教授のショートショート

教授

管理人の目撃

私はこのアパートの管理人を務めてもう10年になる

四階建て全16室。住人は家族連れから独身の若者までさまざまだ

普段は穏やかな生活が続きトラブルもほとんどなかった

しかし今日のことは決して忘れることができない


深夜の静寂を破るかのようにアパートの外階段を駆け下りる音がした

その音に反応して私は自然と窓際に足を運んだ

外の様子を伺うと驚くべき光景が目に飛び込んできた


彼女はここに引っ越してきてから誰もが一度は目を奪われるような美しさを持っていた

髪は艶やかで長く笑顔はどこかミステリアスな魅力を漂わせていた

名前は確か「ミキ」と言ったはずだ

彼女は2階の203号室に住んでいる


その美しい彼女が何かを抱えながら階段を駆け下りていた

その何かが見えた瞬間私は息を飲んだ

それは人の頭部だったのだ


頭の中で何かが崩れ落ちる音がした

私の視線はその腕の先にある血まみれの頭部に釘付けになった

彼女の顔には普段の優雅さとは程遠い狂気の表情が浮かんでいた


「これは…何だ…?」言葉にならない声が喉元で詰まる


「ミキ」はこちらには気づいていないようだが私はかたまってしまった

動けない逃げられない

私の足は地面に縛り付けられたかのようだった

何かしなければ

しかし何を?警察を呼ぶべきか?

いや目を閉じて何も見なかったことにすべきか?


次の瞬間彼女はアパートの裏口へと消えていった

あの美しい彼女が何をしたのかどうしてこんなことをしたのか全く理解できなかった


私は震える手でポケットからスマホを取り出し震えながら110番を押した

しかしなかなか通話ボタンを押すことができなかった

彼女の目が私を捉えるような錯覚に襲われたのだ

怖かった

ただただ恐ろしかった


その夜警察がアパート中を捜索したが何も見つからなかった

「ミキ」はすでにいなくなっており男の体も血の跡さえもどこにもなかったのだ

警察はいたずらだと思ったようで寝ぼけていたのではないかとか酒はどのくらい呑んだかなど聞いてきた

見間違えなどありえない

私は確かに見たのだ


次の日

アパートの掲示板に張り紙があった

そこにはこう書いてあった

「見ちゃいましたね でも安心してください これからは私があなたを見ています」


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