単身女性世帯に対する単身男性世帯による扶養に関する法律(略称、単女扶養法)

駄文科卒

《啓発動画を開始します》

 

 5年の海外勤務を経て、俺、Y谷明彦はようやく日本に帰ってきた。

 成田の入国審査場で、俺を担当した係員は、何というか、そう珍獣を見る目をしていた。審査に引っかかるような心当たりは皆無だ。今日の俺のスーツは何かおかしいのだろうか?

「Y谷明彦さん、年齢36歳、貴方は独身ですね?」

「ええ、海外にも日本にも扶養家族はいません。単身で海外勤務に行って、帰ってきたところです。日本は5年ぶりですよ」

「なるほど、なるほど。5年ですか。この5年で日本は随分と変わりましたよ」

 そうだろうか?空港の光景はよくも悪くも5年前とほとんど変わっていないように思える。

 変化の激しい、北米とインドを往復する毎日だったからか。特にインドは毎月のように何かしら建物が置き換わり、窓から見る風景がどんどん変わっていた。それに比べれば、日本の変化のなさには、むしろ違和感を覚えてしまうくらいだ。

 いやしかし、5年前は空港がこんなに空いていたか?自分が記憶しているよりも、人影が半分ほどしかない。

「近々また出国する予定はありますか?」

「いいえ。すぐまた海外行きはないはずです。しばらくは日本で働く予定です」

「そうですか。お気を強く持ってください」

 係員は哀れむような、祈るような表情で、俺を見送る。俺は何とも言いがたい違和感を抱えたまま、空港を後にした。


 5年ぶりの帰宅。一階がガレージとなっている我が家は、ハウスキーパーのおかげでおおむね清潔に保たれていた。定期的な空気の入れ換えと簡単な掃除のみだが、頼んだ甲斐があったというものだ。

 とはいえ、手が届いていない箇所も多い。棚の奥などは埃が積もり、蜘蛛の巣が張っている。

 もともと物を多く持たない性格なので、クローゼットなどは殆ど空。ほぼ空き家状態で掃除しやすいのがせめてもの救いか。

 生活用品や衣類などは輸送費を考えて、高価な物や思い入れのある物を最低限だけ空輸し、他は処分した。明日は当面必要な分だけでも生活用品を買い足さなければ。

 そして何より、移動手段がない。

 せっかく大枚はたいて建てたガレージハウスなのに車がない。北米で使っていたポルシェはまだ太平洋の上だ。バイクはあるが、長期保管のせいでタイヤが劣化しきっている。バッテリーも外していてエンジンがかからない。さび止めをたっぷり塗っておいたからサビはないはずだが。一度バイク屋に預けてメンテナンスしてもらうとしよう。


「じゃあ、和也もようやく離婚成立か」

 大学時代からの我が悪友、A木和也と、ネットのビデオ通話で改めて帰国の挨拶をする。

 帰国して一週間、役所の手続き、仕事の引き継ぎ、引っ越しの荷ほどき、生活用品の買い出しと慌ただしい日々がようやく一段落した。

 和也が答える。

「ああ、再来週の調停でようやくまとまるよ。親権は全部向こうに持って行かれるけどね」

 和也は、俺が海外勤務に出る少し前に結婚し、そして俺が海外勤務から帰る話が出てきた頃に離婚話が持ち上がった。結婚期間は5年。

 和也は俺と違ってイケメンで、昔から女にモテていた。浮気癖もない。さぞいい夫、いい父親になれるだろうと思っていたのに。離婚は嫁の方から切り出されたらしい。

 俺はレーシングスーツを着込みながら、軽口を叩く。

「共同親権は無理だったのか。にしても、たった5年で離婚かよ。ご祝儀をいくらか返してくれ」

 俺の揶揄に和也は失笑を一つ。

「勘弁してくれ。本気でへこんでんだぜ。それに5年は、最近の結婚にしちゃ長く保った方だ」

「嘘だろ。たった5年だぞ」

「もう5年だよ。ここ最近の平均結婚継続年数って知ってるか?4年だぞ。それでも俺にとってはキツすぎる5年間だった。服役してた方がはるかにマシってぐらいにな。その間、日本は随分変わっちまったよ」

