二十二話 仲間の絆は垣根を越えて

 蒼佑がチュリカの質問に答える時間が続いているが、周りの皆はそれぞれ思い思いに交流をしている。


「ロックよ、また随分と強くなったようだな」


「え?そりゃそうだろ。俺にゃそれしかないんだからよ」


 バレクトにそう返したロック。二人とも自身の身体を鍛え上げ、それを一番の武器として戦っている。

 だからこその眼力、伝わる圧。


「おやおやぁ?バレットも随分とすばしっこくなったかい?」


「あぁん?そりゃあ俺の取り柄だからなぁ」


 バレットにそう言ったのは獣人族の女性、タリッサだ。

 ネコ科を彷彿とさせる耳が特徴的で、彼女も身軽さ…つまりすばしっこさに自信を持っている。

 バレットももちろんそうだ、彼は幼少期の大半を森の中で過ごしてきた。

 サバイバルにおいては圧倒的な自負があり、その身軽さはその巨躯に反してかなりの物がある。

 ロックより高い身長にゴツゴツとした筋肉質の身体。

 彼ほどでは無いものの高いパワーを持ち、虎視眈々と獲物を狙うため気配を消すことも超一流。

 また食べられる物食べられない物を当てる直感も極めて正確でほとんど外さない。

 というか外していたら今頃ここにはいなかった。

 生存競争サバイバルであれば彼の右に出る者はいない。


「どうどう?サラはそろそろソウスケとは?」


「残念ながらそこまででは……」


 興味津々といった様子でサラに問いかけたのはグレッタ。

 グレッタたち兄妹は五年前の戦いで命を落としかけた。それを助けたのが蒼佑だ。

 この兄妹との出会いが蒼佑の心に光を見出させた。


 ちなみにサラもグレッタも蒼佑が好きである。

 しかしグレッタはここマハラを拠点にしており会えない期間は長くなるし、サラはサラで蒼佑に対してどう接すればいいのかがイマイチ掴めていない。

 特にアシュリーとの一件がそうさせている。


 二人してその為にどうにも蒼佑との関係を進められずにいた。


「そっかぁ…そういえば話は変わりすぎるけど、サラってまた魔力強くなってない?」


「そうですね、修行は怠ってませんから。私は支援魔法が得意メインですし」


 サラは支援魔法のエキスパートである。

 しばらく前にあったオルスでの戦いで見せた通り、彼女の支援魔法は対魔族戦でも強力である。

 それを受けた人は一騎当千の力…とまではいかないもののそれでも英傑と言えるほどの力を得られる。一兵卒でソレであれば蒼佑やロックがその効果を受ければどうなるか、想像に難くない。

 魔王との戦いが終わったあの時からもずっと、

彼女は支援魔法を鍛え続けていた。

 魔法を鍛えれば魔力から感じられる圧のようなものも強くなる。それは常識であった。



 閑話休題…五年前、蒼佑らは魔王討伐の度の最中に、ここマハラを訪れた。

 当時はまだ今ほど大きくなかったこの場所であるが、その時は蒼佑らも様々な種族の入り乱れるマハラに困惑するままであった。

 しかし他種族であっても手を取り合えるというのは彼らにとって見聞を広げる一助となった。

 更なる出会いがグラットたちである。


 大半の種族に対して強い敵意を持っていると思われていた魔族でも、中には平和的思想を持っている者たちがいる。

 それはつまり、魔族とも和解できるかもしれないという希望であった。


 とはいえ結果は知っての通り魔王を殺してしまったということだが、それでもここマハラという一つの尊き文化を守っていくべきであると考えついたことは大きい。

 蒼佑たちにとってここは、心の拠り所なのだ。


 だからこそ、今彼らが浮かべる表情、雰囲気はとても柔らかい。



 ふと、バレクトが言った。


「そういえば、これからはどうするつもりなのだ?」


「あ?…あー、そーいやどーすんだよ。ソウスケ?」


 問われたロックは答えに困り、蒼佑にそう問いかける。彼は そうだな と少し考えたあと、言った。


「とりあえず、今の戦争を終わらせるしかないだろ。魔王を倒すか、それか和解かだけど…どちらにしろ、魔族の襲撃がこうも度々続けば色んな国が疲弊してく。そうなったら大きな軍勢をなしてくるだろうから、その前にはなんとかしたい。だから、しばらくしたら幸多たち…今の勇者に力を貸す……殺されなければだけどな」


 蒼佑の最後の言葉に空気が冷える。彼にとって一番の懸念は帝国、そしてそこの騎士であるグリエラだ。彼女がどう出るか分からない以上、最悪戦うという選択肢も捨てきれない。

 無抵抗のまま殺されるのだなんて、蒼佑は受け入れるつもりはなかった。


「ただ、しばらくはここで世話になりたい……みんな…」


「当たり前だよ!だってソウスケたちだもん、ね?みんな!」


 蒼佑がマハラの皆に頭を下げようとしたその刹那、グレッタが周りに向けてそう言った。

 それを聞いた面々は当然といった様子で頷いている。


 彼らにとって、蒼佑らは大切な仲間だったのだ。

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