第146話 里右里左 予言の日


 ストアのなかでコールドスリープして 、150年後の世界(異世界)で目が覚めたら────

 空から尾をいた光の球がたくさん落ちていた。

 大きな音もドンドン空気を震わせて鳴っている。

 うるッさいなあ、もう。なに祭りよ?


 周囲状況をマップで確認する。

 そうか、戦争の真っ最中だったか。ある意味、予想してたけどさ。

 ん? すごくせきが出る。

 なにこの黒い煙。この辺りぜんぶ黒い煙におおわれている。なんか熱いし。


「うわッ、なにこれ?」


 びびったぁッ。横に巨大ロボットいるし……

 なによ、このシチュエーション。ロボットもののアニメのエンディング? 

 ロボは、動かないみたいだけど。危険はないのかな?


 あれ? これってイルクベルクバルクってヤツ?

 いまは、こんなの戦争に使っているんだ。私が寝ている間に世界はずいぶん変わったらしいわ。


 ああやっぱり。

 VPバーサタイルポイントが山ほどまっている。

 それと、システムからのメッセージ……そうなのかあ。やっぱりそうなんだ。

 あとは、それと目の前に……


 末吉末吉。

 ガレキにもたれかかって、こっちを見てる。

 初めて見るけど、間違いない。

 変なマント着たおじさんだ。血だらけでキズだらけで、完全にヤバい人の風体だけど。だけど────


 なんだろう。動けない。

 なんだろう。泣きそう。

 だけど、なんだろう。

 嬉しくてしかたがないや。


 ほんとうに、ここまで来られたんだ。

 スゴいな。

 あ、なにか喋ってる!

〝オレには、みつけられない……〟


 ハハハ。なにいってるんだろうね。

 もう、じゅうぶんだよ。来てくれただけで、じゅうぶんだよ。


「だいじょうぶ。私が見つけたから」


 ここからあんまり覚えてない。頭がオーバーヒートしてた。

 次に我に返ったら、末吉がぐったりしてた。

 ええー。マッズッ。話しかけて、しばらくして末吉が倒れたの。

 やっと合流したとたんに気を失うとか、どんな緊急事態よ。


「しっかりしてよ、末吉ッ!」


 あ、ちょっと意識戻った。

 話しかけながら、急いでメディック・ユニットで末吉の身体を調べる。

 見た目が、もう大ケガだ。

 右耳なくなっているし。左腕とかほとんど千切れている。血液量だってとぼしい。

 いまはとにかく造血作業ぞうけつさぎょうをメインで。

 また、意識が途切れてる。あーでも、すぐに気がついてる。

 安定しないなあ。ヤッバいよね。


 受傷じゅしょうの状況は────撃ち抜かれたみたいに身体の表面から内部までポッカリ消えてなくなるとか、どんな攻撃を受けたのだろう。

 よくここまでたどり着けたよね。

 でも元通りに治してあげる。絶対に。

 重傷だからナノマシンをたくさん入れても、すぐには回復しないんだよね。


「言ったからって、ほんとに来る? あんた、死にかけているじゃない。もしも私が死んでいたら、共倒れだよ」


 なによ、その笑顔。うわウインクとか、やめてほしい。

 あ、違った。

 片目が開かないのか。重体じゅうたいだなあ。

 ほんとに身体、ボロボロじゃない。


 末吉の立場から見たら私は、もしかしたら生きているかもしれない、たどり着けるかもしれない場所に、いるかもしれない人間でさ。

 なにもかもが〝かもしれない〟って不確かさ、だよね。

 命がけで来るには、割にあわないよ。


「ほとんど可能性なんて、なかったじゃない」


 でも、ためらわないんだもんな。ほんとヤバい人間だ、この人は。

 私のことを、自動的に問題を解決する仕組みだなんて言ってたけど、この人こそ他人を助けずにはおかないシステムなんじゃないの。


「ほんと、バカじゃないの」


 カッコ良くてしかたない。

 よく生きてたどり着いてくれました。

 ありがとうね。


「ほら、末吉、重大そうなケガの部分は繋がったよ」

「……ん、悪いな。ありがとうな」

「栄養補給もしたらいいよ」


ミールユニットを渡す。


「ん? なにこの銀の筒、飲むのか? ああそうか、これがアピュロン星人の食料だろ? ミール・ユニット。たしかゲロ不味まずいって言ってたよな」

「うん。でも味は変えているから、だいじょうぶ。完全栄養食だから点滴だと思って食べて。味はバナナミルク風味にしているし」


 末吉はパクパク食べているけど、まだボンヤリしている。


「そういえば里右、霧の魔女って、里右のことだったんだな」

「ええッ? そう呼ばれているって前に言ったよ」

「あー、そうだったっけ。悪いな、覚えてない。バタバタしているときに聞いていたのかも」


 というか、異世界に転送されてから生きるか死ぬかで、ずっとバタバタしていたんだよね。


「どっちでもいいと言えば、いいのだけどさ。呼ばれ方としては、魔女じゃなくて魔法少女のほうが良かったかな。だけど年齢制限なのか、ラシナの人たちからは、魔女って呼称だったわ」

「そうなのか。よく知らないけど、魔法少女とかそういうのは、日本独特の呼び方じゃないのかな? もっとも150年もの持久戦に持ちこんで勝機を探す人間は、やっぱり魔女っぽいよ」


 それはそうかもだけど、他にはどうしようもなかったの。ほんとうにギリギリの所まで追いつめられたからね。

 むしろ自分の力だけでは解決できないことを、先送りにできただけでも上出来だったと思う。


「私が谷葉に勝てるとしたら、末吉が側にいることが必須ひっすだったの。逆に言うと、末吉がいればピンズノテーテドートだろうと誰だろうと負けないから」

「ハハ……里右の信頼が重すぎる……」


 勝機ができるまでに、150年間が必要だっただけ。

 結局はメディック・ユニットならコールドスリープも楽勝でできたし。

 割のいい賭けだもの。

 視界のマップの名称とその解説を拾ってだいたいの状況がわかった。


「そうかぁ。あれ、永久焔獄という名前なのね。厨二ちゅうにな名称だね。しかし、末吉はよく壊せたね。あんな大きな異世界コンクリートの塊」


 レベル2のストアの効果は、やっぱりモノが違うと実感できた。

 範囲が違うと運用が変わるのね。武器から兵器な感じになるんだ。


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