#1 邪魔が入ってしまった

【アメリカ合衆国・ロザンゼルス・某港】


 シェイクは煙草を取り出した。

 夜なのにサングラスをかけ、ライターで火を付けて吸う。

 軽くフッと煙を吐き出してからライターを胸ポケットにしまい、暫くプカプカと煙で遊ばせていた。

 これが大仕事を始める時のルーティンだった。

『こちら、ラム。配置についた』

 彼の鼓膜に付けてある無線機から女性の声が聞こえた。

 チームの一人だ。

『こちら、トレイン。今、ターゲットの近くにいる』

 今度は違う男の声がした。

『おい、トレイン。勝手に行動すんじゃねぇぞ〜?』

 そうかと思えば酔っ払いみたいな声に変わった。

『それはあなたの方じゃないの? プルーン?』

『ぬぁにぃ〜? 俺の……俺がいつ勝手な事をしたっていうんだ〜? あ〜?』

『前、ターゲットの情報を聞き出す前に殺しただろ』

『あ、あれは奴が銃を隠し持っていて、てっきり撃たれると思ってだな……』

「おい、無駄話してんじゃねぇぞ。そろそろ取り引きが始まるぞ」

 シェイクがようやく無線で仲間達の気を引き締めさせると、サングラスを外した。

 狩人のように鋭い目つきで、コンテナから顔を覗いた。

 彼から少し離れた先に、黒の高級車が二台、向かい合っていた。

 その前には恰幅な服を来たハゲ親父が一人の男に握手を交わしていた。

 相手の後ろ姿しか見えないが、中折れ帽とコートの衣装さえ分かれば容易だった。

 あれが今回の彼らの獲物だ。

 

 遡るほど数時間前。

 民間軍事会社の会議室に『Xクロスペンタクル』のメンバーが集まっていた。

 新たな任務か、それとも解散か――などと話をしていると、代表取締役が来て、彼らにあるビデオメッセージを見せた。

 アメリカ合衆国大統領ヨーカンだった。

 映像では彼は秘密裏に『悪魔の商人』と呼ばれる男の暗殺をしてほしいと要請してきた。

 大統領曰く『悪魔の商人』は独自に開発した劇薬を大量に他国のマフィアに売り飛ばす計画を企てているらしい。

 もしそれを許してしまえば、たちまち世界のパワーバランスが崩れてしまうのだそう。

 彼らは休暇が欲しいなどと文句を呟きながらも引き受け、今に至る。


 ハゲ親父の周囲には大勢の護衛が銃を持って警戒していたが、悪魔の商人には一人もいなかった。

(余程撃たれないのに自信があるのか。あるいは……)

 シェイクはそう思い、ある人に連絡した。

「こちら、シェイク。ゴールド、船の中に悪魔の商人の取り巻きどもはいないか?」

 ゴールド大佐は彼の上司で、武術や銃の使い方などあらゆる事を教えてくれた師匠的な存在だ。

 それなのにタメ口なのは、ゴールド大佐が敬語を使う事を禁じられているからだ。

『いや、ない……ん?』

「どうした、ゴールド?」

『いや、急に足元が眩し……』

 ゴールドの無線はそこで切れた。

 すると、あちこちから悲鳴が上がっていた。

 無線からも仲間の驚愕と絶叫が聞こえる。

 シェイクは『悪魔の商人』の仕業だと思い、彼がいる方を見た。

 が、後ろ姿で分からなかったが、取り引き先のマフィアのボスは知らなかったようで、醜悪な断末魔を上げて消えていった。

(一体何が起きて……)

 シェイクは突然の事態に困惑していたが、彼の足元も光り出した。

「クソッ!」

 彼はとっさにサングラスをかけたが、それとほぼ同時に包まれてしまった。

 こうしてロサンゼルスの某港で行われるはずだった『マフィアVS最強傭兵部隊』の激闘は謎の光によってぶち壊されてしまった。


「ようこそ! 女神の間へ!」

 シェイク達が目を覚ますと、古代ギリシャを彷彿とさせるキトンを着た半裸の女性が大声で歓迎してくれた。


To Be Continued……。

 

 

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クロスペンタクル〜世界最強傭兵軍団の異世界無双〜 和泉歌夜(いづみ かや) @mayonakanouta

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