トキメキ
炎上の事実から2日。未来が私の憔悴しきった「目」を見て「なんしたーん」と言った。
前に冗談っぽく相手をしてくれた時とは打って変わって、私は今回に限っていえば少し「むっ」とした。おそらく自分の心の居所が定まってないのだろう。この2日間はとても「明るくない」日々を過ごした。7年前、布団を被って人間界を彷徨う何かに舞い戻ったかのように。
この時、私はどんな形であろうと自分に接した人物全員の言動や行動に対し、疑いの目を向けながら過ごした。未来や家族は勿論のこと、職場の同僚や上司にビルの清掃員、バスの運転手、コンビニ店員にすれ違う街の人々…。
先ほどムッとはしたが、限界突破していた私は「なんだかんだ」で未来に、炎上の事やこの2日間で私の住んでいる世界が変わってしまった事について、大号泣をしながら打ち明けた。
「街のそこら中に目が浮かんでいるような、壁に目がくっついているような、そんな感じがしてるの。でもね、夏海が感じているような世界とは多分だけど違う気もするの。もっと近いものというか…」
自分でも何を言ってるかよく分からないというのが本音だったが、未来は嫌な顔1つせず私の話を真剣に聞いてくれた。
そしてこの時、久しぶりにいわゆる「トキメキ」が戻ってきたのをしっかりと感じた。この優しさに私は惚れたんだなあ、と。そしてこの時何気なく脳裏をよぎった「トキメキ」というワードが私の今後の人生を支え、彩る大切な言葉になる。
二人の曖昧な関係のどこかにフラストレーションを感じていたのだろう。この「トキメキ」をきっかけにすれば、私の好きな白黒の答えに近づける気がして、この機に未来と腹を割って話すことを決める。
結果として私達は復縁することになった。時系列的には、夏海が外で植木屋さんを遠くから見ていたあの日から5日後のことだ。
⬜️⬛️モノクロ⬛️⬜️
ちなみに時系列を大雑把だが整理すると「夏海の検査入院→未来との出会い→未来とのお付き合い→別れ→小説の執筆スタート→夏海が少し戻っていってしまった日→ハルの炎上→未来との再スタート」この様になる。
⬛️⬜️モノクロ⬜️⬛️
二人の再スタート決まった瞬間、私の視界に広がる世界に「彩り」が加わり、息を吸いやすくなる感覚が私を包む。大分ニュアンスの話になるが「モノクロ」に「トキメキ」が合わさった時、私は物事をハッキリ「現実」として認識するのかもしれないと思った。塗り絵で例えるならば、モノクロは下地の絵=下書きであり、そして一方トキメキは、それを彩る絵の具や色鉛筆だ。
どちらかでも欠けてしまうと欠損感が出てしまう、完成しない感じ。なんだかとても似ているな。
「どちらもなくてはならないもの」
これが現状の私という世界に対する答えであり、かつ今後の自分のお守りになるとも思った。
「モノクロ」も「トキメキ」も。
心の何処かでモノクロに対して不信感を抱いていた。良くないことが起きた時、目の前が黒く白い「素っ気ない」様子になってしまうことを例えるのに相応しい言葉であると、私は心の何処かで思っていたのだろう。だとしたらネガティブなワードになりかねないが、自分の中にある「謎のフック」がそれをさせなかった。
例え話が上手いと称賛されたりする。もっと砕いて言えば褒められたり、人気者になったりもするかもしれない。それってきっと人間の心理で、不透明で怖くて不安なことを自分の過去に経験した事に置き換えることで、親近感を抱かせているのだろう。
親近感って安心する。
だから例えることは安心させるためにとっても大切なことなんだ。
まだまだ「星座」としては全然繋がってはないけれど、繋ぐべき星が幾つか明確になってきた気がする。それの繰り返し。経験の繰り返し。未来と出会っていなければ、自分にとってこんなに大切な考え方がある事に、恐らく気付いて「すら」いなかった。
「未来、ありがとう」
すると、ここで突然「シニカル冬華」ちゃんが頭のどこかで呟く。
「それを理解した上で仕事、家族、恋人、友人に違う角度で向き合うのって、また少し違うんだよ」って。
ちょっと意地悪で嫌いだけど、ほんの少しだけ嫌いじゃないよ、あなたのこと。
私は新しい視点を得て、自分の目の前にある世界と再び向き合う。
モノクロ もにもに @monimoni4820
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