汽水湖

@omuro1

第1話

僕の通う高校は、湖の近くにある。


湖は、いつも濁っていて、風が強い日には波が立ち、まるで海みたいに荒れる。


たまに湿った風が吹いてきて、ほんのり潮の匂いが混じる気がする。



成績は、まぁそこそこだ。


やれと言われてるからやる程度だが、みんなが言うほど勉強は嫌いじゃない。


部活に所属しないといけないから、いちおう美術部に入っている。


別に、何かを描きたいわけじゃない。


所属しろと言われているから所属している。



「もう描くのめな。今日、みんな集中してないよ。私はもう帰るから、戸締りちゃんとしてってね」


美術部の顧問の先生がそう言って、美術室を出て行った。


僕にはいつもと同じに見えたけど、先生には違って見えたらしい。


部員たちは思い思いに帰り支度を始めていた。



「ねぇ、湖、行こ」


先生と同じくらいの声量で、鈴木さんが不意にそう言った。


周りを見ると、みんなは帰りの支度を続けていた。


僕は鈴木さんの表情をこっそりうかがった。



「ねぇ、湖、行こ」


今度は僕の方を向き、鈴木さんは、またそう言った。

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