第33話 ナイスコンビネーション
複数の探索者で組むチームを、俗に“パーティ”と言う。普通にチームでいいじゃないかと個人的には思っているが、後者はRPGとかでよく聞く言葉だし、そちらの方が覚えやすいのだろう。まぁ俺個人の感想はともかく、セブンナイツメンバー+俺で結成されたパーティは、即席とは思えないほどの連携を見せながらダンジョン内を踏破していた。
『前方に【ヒマワリザードマン】の群れ発見!数はじゅ……違った、アタシが一体仕留めたから九体!』
まず、七騎士随一の身軽さとスピードを活かして、カエデさんが斥候の役割を果たす。一人先行して周辺を偵察し、こちらに向かってくるモンスターがいればすぐさま通信魔法でパーティ全体に報告。可能であれば奇襲により敵の数を減らしてもらったりもしていた。
「サンキュー、カエデ。Ayu、琴音、魔法頼む!」
「はい!」
「お任せを」
報告が来てから数十秒後に頭にひまわりの花を付けた竜人型のモンスター、【ヒマワリザードマン】がぴったし九体で俺たちに向かってくる。これらに対しバルジャンさんの指示を受けたAyuと琴音さんが魔法を放ち、火力を持って一気に数を減らすことを狙う。
「【クレイ・バレット】!」
「【光矢】」
土の弾丸と光の矢が竜人たちに突き刺さり、次々と塵に変えていく。しかし、中には魔法を逃れ、再び襲撃を開始するヤツもいる。そんな相手に対処するのが、近接を得意とする俺とバルジャンとももななさんの役目だ。
「キシャアアアアアッ!!」
「残ったのは四体か。ニキ、もも、一体ずつ頼む!」
「了解!」
「おっけ~」
ウル〇ァリンかよってくらいに発達した長いかぎ爪を振るい、襲い掛かってくるリザードマン。俺はそれらを最小限の動作で回避しつつ、隙を突いて抜刀。首を斬り飛ばし絶命させた。隣を確認すると、魔力による身体強化が得意なももななさんが、自身よりも長いハルバードを軽々振るってリザードマンをぺしゃんこに。バルジャンさんも炎を纏った拳でリザードマンを二体同時に貫き、全員がほぼ同じタイミングでモンスターを撃破していた。
《七騎士つえ~》
《ナイスコンビネーション!》
《年一しかパーティ組まないのにここまで連携できるのヤバすぎw》
《初参加なのにそれに合わせられるニキもすげぇよ》
「あはは~、今んとこ俺の出番ゼロッスねぇ」
俺たちの後ろでボウガンを構えていたYOROZUがちょっぴり肩を落としていた。彼の役割は俺やバルジャンが仕留めそこなった敵への対処であったが、今のところ二人ともそんなヘマはしていないので、すっかり暇を持て余しているようだ。ちなみに、同行しているスタッフさんたちは琴音の相棒である珂雪がしっかり警護している。
「へッ、俺がそんなヘマするかよ」
「いいじゃん、ヨロ先輩はお休みってことで」
「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでください。YOROZUさんが後ろにいてくれるから、私は安心して戦えているんです。引き続きサポートをお願いします」
「うぅ、ニキさんの優しさが沁みる。ママって呼んでもいいッスか?」
《ママw》
《ママ呼びは草》
《確かにエプロン着てるしな》
「ママ要素そこだけですやん」
撮影用とは別に用意された、俺たちが配信画面を確認できるよう映像を投影してくれている二機のドローン。その内の一機を確認しながら、できる範囲でコメントも拾ってみる。その方が視聴者さんたちも嬉しいだろうしね。
「それにしても、メガチキン群れが見当たりませんね。夏区画に入ってそれなりに進んだはずなのですが……」
リザードマンが倒れたのを確認して近寄ってきた琴音さんが疑問を口にする。それは俺も薄々感じていたことだ。ひたちなかダンジョンに入って約三十分。俺たちは順調に内部を進み、今は夏区画の中間地点まで辿り着いていた。先月下見した通りならメガチキンの群れは夏区画にいるはずなので、そろそろ遭遇してもよい頃合いなんだけどなぁ。皆も同様の疑問を感じていたのか、琴音さんの疑問に頷いていた。
「もう一度確認するが、メガチキンの群れがいるのは夏区画で合ってるんだよな?」
「はい、間違いありません。春からの移動を妨害していたミノタウロスも倒し、群れが夏に移動した所まで下見に行った全員で確認いたしました」
「カエデ、そっちは何か見てないか?」
『魔力で視力を強化して周辺を調べてるけど、今のところソレらしき群れは見当たらないよ』
《うーん、どういうことだろう》
《群れが次の区画に移動したとか?》
《それはない。アイツら年一しか移動しないから》
《絶対違うとは言えないけど、可能性は低いよね》
《そういう事例すら聞いたことないしな》