 またその話か。ガレージのシャッターを開けながら、俺はどうにも座りの悪い心地で聞き返す。

「日本が変わったって、空港でも言われたよ。まあ、あのト○タが全面的に北米に移転するとかあったしな」

「それもあるが。それ以上にヤバイことがあってな。とんでもない法律が出来た、コイツで日本全体が酷え事になってる」

「?」

「それはまた別の時に話すよ。今は離婚で頭がいっぱいでな」

「ま、今さら思い詰めてもしゃーない。切り替えてけ。和也も晴れて独身に復帰だろ。またツーリングに行こうぜ」

 和也との通話を切り、ヘルメットをかぶる。

 そう、愛車がバイク屋のメンテナンスから帰ってきた。ミドル級オンロードスポーツ。しかも近頃では絶滅が危惧される4気筒エンジンだ。クラッチ操作が不要の機構が組み込まれている。

 俺は、愛車にまたがり、エンジンに点火。4気筒の細かな振動が体をくすぐる。

 バイクにはこだわりのカスタムパーツを各所に奢ってる。手を掛け続け、思い入れがたっぷり詰まったマシンは、年単位の海外勤務を前に、俺に長期保管を決意させた。

 クラッチ操作抜きでシフト、1速に。4気筒エンジンが奏でる甲高い音と共に、俺は首都高へ走り出した。


 5年ぶりの首都高は空いていた。懐かしさよりも、もっと飛ばしたいという欲求を抑え込むのに苦労する。見て分かるだけでもオービスの数が増えている。うかつなことをすれば、免許証の点数は瞬時になくなるだろう。

 首都高を走っているのは、大半が商用車、トラックやバンだ。かつての記憶に比べ、自家用車は少ない。バイクに至ってはほとんど見かけない。俺は、過去の首都高を思い出しながら、いつしか自身の過去を辿っていた。

 俺は、はっきりとモテない男だ。金壺眼、厳つい顎。身長こそ高いが、むしろ威圧感しかないタイプだ。

 中学高校で異性を意識したこともあったが、気になる異性に俺の外見について陰口を言われた時に、興味が失せた。いや、あれは陰口だったのだろうか。明らかにこちらに聞かせるつもりの声の大きさだった。なら日なた口か?らちもない考えに失笑する。

 中学高校は勉強とラグビーに邁進し、旧帝の国立大へ現役合格。大学の講義と、専門学校の資格勉強、学費と生活費のためのバイトで4年間が過ぎ、努力の末、難関とされる国際的な資格を取得した。大学卒業後、大手商社へ入社し、数年後には国際的コンサルティング会社へ移籍。

 およそ、異性との交際以外では成功者といっていい経歴だろう。一昨年、マネージャーに抜擢され、年俸は50万米ドルを超えた。今年はさらに役職が上がった。インセンシティブで得た株式のキャピタルゲインを含めれば、年俸は一気に跳ね上がるだろう。

 これだけ稼いでいれば、さぞかし女にモテるだろうと思われがちだが。

 答えは、いいや全く。

 商社時代に先輩に連れて行かれた高級風俗店で、俺の異性への意識が変わった。俺のようなつまらない男でもただ金を出すだけで、モデル級の美女とたっぷりと楽しめるのだ。サービス、気配りも完璧だった。それも10万から20万円、たったの1000米ドルで。これぐらいなら、毎週だろうと余裕で通える。

 俺の中で異性と交際しようという気は、完全に失せた。ようするに俺はただ気持ちよく自分の中に溜まったものを吐き出せれば、それだけでいいのだ。それまで俺の心の奥底でわだかまっていた、異性へのコンプレックス。その根本にある、女からの癒やしも、女に受け入れられ認められたいという承認欲求も、子供すらも、実のところ俺には意味がないと分かってしまった。

