「なぜここを襲撃しにきた!」
「今まで気付かなかっただけだ。誰でも足元は見えんものだろう?」
それは実に正直な話だった。
そもそも現魔王はマハラにあまり関心はなく、どちらかというと戦いを激化させる方向での考えだ。つまり、マハラへの襲撃はこの魔族の独断でもある。
「気に入らんのだ!お前たちがぬけぬけと平和に暮らしているのがなぁ!」
「俺たちはただ共存を望んだだけだ!淘汰して排他することに未来を見いだせなかった!ましてや争いなどと!」
戦い、蹂躙することを悦としているこの魔族とはそもそも折が合わなかったのだろう。しかし彼らは元々……
「腑抜けたことを…それでも俺の血族か!」
「何が血族かそんなもの!お前など…」
「ワタシたちは望まない!この
この兄妹にとってこの魔族は兄であったのだがそれでも主義主張がことなれば袂を分かつこともあるのだろう。
この
その考えとは、魔族と人間の戦争を盾に生き物…つまり人間やそれに与する者たちを殺すことだ。しかしただ殺すというだけで、それ以上の何かを望む訳ではなく、その本心はただ強者としての自分に酔いたいだけであった。
そんな暴力性など誰にも理解されないのは当然であり、よってこの兄妹から見捨てられたのだ。
「ははっ、それも強者なればこそ!強い者が弱い者を殺して何が悪い!死にたくなければ抗えばいい、勝てばいいんだよ!」
「っ!この小物が!」
戦いの最中、自分の考えに酔ったこの魔族に強烈な拳をグラットは叩き込んだ。続けざまに蹴りや肘、また拳と連撃を打ち込んでぶっ飛ばしたあと強烈な土魔法で押し潰した。
土塊から出来た岩石がこの身体を押し潰し魔族の身体を覆う。
しかしグラットは油断すること無く彼の配下を倒している。その岩石が動く気配はない。
しかしグラットもグレッタもこの魔族を倒せたとは思っていない。その根拠は自分たち…そして未だ絶えず放たれる魔力がその存在をハッキリとさせていた。
「……グレッタ、準備しろ」
「うん」
兄の合図に強力な身体強化の魔法をグレッタは掛けた。雑兵を片付け終わった今、危険なのは目の前の魔族のみ。
「みんなは町の方へ!」
グレッタが周りの仲間たちにそう言うと彼らはコクリと頷いて、戦場となっているマハラの方へ向かっていった。
今ここに残されているのは魔族と兄妹である。
「まだ寝ているフリをするのなら……」
グラットは自身の身体にある魔力を極限まで高め、思い切り跳び上がった。
その高さは大体20mといったところであるが、そこから落下する勢いと合わせて、魔法で強化された身体でその岩に強烈な蹴りを突きつけた。
岩を穿ち、さらに地面にクレーターを作った一撃はその魔族に深いダメージを与えた。
「ックソ、抜かりないな…」
「当たり前だ、狡猾なヤツに油断などバカのすること」
腹部は大きく抉られ致命傷を負った魔族。生きているのは魔族特有のタフさのお陰である。
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