俺たちと同様、視聴者さんたちも頭を悩ませる。これは予想外の事態だ。とは言え、このまま留まっているわけにもいかない。みんなで相談した結果、後十数分ほど探索し、それでも群れが見つからない場合は改めて相談しようということになった。
「まー、ソレしかないよねー」
「あれこれ考えてても仕方ありません!とりあえず動きましょう」
JK組に促され、俺たちは再び歩き出そうとした。
『おいおい、配信者がつまらねぇ絵面見せんじゃねぇよ』
「は?」
男の声が脳内に響いたかと思うと、突如周辺に潜んでいたモンスターたちが一斉に唸り声を上げ、蜘蛛の子を散らすようにどこかへ逃げ始めた。
《ななな、なんだ!?》
《モンスターたちが逃げ始めたぞ》
《てか今の声なに?》
『みんな、早く逃げろ!!!』
いきなりの事態に困惑していると、今度はカエデさんの鬼気迫る声が耳をつんざいた。
「バルジャンさん、今のは」
「あぁ、何だかわからねぇがヤバそうだ。みんな、とにかく逃げるぞ!春方面へ向かって走れ!カエデ、とにかくその場を離脱してこっちに合流しろ!スタッフたちも急げ!」
『おっと、そういう訳にはいかないな!』
探索者ではないスタッフさんたちをサポートしながら逃げようとした時、再び謎の男の声が響いた。同時に、魔力で構成されたと思わしき巨大な結界が出現。春区画へと続く道が半透明の紫の壁に遮断され、そのまま周囲数百メートルが丸ごと包み込まれた。
「へ!?何コレ?」
「まさか、逃げ道を塞がれた……?」
危険を感じ、反射的に魔力を刀に纏わせて結界に刃を突き立てる。が、刃は結界を破るどころか逆に跳ね返された。
「ちっ!」
「ニキ、あれ!」
Ayuに呼びかけられ、後ろを振り返る。従妹が指さす先には、このダンジョンにいるはずがない。いや、いてはいけないはずのモンスターがこちらに向かってきていた。
《は……?》
《何でこのダンジョンにいるの》
《ヤバいヤバいヤバい》
《みんな早く逃げて!!!》
《そもそもなんで生きてんだよ!》
コメント欄が阿鼻叫喚となっていたが、無理もない。血のように赤黒い鱗。人間など一瞬で嚙み砕く巨大な顎。迷宮の天井を覆わんと広げられた翼に、巨木の如く太い四肢。黄金の瞳は常に狂気で輝かせ、ナイフのようなサイズの牙の間からは炎が漏れ出している。
本来は鹿児島県の【桜島ダンジョン】にしか生息せず、二年前に国内トップクラスの探索者パーティによって討伐された凶悪な炎竜。迷宮管理局から災害級危険種として指定された数少ないモンスター【ヘルフレイム・ドラゴン】が、遥か頭上から人間共を見下ろしていた。
「おいおい、どうなってんだよ……」
もうわけがわからない。本当にわからないが、ダンジョン内での思考停止はご法度だ。後衛のAyuやスタッフたちを守るように、俺は前に出た。
「ニキさん、しょーじき内心パニックです」
「俺もだよももななさん。でも今は余計な事は考えなくていい。自分と、皆を守ることだけに集中するんだ」
隣で武器を構えながら青ざめているももななさんに言葉をかけながら、自分にも言い聞かせて冷静になるよう努める。メガチキンの群れが見つからないのも、辺りのモンスターが突然逃げ出したのも、原因は目の前のドラゴンが現れたからだ。生息地も違うどころか、国内唯一の生存個体が討伐されたばかりのモンスターが何故出現したのかはわからない。が、今は探偵ごっこをしている場合じゃない。至上命題は生き残ること。つまりあのドラゴンから逃れつつ、ここを脱出するしかない。
「琴音さん、迷宮管理局への通報をお願いします!」
「既に終えております!ですが、救出隊を編成するため二十分程度はかかるとのこと!」
「了解です!ありがとうございます!」
二十分か、長いな。でもやるしかない。先ほどの感触からして結界は強固ではあるが、複数人で協力すれば穴をあける程度なら可能だと思う。ドラゴンの相手はまともにせず脱出を優先すれば、少なくともスタッフ全員くらいは逃がせるはず。よし、やるべき事が明確になった。予想外のことで混乱していた思考がクリアになっていくのが、自分でもわかった。
「バルジャンさん、聞いてください。俺たちで協力すれば、あの結界の一部は破壊できると推測してます。ドラゴンとは極力戦わず、非探索者であるスタッフの皆さんの逃がすことを優先に……」
途中まで話しかけて、言葉を失った。ダンジョンでの経験が豊富なはずのバルジャンさんが、文字通り硬直していたのだ。
「ちょ、バルジャンさん!なに固まってるんですか!確かに意味不明な事態ですけど、まずはダンジョンからの脱出を考えて――」
「ニキ。あ、あれ……」
バルジャンさんが声を震わせる。その視線の先にあるものを見て、今度こそ俺は頭が真っ白になった。
「あ?」
こちらを
「……Mr.D」
自身の名を呼ばれた男は、竜の上で大きく口を歪ませた。
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