 俺にとっての女とは、たまに気晴らしで買うものでしかなくなった。

 首都高は湾岸線西行きの長いストレートに入った。スロットルを捻る。暴力的な加速が、らちもない思考を振り払った。


 帰国から1ヶ月後、休日の午後に、自宅で俺はゆったりとした時間を楽しんでいた。イエメン産のコーヒー豆を挽き、ペーパードリップで抽出する。豆を挽くミルはやたら高価だっただけあり、スムーズな引き心地と安定した挽き目が出ている。

 タブレットに表示しているネットニュースが、トピックを伝えてくる。

「円ドルの為替相場は円安に歯止めがかからず、先日の相場で一時は1ドル=250円まで下落しました」その原因は日本の主な輸出産業が、次々と海外に機能を移転していること。貿易赤字が大幅に拡大し、ついには経常収支すら大幅赤字に転落する見込みだ。

「20代30代の男性を中心に、国外への移住が相次いでいます。今年は昨年よりも10万人増え40万人に達する見込みです」

 それも高度な教育を受け、専門的な職能を身につけた人材ほどだ。このまま10年もすると、単純労働者しか残らない計算になる。

 俺にとっては周知の、そして暗い事実にうんざりして、音楽配信に切り替える。休日に聞きたい話題じゃない。

 とその時、インターホンが鳴った。

 来客の予定はない。宗教か飛び込みセールスか?

 インターホンのカメラで来客を確認すると、女2人と男1人。男と女のうち1人はきちんとスーツを着ている。その後ろに控えたもう一人の女は、なんだ?妙に子供っぽい恰好をして、大きいトロリーバッグを持っている。

 スーツの女が「I西市の福祉保健所のK島と申します。Y谷様はご在宅でしょうか」

 居留守を使うことも一瞬、頭をよぎった。が、わざわざ役所の方から自宅にやって来たんだ。これを無視すれば、後でより面倒なことになると知っている。俺は諦めて玄関を開けた。


 福祉事務所の職員K島が、とうとうと玄関先で語った。その説明を要約すると、

「つまり、単身女性扶養法に則って、Y谷明彦さん、貴方には女性を保護し扶養する権利と義務があるんですよ」

 さらに、

「私たちがご紹介する女性と同居していただき、生活を共にする。交流を持つことで人間関係が生まれ、貴方の人生にも潤いが出るはずです」

 男の方、福祉事務所のNが言いつのる。

「貴方は十二分な資産・収入がありながら、その全てを自分一人のために使っている。いわゆる独身貴族です。そして日本では貴族は許されてはいません」

 単身女性扶養法、そういう法律が日本で成立したのは知っている。30代40代の独身男性と独身の女性を同居させ、ゆくゆくは結婚と出産をさせることによって、出生率の改善を狙った制度だ。

 だが、今の今まで、この俺に適用されるとは思っていなかった。異性との交際なんて、意識から全く抜け落ちていた。

「突然家にやって来て、人一人を引き取って養えというのは無茶でしょう」俺は喚きたいのをぐっと抑えて「まず私の意思や希望を確認するのが筋ではないですか」

 と、そこへ後ろに控えていた女が出てきた。

「いい加減、客を玄関先に立たせてるってどうなの。さっさと中に入れてお茶でも出しなさいよ。礼儀がなってないわね。これだからモテない男は」

 その女は、ファッションこそ20代前半だが、肌の質感とシワはどう見ても30代後半以降のそれだ。まぶたはたるみ、目元は不自然に垂れ下がり、逆に口角が異様につり上がっている。美容整形と老化が顔面で綱引きして、顔の上半分はおかめ、下半分は般若という異形を生み出している。肩まで伸びる髪は、ピンク色に染められているが、根元は地毛の黒、奇怪なツートンだ。

