乙女な神官戦士と魔法学院教授の異世界法医学ファイル~ボク、スパダリでハーフエルフの先生と一緒に完全犯罪は見逃さないの!~

GameOnlyMan

第1章 ミアとフィン。最初の事件。

第1話 今日もミアは元気っ娘。

 王都の朝は、いつも早い。

 こと、平民向け市場や商店が並ぶ下町は、夜明け前。

 一つ目の鐘が鳴る前から動き出している。


 既に日が昇り、二つ目の鐘の音が街の中心にある神殿の塔から聞こえてきた頃。

 市場では朝の仕入れが終わった店舗が開店。

 初秋の今、収穫されたばかりの作物、冬ごもり前の脂の乗った獣肉などなどが至る所で販売されている。

 市場は、朝から多くの客でごったがえしていた。


 そんな中、下町方向から市場に元気よく飛び出してきた少女。

 彼女は、少々下品ながら可愛い口に長いバケットフランスパンを咥え、もぐもぐ食べながら走る。

 長くて綺麗な生脚で疾走。

 市場の客にも挨拶をしながら、するりと走り抜ける。


「むぐむぐ。ちっこく、遅刻。今日は昼までに先生に会う約束してたのにぃ!」


「ミアちゃん。今日も遅刻かい? 寝る子は育つっていうけど、ミアちゃんは、あまり大きくならないねぇ。こいつでも食べときな!」


「むぐ。ごっくん! もー、おじちゃんのエッチぃ。ボク、これでも去年よりは色んなとこ、少しは大きくなったんだよ! でも、ありがとーね」


 一気にバケットを喉に押し込んだ少女、ミア。

 今度は露店の主人から投げられた硬めのペア洋ナシを、ひょいと受け取る。


「ウチからは、焼きたてソーセージだ」

「じゃあ、こっちは朝取れミルクだよ」


「うわーい。美味しいよぉ―!」


 何軒もの露店から投げ込まれる食べ物。

 それを危なげも無くひょいひょいと受け取っては、美味しそうに食べていくミア。


「皆さん、いつもありがとうございますぅ」


 あっというまに、されど満面の笑みを浮かべながら全てを食べたミア。

 ペコリと丁寧に、市場のオジサンたちに頭を下げた。

 その動作に、綺麗な栗毛を編み込んだ三つ編みがぴょこりと動作に一瞬遅れて動く。


「いやいや。市場の安全は、いつもミアちゃんが守ってくれているからね」


「そうそう。ミアちゃんが王都警察に入って市場や下町を巡回してくれるようになってから、盗難や傷害、恐喝なんかがめっきり減ったよ」


「それに、いつ見ても気持ちの良い食べっぷりさ。これで、どっかにもう少しお肉が付けばねぇ」


「何処見ているんですかー! もー、おばちゃんのえっちぃ、馬鹿ぁ!」


 笑顔で胸を両手で抑えつつ、怒ったそぶりを見せるミア。

 彼女は成人十五歳になった直後、王都警察に就職。

 今は二年目、下町担当の警官として王都の安全・平和を守っている。


「きゃー!」

「ひったくりだぁ!」


 そんな時、老婆らしき女性の声が市場に広がる。

 悲鳴を聴き、ミアはあどけない笑みを浮かべた少女の顔から、一瞬で真剣な警官の顔になる。

 そして、声の上がった方向を魔法にて強化した眼で見た。


「アイツか。あの速さなら、魔法の身体強化込みだね。おじちゃん達、おばーちゃんの手当を宜しく!」


 老婆からひったくりをする男が人ごみをかき分け、ものすごいスピードで走り逃げるのが、ミアにはっきりと見えた。


 そして商店主たちの返答を聞くまでも無く、ミアは飛び出す。

 彼女は、得意な身体強化魔法を起動。

 まるで猫科の大型動物にように、魔法の金色のオーラを纏ったミアはしなやかな身体を動かし街中を疾走。

 犯人が走る方向から、彼が逃げ込むであろう先を予測した。


「おいちゃん、ちょっとごめん。木箱を足場に借りるね!」


 ミアは、走りながら顔馴染みの商店主に声を掛ける。

 彼女は返答も待たずに、短めなハーフパンツから飛び出した健康的な生脚を木箱に掛け、壊さない程度の体重をかけてジャンプ。

