第3話  職業適性試験

 私はアドラーと共に町を散策した。

私がホームズと別れた場所はどうやら町の西門の近くなんだそうだ。

そちらのほうは家屋が多く、様々な住人がそこに住んでいる。


「君たちは、なんというか私とは違う身なりのようだね。」


私は生物学的な違いを聞こうと思ったが、失礼にあたるかと思い服装についての言及に押しとどめた。


「ああ、確かにそうね。私もあなたのような服装の方は初めて見たわ。」


「そうか。イギリスではこういう服装が一般的なんだが。」


「イギリス?」


私は戸惑った。

まさかイギリスを知らないのか?

そんなはずはないと思うのだが、相手の顔を見ると確信した。

この娘は本当にイギリスを知らないのだ。

そこで一つ、質問をすることにした。


「ところで忘れてしまったのだが、ここはなんという国だったかね?」


「そんなことも忘れてしまっていたのね。ここはライゲート王国。」


彼女はクスクスと笑いながらいたずらっぽい笑みを浮かべて私に教えてくれた。

聞いたことのない国だ。

だが、どこかで聞いたような名前でもあるな。

私はいよいよ焦り始めた。

本当にここはどこなんだ。


「何をボーっとしているのよ。次の場所に案内するよ!」


なにが楽しいのかピョンピョンはねながら彼女は私を急かしてくる。

とりあえずおとなしく彼女の案内に付き従おうかと私は考えた。


「分かったから。次はどこに案内してくれるんだ?」


「ここから東に大広間があるの。今日は一年記念だからきっと賑わっているわ!」


「なんのお祭りだい?」


「勇者が魔王を討伐した祭りに決まっているじゃない!」


彼女は当然のことでしょと言わんばかりに教えてくれた。

「魔王」?シューベルトのか?

ますます分からなくなった。

それに「勇者」とは一体なんのことなんだ。


「そういえば、あなたの職業は?」


「私の職業か。今は医者をやっているよ。いわゆる町医者というやつだ。」


「医者?」


まさかだが、医者も知らないのか?

じゃあこの町の住民はどう病気を治すというのだ。


「ケガや病気を治す人だよ。」


「あ!つまり回復師ということだね。」


今なんと言った?

看護師ではなく回復師?


「あなた、自分の適性職検査受けてないの?」


「適性職検査?」


「そう。人にはそれぞれ個性がある。」


それはそうだろう。


「職業には主に戦士、魔法使い、僧侶といろんなものがあるの。」


耳慣れない言葉が飛び交った気がしたが今はもう黙っていよう。


「それで、成人になるとその職業適性検査を受けることがこの国での義務になっているの。」


「なるほど。」


正直、全然なるほどではないが。


「その中の一つが回復師というわけ。受けていないなら受ければ?」


「そんな簡単に受けられるものなのか?」


「受けられるよ。職業適性試験が義務になったのは五年前だから、まだ受けていない人って意外といるの。だから、年中無休で受け付け中ってわけ。」


なるほど。


なるほど?


まぁ、なんとなくは理解できた。

要するにこの国では独自の文化が存在するというわけか。

職業も名前が変わっているが、おそらく近衛兵や料理人みたいなものなのだろう。

料理なんて見る人によれば魔法みたいなものではあるし。


「広間に行くのは後にして、先に職業適性試験を受けましょうか!」


アドラーは歩く方向を変えてきびきびと歩き始めた。

私は黙って従うしかなかった。

なんだか情けない。


 少し歩いた先には酒場があった。

店の外には見慣れない文字でメニューが書いてあったがなぜか読むことができた。

不思議な感覚だ。


「ここで受けるのか?」


病院のような施設を想像していた私は聞かずにはいられなかった。


「あっているわ。」


そう答えながらアドラーは店内に入っていった。

私も後に続き店内に入った。

中は実ににぎやかであった。

酒を飲むもの、話に興じるもの、歌を歌うものなど実に多様な人種が一緒になって騒いでいた。


「今日は一段と騒がしいな。」


アドラーは酒臭い人々をかき分けながら奥へと進んでいく。


「おお!アドラーちゃんじゃないか!残念だったな。ちょっと前に試験に来た人がなんと上級職だったんだ!しかも見たこともない職業だったんだ。」


店の奥にいた店主と思わしき人物が興奮気味に話しかけてきた。


「ほんとに!?もっと早くこればよかった。」


アドラーは見るからに落胆した調子でそう言った。

そんなにその「上級職」というものを見たかったんだろうか?


「あ、そうそう。ちょっと職業適性試験を受けたい人がいるんだけど。」


アドラーはそう言い私の背中を押した。


「お!お兄ちゃんまだ受けたことなかったのかい。」


店主はバンダナをまいたガタイのいいクマのような人であった。

私の目に狂いがなければ人である。

おそらく熊ではない。


「この機械の上に手をかざしてくれ。」


そう言いながら店主は金属の板のようなものを机に置いた。

これで一体何が分かるというのだろうか。

私は恐る恐る、その板の上に手をかざした。


とたんに、板が青く光り輝いた


金属板に青白い文字が浮かび上がる


私の方からでは文字が反対になっているのでよく読めなかった。


「あああああああああああああああああああああ!!?」


突如、店主が叫びだした。

前言撤回、やはり彼は熊だったのだろう。

いつも持っている銃に軽く手を近づける。


「どうしたの!?ギルドマスター!!」


アドラーも驚きながら店主に声をかける。


「二人目だ!今日だけで二人!!」


店主の目は今や飛び出さんばかりに見開かれている。

もはや熊でもなんでもない。

私は彼の名前を勝手にモンスターと名付けた。


「あなたの職業は」


今や店の中は静まり返っていた。


「上級職、軍医!!!」


モンスターはそう声を張り上げた。

その瞬間


「          」


店内は絶叫につつまれた。

私はあっけにとられながら呆然とするしかなかった。


「私が軍医?」


思わず私はつぶやいた。

まさか逆戻りするとは思っていなかったのだ。

私の前の職に。

どうせなら医者の方がよかったのだが。


不本意ながら、どうやら私はまた「軍医」になったようだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る