 悪い意味であっけにとられる俺に、K島が反論してくる。

「この制度では、女性側の意思を確認し同意を取りますが、男性側の同意は必要ありません。貴方は行政AIによって選ばれた女性と同居し、生活を助け合う義務があります」

 そんな馬鹿な。

 思考停止した俺の隙をついて、顔面綱引き女が俺の家に上がり込む。

「あんた、なに勝手に上がり込んでるんだ!」

「あんた、じゃないわよ。アタシはS坂愛奈っていうの。アンタみたいなモテない冴えない男と同居してやろうってんだから、有り難く思いなさいよ」

 俺があっけにとられたのは、これで何度目だろう。

 福祉事務所の二人は「本日をもって両者が同居したという事実を確認しました。書類への記名は不要ですので」などと一方的に告げ、そそくさと立ち去っていった。


 顔面綱引き女こと、S坂愛奈は俺の家を我が物顔で見て回る。俺は密かにボイスレコーダーを起動した。

「結構きれいにしてるじゃん。アンタにはもったいないわ」

「あーS坂さんだったか。いくら制度とはいえ、常識的に、見ず知らずの男の家に乗り込むのは不味いだろ」

「このアタシが一緒に住んであげようっていってるのよ。アンタみたいな冴えない中年男は有り難く受け取っておけばいいのよ」

 S坂は綱引き顔を歪ませる。こいつ、本気で俺の家に居座るつもりか?

「まあ、アンタはゴツイし顔がキモいから、一緒に住むだけ、ね」

 本人はせせら笑っているつもりだろうが、不自然に引きつる顔面に俺は不安になる。

「アタシはね、もっと若くて綺麗な子が好みなのよ。星哉みたいなね」

「星哉?というのは?」

「オッサンみたいなのは、知らないでしょうね。でもすぐに有名になるわ。アタシが担当して推してるんだもん。童顔で垂れ目で、滅茶苦茶イケてるの。歌も上手いし」

 説明になってない。どうやら人間であるらしい、くらいしか分からない。

「その星哉ってのは、一体何をしてる奴なんだ?」

「アイドルよ。まだ下積みだけどね。今は歌舞伎町で仕事をしてるわ」

 つまりこの女、ホストクラブに入れ込んでるわけか。

「ま、アタシの大切な推し活のためにも、オッサンに生活の面倒を見させてやろうってわけ。アタシと星哉の役に立ててうれしいでしょ?」

 あんなに顔面を歪ませたら、埋め込んだワイヤーが切れるのではないか?どうにも気になって、話がうまく頭に入ってこない。

「ま、同居するのに、ルールを決めましょ。まず、家事は半分ずつに分担するわ。女だからって家事を全部やって貰おうなんて女性差別よ」

 同居する是非は置いといて、家事の分担はまあ、それはいいとしよう。こいつがまともに家事が出来ればの話だが。

「それと、外で金を稼ぐのは男の仕事でしょ。アタシは体が弱いから、仕事には向いてないの。推し活もあるし」

 家事は折半なら、外で金を稼ぐのも折半だろが。そう言いたいのを堪える。まずは喋りたがる奴には気が済むまで喋らせるのが、上手い交渉の進め方だ。そうやって自分のことを吐かせれば、交渉材料が増え、後で黙らせて追い出しやすくなる。

「家計はアタシが管理するわ。男に任せてたら、ギャンブルみたいな馬鹿げたことに使い込むし。アンタの小遣いは月3万円もあれば十分でしょ」

 …取りあえず、相手の要求はおおよそ聞き取れた。他の話題に切り替えるか。

「S坂さん。俺は君のことを何も知らないんだが。仕事は何をやってるんだ?」

「仕事?実家でママを手伝って、家事をやってるわよ。アタシ、体が弱くて外で仕事出来ないって言ったでしょ、記憶力ないの?」

 つまり無職か。俺の気持ちが顔に出ていたのか、S坂はまた顔を歪ませて

「後は、パパからお金を援助して貰ってるわね」

「パパ?実家から仕送りして貰ってるのか?」

「そうじゃないわ。もっと優しくてお金を持ってるパパよ」

 パパ活という奴か。この女は売春婦だ。

 おそらく税も年金も納めちゃいないだろう。普通の借金と違って、自己破産してもチャラにならない。

 しかも雑な素人売春なんて、裏社会の連中にとっちゃいいカモだ。軽く因果を含ませるだけで、あっさりカタに嵌めて飯の種に出来る。つまり俺にとっては厄種だ。この売春婦を通じて犯罪組織と関わり合いを持ちかねない。役所のクソどもが。