 そのまま身長の二倍三メートル以上はある商店の屋根にふわりと飛びあがるパルクール

 ミアは屋根の上、ショートカットコースを飛ぶように走った


  ◆ ◇ ◆ ◇


 行き止まりになった路地裏。

 朝ながら薄暗い場所に、ひったくり犯は逃げ込んでいた。


「はぁはぁ。ここまで逃げたら大丈夫だろう。軍の伝令役までやってた俺の脚に追いつく奴なんか……」


 身体強化魔法を使って走り逃げた「ひったくり犯」。

 追っ手を完全に振り切ったと安心し、奪った布袋を広げようとしたとき。


「甘い! 実に甘いです! お天道様てんとうさまが見逃しても、ボクは悪を見逃しません! おにーさん、観念して己の犯した罪を数え、償うのです!」


 彼の前に、ミアが突如現れた。

 ミアはビシっと指を犯人に突きつけ、彼女が先生に昔教えてもらった物語の主人公の台詞を叫んだ。


「やせっぽちのチビメスガキがぁ。偉そうにしやがって、組み伏せたうえで犯して泣かせてやるぜ」


 ミアの風体を見、まだまだ成長盛りの小娘と判断した「ひったくり犯」。

 いやらしそうにハーフパンツから伸びたミアの生脚を見つつ、舌なめずりをしながら、懐から大型のダガーを引き抜いた。


「市場での武器使用。老婆への強盗傷害。そしてボクへの公務執行妨害。ぜーんぶまとめてボク。ミア・フォンブリューヌ巡査が逮捕します!」


 ミアは愛用の伸縮式ロッドを身長155センチほどまで伸ばしつつ、ささやかな。

 そう、まだまだ成長の余地があるであろう「ささやか」な胸を張る。

 鎖や金属リベットで内張り補強された革製ベストブリガンダインの胸に輝く紋章を、ミアは犯人にアピールした。


「なにぃ。メスガキがぁ、王都警察だとぉ」


「ガキでごめんね。さあ、観念して大人しく逮捕されるなら痛くしないよ?」


「ぬ、ぬかせぇ!」


 挑発気味に犯人をおちょくるミア。

 そんな様子に怒りを覚えたのか。

 犯人は、やぶれかぶれになってミアに飛びかかった。


「攻撃してきたね。これで正当防衛せーりつ!」


 しかし、仮にも若くして警官となったミアの敵では無かった。

 嬉しそうな顔でミアはロッドを振るう。


 一瞬の交差の後、ミアは犯人を昏倒ノックアウトして捕縛した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「おばーちゃん、大丈夫? 何処か痛くない? 荷物、取り返してきたよー!」


「お嬢ちゃん、ありがとね。荷物を取り返してくれただけじゃなく、治癒魔法までかけてくれるなんて」


「気にしなくてもいいよ。ボク、これでも警官だし神聖魔法も使えるんだ。怪我している人はほっとけないもん」


 犯人を、警ら活動をしていた兵士に渡したミア。

 犯人から奪い返した荷物を持って、市場まで戻った。


「流石は、俺たちのアイドル。ミアちゃん!」

「ミアちゃんのおかげで、今日も市場は平和さ」

「これ、追加で食べときな。ミアちゃん。朝から走ってお腹空いただろ?」


 「えへへ。こっちこそ、ありがとー」


 笑顔の露店のオバちゃんから甘そうなクッキーを貰い、満面の笑みを返すミア。

 彼女は、皆の笑みが大好きだ。

 だから皆の笑みを守る為に警官となり、今日も悪人を捕まえる。

 王都の平和を守るのは自分だと自負していた。


「で、ミアちゃん。今日は遅刻じゃなかったのかい? 朝から走ってたけど?」


「……あー!!! しまったぁ。警察署に立ち寄ってから先生のところに行くはずだったのぉ! どーしよう。ボク、また署長に怒られちゃうよぉ!」


 頭を抱えてしゃがみ込むミア。

 そんな彼女を見て、周囲の人々は暖かく笑った。

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