0章。それは、物語のはじまり

0。とある少女の独白

人間万事塞翁が馬――何か悪いことが起きても、その後にいいことがあるかもしれない――という言葉がある、らしいです。

私に特別な魔法を教えてくれた先生の言葉です。素敵ですよね。

先生とは最近めっきりと会えなくなりました。今頃、どこで何をしているのでしょう。


ところで私は今、誘拐されています。

多分、どこかの馬車道を進んでいるのではないでしょうか。


なぜ誘拐されてしまったのかは……ちょっと理由を言うのが恥ずかしいです。なんというか、自業自得というか。


実はちょっと前から、我が家は夜になると、変な音がかすかに聞こえるようになったのです。特に、屋根の方から。

お母さんに聞いても聞こえないというし、お父さんに至ってはいつもニコニコしてばっかりで、一体わかっているのかわかっていないのか、わかりません。

私はもう十二歳です。十分大人に近いじゃないですか。

それぐらい教えてくれたっていいはずです。

……ぷぅ。


それで一週間前くらいに、通常依頼としてギルド(あらゆる依頼の受付をする場所)に「おばけがいるかも、お助けください」と題して申請したのですが、長らく返事はありませんでした。

緊急じゃない依頼で、しかも私のお小遣い程度のお金だと、受けてくれないのでしょうか。

あるいは、単純に見落とされただけなのかもしれません。


とにかく気になってしょうがない私。

それなのに、相談相手がいません。

そんな私は、毎晩こっそりと家を抜け出して、屋根上が見えるところからじっと観察をするようになりました。


そして今日も今日とて外にやってきたら――知らない人に連行されてしまいました。


先生が知ったら、きっと笑われますね。

相変わらずおバカさんだねぇ、って。

全く、おバカさんなんかじゃありません。

ちょっと、こう――行動したくなっちゃうのです。昔からの癖です。


さて、広がるのは一面の黒。

一体ここはどこなのでしょうか。

少し、怖くなってきました。

後悔やらなんやらの気持ちがぐっと込み上げてきて、泣きそうです。

泣き虫は治ったと思っていたのに。


これから、私はどうなるのでしょうか。

奴隷になるのでしょうか。

嫌です。

そんなの嫌です。

私はまだ、ちゃんとしたお友達も出来ていないのです。

やりたいこともたくさんあるんです。


しかし。

私は、思い出します。

先生がずっと繰り返し言っていた、あの言葉。


――「人間万事塞翁が馬」。


この出来事が、大切な存在との、出会いのきっかけになったのでした。

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