ふつりあい。
隣乃となり
あたしと神坂慎也
隣の席の神坂慎也は、多分あたしのことが好きだ。
ボサボサで真っ黒な長い前髪、白い肌、滅多に開かない口。あたしが今まで付き合ってきた男たちとは真逆の見た目、性格。
普段全く発言しないし常に一人でいる。いわゆる根暗なヤツ。初めはそんな印象しか持っていなかったし、今もそんな感じだ。
神坂慎也と隣の席になってから、授業中よく隣から視線を感じるようになった。正直キモいからイライラして睨んだことがある。そしたらアイツはさっと私から目を逸らした。なんだよ。キモいんだけど。と小声で愚痴ったのが、アイツに聞こえてたのかはわからない。
ある日、いつも通り隣からの視線を感じながら、もしかしたら神坂慎也はあたしのことが好きなのかもしれない、と思った。
好きな人ってよく見ちゃうじゃん。多分こいつもそんな感じなんでしょ。
キモ。
あたしにとって神坂慎也は全然タイプじゃなかったし何より一度も話したことがない。
別にあたしのことが好きなのはどうでもいいけど、授業中ずっと見られてるのは嫌だったからちゃんと言おうと思って、神坂慎也が一人で弁当を食べてるときに話しかけに行った。
授業中あたしのこと見てるでしょ、キモいからやめてねと言おうとして、思わず止まってしまった。
よく見たら、神坂慎也はまあまあ綺麗な顔をしている。今までちゃんと見たことがなかったからわかんなかったけど、白い肌は滑らかで、鼻筋がすっと通っていて、切れ長の目が憂いを帯びていて、なんというか…
普通にかっこよかった。
あたしが驚いて神坂慎也の目の前で立ち止まっていると、神坂慎也はダルそうにあたしを見上げ、「何?」と怪訝そうに呟いた。
その眼光の鋭さに、ドキッとした。してしまったのだ。
あたしはこの瞬間、多分、本当に多分だけど、神坂慎也に惚れた。
全く興味のなかった異性――むしろ嫌いよりだった人間に対する評価が、いきなり「好き」にまで昇格したのだ。自分でも少し信じられなかった。
その日から、あたしは神坂慎也を目で追ってしまうようになった。シャーペンを握る骨ばった手が綺麗だ。神坂慎也は左利きということも知った。あたしだけが知ってる秘密みたいでなんだか少しくすぐったくて、ドキドキして、嬉しかった。
でも。
何故か、神坂慎也があたしの方を見ることは少なくなった。
もしかしたら、あたしが今まで冷たい態度を取ってきたから愛想を尽かしちゃったのかもしれない。
え、いやだ。
そう思ったのと同時に、あたし、なんでこんな根暗なヤツに恋してるんだろ、普通にダサくない?と恥ずかしくなった。そうだ。こんなヤツあたしと釣り合ってない。正直あたしは男には困ってないし今だって何人かキープはいる。なんで。なんでこんなヤツに!あたし必死になってんのよ!
でも、隣をちらっと見ると神坂慎也の横顔がある。やっぱり、綺麗だ。もう好きになったもんはしょうがないでしょ。
話しかけてみよう。そう思った。
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