かつての勇者がもう一度
隆頭《サカド》
プロローグ
一話 勇者たちの転移
生きていれば、少しくらい突飛な出来事も起こることはあるだろう。それはいつ訪れるかは分からないものだが、それでも限度というものがある。
友人の
さらに、その友人の
突如として強い脱力感に見舞われ、視界が黒く染まった。驚きと不安を抱きながらも、かすかに感じたのは懐かしさだった。
視界が開けた時、目に映る景色は見慣れない場所、外国の歴史的建造物の中にでもありそうな大きな部屋、その一室に俺たちは存在していた。
「おおっ!成功しましたぞ!」
「四人など聞いたことがない!今までにない快挙だ!」
「これで我がイルギシュ帝国も勇者誕生の国として名を馳せることができますな!」
状況が読めずキョロキョロとしている俺たち四人を放置して、豪華な服を身に纏ったそれなりの歳を重ねたであろう男女らが拍手をしながら、ざわざわと驚嘆と歓喜の声を上げている。
そして、正面にいる一際豪華な服を着た、偉そうな初老の男性が口を開く。
「静粛に……さて、私の言葉はわかるかな?私はイルギシュ帝国の皇帝、ゴードン・グラシア・イルギスだ。そなたらの名は?」
海外で使われているような響きの名前を名乗る、その男性のその唐突な問い掛けに対して、驚きながらも幸多が答える。あちらの国を参考にすれば、ファーストネームは姓ではないということだ。
そういえば、言語は同じなんだな。
「えっ、と俺は和泉 幸多。コウタが名前でイズミが姓です。そしてこっちが俺の友人たちで、えと、明海 夢愛と真木 紅美、そして隼 蒼佑です。えっと……」
しどろもどろになりならがも、一人ひとりを手で示し、俺たちの名前を答える幸多。
おそらく姓と名を説明しようとした所で、ゴードンが口を開いた。
「ふむ、そなたらの名前はわかった。詳しいことはまた後ほど聞くとしてだ、差し当たってこの状況の説明をしたいと思うのだが、如何かな?」
「あっ、と……お願いします」
「うむ、単刀直入に言えば私たちはそなたらを召喚させてもらった」
「…」
あまりにもどストレートな説明?に幸多まで完全にフリーズしてしまった。召喚ってあれよな?人を呼びつける時に使うアレ、あまり使わないワードである。
(いやいやもう少し説明の仕方とかなかったのかよ。もしかして全員揃って気が動転してるから、細かいことあれこれ言われてもそう簡単には飲み込めないだろうし、敢えてストレートに言う事にしたのか…?)
そんな俺は意外にも冷静になっていた。
こんな展開は
というより、どこかデジャヴのようなものを感じている……つまり初めてのように思えないのだ。
なので、思いきって俺からも話しかけてみる事にした。
「もしかして、別の世界から人間を召喚しなければならないような事態があったって事ですか」
直感に従った俺の質問にゴードンは目を見開いた。ビンゴってかコノヤロウ。
別の世界だなんて眉唾物だと言われていた概念の名を出され、幸多たちは驚いてこちらを見る。
「う、うむ。そうであるが、よく分かったな。今、我々人間は魔王という存在が率いる魔族達との戦争をしている最中だ、しかし状況は芳しくなく、終戦の目処も立っていない。そこでそなたらを召喚させてもらった、勇者として魔族と戦って貰う為にな」
「ゆ、ユウシャ?ってなんですか?」
フリーズから最初に復活した幸多が問いかける。そりゃそうだ、いったいそんなワードをどこで耳にするというのか。
「勇者とは圧倒的な力を持ち、闇を切り払う、我々人間にとって希望だ。魔王との戦いに勝ち、平和を取り戻す為のな」
「つまり、俺たちに戦えって事ですか?」
「そういうことだ、もっと言えばそなたにだがな。コウタ殿」
「えっ俺ですか?」
名指しされた幸多が、自身を指さしてそう返した。まるで生返事のようなソレである。
しかし、四人いるというのにどうして
「そうだ。そなたから出るその魔力、それこそ勇者の証であろう」
「…へ?」
どうやら幸多こそ、イルギシュ帝国の召喚した勇者であったらしい。なんとなく、不愉快な気持ちになった。
その後俺たちは、ゴードンに代わって別の人から色々と説明を受けた。
せめてもっと落ち着いた場所が良いのだが、
五年前に魔王と呼ばれる存在が世界に戦争をもたらした。その時にも勇者が召喚され、それによって魔王が倒されたことで無事戦争も終結した。
しかし、落ち着いたはずの魔族達だったが、新たな魔王が名乗りを上げたことで、再び戦争がを始まったらしい。
五年前に比べて敵の進撃は激しく、こちらは多数の死者を出しながら、守勢に回ることでいっぱいいっぱいで攻めあぐねていた。
そこで、五年前と同じく別世界からの人間に頼ることにしたのだとか。そこに至るまでは、色々と大変なことばかりだったようだ。
というか、そんなポンポンとできることなのか?その召喚ってのは。
俺たちはこれから暫くはこの国で修行し、後に最前線に走ることになる。
と言ってもかなり地道なことになるだろうが。
(どうして
そう思った俺はギリリと歯噛みする。胸中を黒い感情が支配していく。
この感情は、怒りだ。
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