第138話 末吉末吉 真紅

 ピンズノテーテドート七世が攻めてきたから相手をした。そのうちにイルクベルクバルクを呼ばれた。こんどは赤いヤツだ。


 ピクトと話す間に、赤い巨体は土煙を巻きあげながら、ピンズの傍に駆けつけた。コイツが動くたびに風が巻き上がり、地面が震える。

 赤いイルクの外見は────どう言ったらいいのだろう? 


 大きなかさというか皿というか、そういう円盤が合わさったよろいみたいな形だ。

 頭部は笠みたいな構造の下にある。ここは上下に開閉するようだ。

 手は分厚い指が三本で出来ていて、大まかにはボクシンググローブっぽいかな。


 全身の印象としては、巨大なダンゴムシから日本のよろいみたいなオブジェをこしらえたような、そんな外見だった。

 巨体の足元の後ろへと、ピンズは滑る。なんかアイツ、ずいぶんと息があがっているようだ。


「ピンズがさっきから足を動かさずに滑るように動いているけど。アレは、なんだ? 魔術か?」

『はい。魔術で起こした風に乗って動いてますです。風延かぜのべって魔術ですよ』

「ふーん。さすがは、魔術王ってところか」


 試しにストアから出した火の玉を赤のイルクにぶつけてみると、球形の火は赤い機体に触れた瞬間に力なく消えた。

 どこにも破片すら散ってない。機体に吸いこまれたみたいだ。


「あれって……火の玉が消されたってことか?」

『はいです。イルクは魔術をキャンセルできるですからね』


 魔術を無効化するのか。スゴい能力だな。

 パトロア王が得意気なわけだな。


「フンッ。見たかい。強力な火球が、どうだというのかなぁ。イルクには無意味だよ!」


 火の玉の割れ散った火が渦巻く地面から、パトロア王が立ちあがる。


「焼いたり、ぶつけたりして物を壊すだけの魔術など、貧しい技術だよ。先史魔術こそ古代から受け継がれた正統の魔術。強大なイルクベルクバルクすら操れるのだ」

「そうかよ。良かったな。だがオレはそんなことに興味がない。そういうことだから、もうオレに構うなよな」

「オマエの興味など知らないな。オマエを叩き潰すと私が、このピンズノテーテドートが決めたんだよ! アピュロンの御使いよッ」


 腕を突きだす赤いイルク。

 反射的にストアを使おうとしたら、とたんに目の前が暗くなった。

 目眩めまいに襲われたと同時に、足の力も抜けて、身体が震える。

 ひどい貧血だ。ケガをして血が流れ過ぎたのだろう。

 ダメだ。立てないぞ。マジか。


 でもオレが動けなくなる事態になっても、ピクトがいれば勝手に対処してくれるはずだ。

 そうだ、オレが倒れた後の行動も、あらかじめ指定しておこう。


「ピクト、オレは体調がかなり危ない。もしも気絶したら、オマエが里右を助けろ。ストアを使え」

『使用者の意識がないとツール・ユニット関連の機能は止まるですね。ピクトは動いていますけど、やはりストアの操作はできないです』

「マジか? そこを、どうにかできないのか?」


 使用者の意識がないとツール・ユニット関連の機能は止まるって、そういう重要なことは、戦闘の前に注意事項として教えといてくれないかな。

 少なくとも、こんなギリギリの場面で知る情報じゃないぞ。


『助ければいいのでしょう? だいじょうぶ。自動的な対応と現地調達した機器を使えば、対応はじゅうぶんに可能です。里右さんも助けますよ』


 あ。どうにかできるのか。良かった。やっぱ、ピクトは頼りになるな。


 赤のイルクは、どんどん迫り、オレに向かって腕をのばす。

 なのに標的になったオレは、身体が重くてまったく動けない。これはヤバいぞ。


「まだかピクト、ストアとか使わないでもいいのか? 」

『いえいえ、今回に限っては、こちらから動く必要とか、ぜんぜんないのですよ』

「え? どうしてよ?」


 ピクトの返答を聞いていると、オレまであと4メートルのところまで迫るデカい金属の拳が、ふいに止まった。


 パトロア王を見ると、さかんに手を振り回している。

 操るヤツは、ジタバタしている。なのに、さっきまでその動きを模倣していた赤いロボは、止まったままで微動だにしていない。


「おい! どうした。なぜだ。イルクが、真紅が動かない!」


 ピンズノテーテドートは大声をあげるが、ロボは固まったままだ。

 いつの間にか、オレの横にどこか異国の衣装をつけた老人が立っていた。


「どうして赤いヤツは止まっている? ピクトが、なにかしたのか?」

『いいえ、ピクトじゃないです。こちらはなにもしてないです。えーとお、隣の年配の人が、赤いイルクの制御を奪っていたです』

「え? だれ? どうして?」

『10日前にデ・グナと一緒にカルプトクルキト大森林のセタ・ラシナへ攻めてきた人です。青いイルクを操っていたです。現在は、この人が赤いイルクを操ってるです。理由は、不明です』


 横の人物へ目を向けたとたんに、蹴り倒された。


「邪魔だッ小僧」


 なんだよ、コイツッ! いきなり他人を蹴り飛ばすとか、ふつうないぞ。初対面だぞ。なおかつケガ人だぞ。


『相手は主が誰かをわかってないですね。このすきに危険区域を逃げるですよ』

「そ、そうだな。ムダな戦闘は、やるべきじゃないよな」


 この老人とピンズノテーテドートには因縁いんねんがあるらしい。

 先を急ごう。里右が待っている。

 あ、ディゼットも、連れて行かないとだな。でも、どうする?


「真紅のイルクの後ろにいるのは、当代のピンズノテーテドートだな」

「だったら?」

「我はセルヲル・ファシク。キサマらピンズノテーテドートは、ファシク家の仇。いまより、仇を討つッ!」


 ピンズは、セルヲルと名のった老人をいぶかしがるというか、困惑こんわくした顔で見ている。


「知らないな。ファシク家? なんだそれ? 退けよ爺ッ」


 話しながら左手の布の輪を巻き直している。

 腕を振り操作しようとしているが、やはり真紅のイルクは動かない。


「チッ、いったいどうしたのかッ真紅!」

「なんとな。まだ気がつかないのか? めでたい愚か者よな。もはやおまえにイルクは操れないぞ。この機体は我が掌握しょうあくしたゆえな」

「私が真紅を操れなくなった?」

「ファシク家の者だけが、真にイルクを動かせるのだ。我は100年かかったがな」


 ふたりが争っているうちに早くここから離れたいとは思うのだが、体はうまく動かないし、ディゼットは起きないし。

 あー、これどうするよ?






※ セルヲルファシクの画像(線画)は以下に掲示https://kakuyomu.jp/users/0kiyama/news/16818093089913113952

 


※ 〝真紅〟の画像(線画)は、以下に掲示。


 https://kakuyomu.jp/users/0kiyama/news/16818093089831127390

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