第34話 野望
予期せぬモンスターの襲来に、三年前に失踪したはずのダンジョン配信者の復活。いきなりイレギュラーイベントハッピーセットをぶち込まれ、頭と心がパンクしそうになっていた。つかハッピーじゃねぇよ、アンハッピーだよ!……マズい、混乱のあまり脳内一人漫才を続けてしまうところだった。当然、視聴者も困惑しており、まずは画面に映る人物が本当にMr.Dなのか疑い始める。
《ドラゴンに乗ってるアイツ、ホントにD?》
《金髪、グラサン、黒のレザージャケット。特徴は一致してるな》
《いやいや、ありえないでしょ》
《ただのなりすましじゃねぇのw》
《ダンジョン内でも時たまいるよなぁ、有名人になりすました変質者》
「セブンナイツ、そして視聴者の諸君!配信中に突然失礼した。ボクの名前はMr.D!三年前までダンジョン配信者として活動していた者だ。視聴者の中にはボクが本物かどうか疑っている者もいるだろうから、本人の証としてこれを見せよう」
コメント欄の反応を知ってか知らずか。魔力で声を響かせながら名乗りを上げた男は、画面の向こうにいる人々にとあるアイテムを見せつける。
それは虹色に輝くペンダント。Mr.Dが過去の配信中にとあるダンジョンで手に入れた、国内で唯一Dだけが所持しているアイテムである。ペンダントは最初に手にした者の魔力にのみ反応して輝くことが同配信内で明かされているため、虹色の光は彼がD本人であることを如実に示していた。
ペンダントによって男がD本人であることが証明されると、今度は何故このタイミングでDが現れたのかという疑問が湧いてくる。コメント欄は憶測が飛び交い、困惑が最高潮に達すると、こじつけとも言える解釈を述べる視聴者が現れだした。
《なぁ、もしかしてコレってMr.Dの仕込み?》
《あぁ!確かにそうかも》
《あの人昔っからゲリラ配信よくやってたもんなw》
《てか何なら七騎士もグルだろ。演者にも内緒でDの復活イベを企画してたとか》
《ヘルフレイム・ドラゴンも魔法か何かで作った幻影かなw》
訳のわからない状況を受け入れるため、コメント欄は「今までの異常事態はMr.D復帰のサプライズ。演者にも黙っていたため皆驚いている」という理解で一致していく。俺もその可能性は考えた。しかし、心は視聴者に同意していても、体は警戒を解かない。全身が僅かに震えながら「警戒しろ」と、俺に訴えかけていた。
「スタッフさん、コメント欄で言われているようなサプライズは本当に企画されていたんですか……?」
俺と同様の疑問を抱いたのか、Ayuが近くにいたスタッフに尋ねる。問われた若い女性スタッフは首を横に振った。確定だ。ヘルフレイム・ドラゴンとMr.Dは企画で呼ばれたのではない。正しく事態を理解した瞬間、七騎士メンバー全員から困惑が抜け、警戒心が宿る。その時を待っていたかのように、ドラゴンの肩に乗るMr.Dが再び朗々と語り出した。
「ボクが始めたダンジョン配信は撮影用ドローンや
「だが、ボク一人がどれだけ成長しようとも、コンテンツの発展には繋がらない!界隈をより盛り上げるためには、ボク以外の、ダンジョン配信に新たな風を吹かせることのできる人材が必要不可欠だった!とは言え、そんなスターとなり得る人物など簡単に見つかるはずはない。ボクの夢は終わるのか。そう途方に暮れていた時、突如として現れたのが君だ!エプロンニキ」
恍惚した表情で俺を指さすMr.D。さっきから何を言ってるんだコイツは?いきなり自分語りをし始めたと思ったら、いきなり俺の名前を出してくるし。でも、なぜか彼の話には聞き入ってしまいたくなる熱がある。Dの意図はイマイチわからが、俺を含めた全員が戸惑いながらもその演説に耳を傾けてしまっていた。
「エプロンという滑稽な姿でダンジョン内をうろつくその奇抜さ!見た目とかけ離れた高い実力!そしてまさかの会社員と兼業という意外性!全てが完璧だった。君こそボクが求めたスターそのもの!ボクは確信した。エプロンニキならば、成熟し後は枯れていくだけだったこのコンテンツを変えることができると!」
あー、なるほど。ようするに俺の厄介ファンってわけね。ここまでなら、まだギリギリ笑い話で済ませられなくもなかった。
「後は君をスターとして育て上げるだけ。一時バズっただけの人物で終わらず更に活躍して名を広められるよう、君には様々なイベントを用意させてもらったよ。覚えているかな?魔力を注入して特別に作り上げた「スケルトン・ジェネラル」に、高尾山ダンジョン内の祠を破壊して出現させた「シダー・オクトパス」。あぁそう、途中で邪魔は入ったけど、「アキチカ」で直接君とも戦わせてもらったね!そのどれもが最高だったよ!!!」
「―――あ?」
ちょっと待て。まさか今まで俺が遭遇したダンジョン内の異変は、全てコイツが俺のために仕組んだとでも?バルジャンさんと共闘した時も、琴音さんと協力した時も、アキチカでのトラブルも、一歩間違えば死傷者が出てもおかしくないレベルだった。それをこの金髪野郎は、エンタメのためにやったとでも言うのか?
俺と同じ考えに至ったのか、バルジャンさんが拳を震わせながらDに問うた。
「じゃあ何か?アンタは配信を盛り上げるためだけに、下手すりゃ命にも関わる危険な行為を繰り返してたっていうのか!」
「その通りだよバルジャン君!エンタメには多少のスリルとバイオレンスが必要不可欠だろう?私は君らの配信に足りないものを追加したのさ!!!」
自身の言動に酔いしれながら、ダンジョン中に声を響かせて高らかに嗤うD。目の前にいるのは、かつて皆が憧れたカリスマではない。コンテンツの未来を憂い、滅亡を阻止せんと新たな可能性を追い求めた先で妄執に取りつかれた悪魔だった。
《なんだよこの人……》
《イカれてんのか?》
《怖い。それしか言えない》
「ヤバすぎでしょマジで……」
その場にいる七騎士メンバーも、配信を見ている視聴者も。誰もがMr.Dという名の狂気に言葉を失い、歪んだ思想への理解を拒絶していた。静寂と恐怖と困惑が場を支配する中、ただ一人元凶であるこの男は両手を大きく広げて歓喜する。混沌を一身に浴びながら愉悦に浸る男は、まだ言葉を紡ぐのを止めない。
「そして今日、最後の仕上げに相応しい舞台が整った!国内トップクラスのダンジョン配信者たちが集うセブンナイツの年末企画。話題性も同接数も、スターの誕生を祝福するには十分だ!様々な苦難を乗り越えてきたエプロンニキと、彼と縁を結び友情を育んできたセブンナイツの諸君ならば、きっとボクから送る最後の試練もクリアできるはずだよなァ!!!」
Dの言葉に呼応し、ヘルフレイム・ドラゴンが猛々しい声を上げる。鼓膜が破れそうなほど凄まじい咆哮が周囲を駆け巡り、大地が痛みにもがくかの如く震える。モンスターの頂点に君臨する竜は、声を発するだけで全てをひれ伏せさせた。
「仕上げだ、エプロンニキ。ボクが自ら
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