第18話 金と銀の蝶々 〜白崎なな
金と銀の蝶が女性を取り囲み、輝く鱗粉が女性の白の衣をキラキラと輝かせていく。ふわりと白の衣を靡かせて、白の傘をさした。ふわふわと柔らかい白の衣は、彼女の身体を優しく包んでいる。
「花の精霊が、私のことを神にしてくれたの。でも、人間界に落とされて……」
この女性は、女神のように感じさせたとおり神だった。金銀に輝く鱗粉が、彼女の神々しさを際立てている。
急に自分の話をし始めて、懐かしさを憂いを帯びた表情を見せた。唐突な話に、俺の耳をするりと流れて行ってしまう。
「えっと?」
俺は、彼女の眩い光に目が眩みそうになる。女性の視線に負けないように、一歩前に出て息を吸い込んだ。金の蝶が、遊ぶように俺の肩に乗った。
「花の妖精は、私に微笑んでいる。まっすぐに照らしていたこの輝きを、私は忘れていたのかもしれない」
人差し指を出して、1匹の蝶を止まらせる。その蝶が、辺りを照らすように空に舞い上がっていった。光を落とし、星空に馴染んでいく。同じ蝶が、彼女の手の中に戻ってくる。蝶が必死に羽を動かし、先ほど木の幹の中へ入った鍵のナイフを持ってきていた。
彼女の手の中で、綺麗に輝くナイフは美しい。
「このナイフは、昔これを残して…… 私は神になったの。私が人間界に戻ってきて、私と繋がるこのナイフを探していた」
蝶が撫でるようにナイフの上で踊る。三つの赤白翠の魔石が、ナイフからふわりと浮かび上がった。そして、その魔石は彼女の手の中に落ちた。
「このナイフは、なんでセレナさんが持ってたんだ?」
俺は、浮かぶ疑問をぶつけた。女性は、俺の顔を見てズンズンとこちらに進んでくる。目の前まで来て、近い距離に思わず一歩後ろに下がる。
「このナイフはね、私を助けてくれた大切な人に渡したの。私が神になる時に、助けてくれたのがセレナ」
(たしかに。どこからやってきたのかわからない俺にも、手を差し伸べてくれたんだ)
セレナさんが髪を靡かせて、笑いかけていたあの姿を思い出す。月の光が青白く、長いピンクの髪が浮かんでいた。
彼女は、手の中で魔石をコロコロと転がして遊んでいる。
「もしかして…… セレナさんは、俺たちのこと知ってるのか?」
彼女は天を仰ぎ、大きく笑い出した。ひとしきり笑い、一回転ぐるりと白い衣を靡かせた。相当嬉しいのか、胸にナイフを抱きしめ瞼を伏せている。小さなナイフは、彼女の手の中に収まっているはずのサイズだ。そのはずなのに抱きしめている様は、大きな宝物を抱きしめているかのように見える。
俺の方を見て今までの表情と打って変わって、大地全てを照らすような微笑みを見せた。
「さあ? どうだろうか。本人に聞くといいよ。このナイフにまた会えた。もう私は、人間界にも天界にも未練はもう無い」
丁寧な所作でナイフを彼女は、撫でて蝶の光を当てて美しさを確かめているようだ。流れるような滑らかな動きに、魅入ってしまう。
ふわりと笑みを見せて女性は、自分の白の衣の隙間にナイフを滑り込ませた。
「兄弟、仲良くやっていってね。セレナによろしく」
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