 この素人売春婦はなぜか自慢げに

「パパに月100万も援助して貰ってたのよ。昔からモテて、癒やされるってよく言われるわ。ほらアタシ、20代にしか見えないってよく言われるのよ。でも実は今年で37歳なのよね。この話するとみんなびっくりするの」

 そんな見え透いたお世辞を、真に受ける奴がいることにびっくりだ。

「こんなアタシと同居できて、オッサンもうれしいでしょ?」

 ため息を堪えるのに、酷く苦労した。


「言っとくけど、アタシの世話をちゃんと出来なかったら、犯罪だからね。懲役?3年?だったかしら。ま、警察呼ばれたくなかったら、せいぜいがんばんなさいよ」

 今日一番に顔を歪ませて、S坂が告げる。顔面からワイヤーやシリコンが飛び出すグロ動画が脳裏に浮かぶ。

「アタシ、汗をかいたからシャワー浴びるけど。覗くんじゃないわよ」

 調度いい。情報を整理したかったところだ。なにより、これ以上あの顔面綱引きを見ていたくなかった。

 俺は急いで自室でネットに繋ぎ、情報を集める。『単身女性扶養法 回避』

「ウソだろ」

 ネットは単身女性扶養法への怨嗟の声に満ちていた。ひでえブスをあてがわれた、なんて生易しいものじゃない。収入の大半を吸い取られた。レイプの濡れ衣を着せられた。家を乗っ取られてネカフェ暮らしになった。実印を使われて資産を女のものにされた。

 外国人記者を介して印象操作された話とは全く違う。この制度は恐ろしく強力で悪用しやすい、男にとって災厄だ。

 あの女を早くどうにかしなくては。

 そこへ、シャワールームの扉が開く音が聞こえた。

 俺は慌てて自室を出て、鍵を閉める。自室には腕時計を始め高価なものだらけだ。あの女に見られたくない。

 と、そこへバスローブ姿のS坂が現れた。

「湯上がりにビールくらい寄越したらどう?そんな気が利かないから、モテないのよ」

 こいつの首筋や手には、不摂生で怠惰な生活と年齢とがはっきりと現れていた。こいつ実は40代なのを、37歳とサバを読んでるんじゃないのか。

 俺の視線に気付いたS坂は

「何?アタシの体が気になるの?しょうがないわね、童貞は」と、バスローブの胸元を少し緩めた。

 そこに見えた肌はくすんでいて、そこに赤い小さなバラのような……。

 俺は一瞬にして頭に血が上り、S坂の腕を掴むと、強引に引っ張っていく。

 痛みにS坂が喚く。

「何するのよ!童貞が興奮してんの?キモ!」

 そして俺はS坂を、玄関から家の外に放り出した。

 あの時見えたのは、赤い小さなバラのような発疹。それが体のそこかしこにあった。

 梅毒の第二期症状。この売女、性病持ちじゃねえか!

 玄関のドアの越しにS坂が喚いている。

 俺はS坂の荷物と服を、まとめて窓から外へ投げ捨てた。S坂が悲鳴を上げる。面倒な。

 窓から万札を5枚ほど投げ捨てると、

「その金はくれてやる。他所へ行け。二度とここへ来るな!」

 S坂が言い返す前に、窓を閉じる。

 しばらくすると、服を着直したS坂は家の周りから去って行った。

 俺はあの梅毒持ちが手を触れた箇所を、念入りに消毒して回った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る