転生したら親なし捨て子で才能なし

くるっちゃ

1章

第1話 転生に説明書はない

「え、異世界に転生!?」


 朝日アサヒレン……享年19歳、高校3年の夏に彼は交通事故で死んだ。


 死因はトラックによる出血多量。


 大半の若者がこうやって理不尽に命を奪われてきたのだろう。一瞬の出来事で彼はまだ状況を理解できていないみたいだ。


 見たこともない植物や見慣れない二つの太陽、吸う空気も現世とは違った感じ。


 ──どうやらここは彼の言う通りの異世界である。


 さらにこの転生に説明書はなくただ一人森の中にぶち込まれただけだ。


「トラックにはねられて……そこからの記憶が全然ない」


 即死ではなかったものの意識不明の重体からの出血多量死であったため覚えてないのも当然のことだ。


「見た限り4歳児……それにここはどこだ……」


 水溜りに映る自身の顔を見て心底驚いているようす。場所は木々の生い茂る森の中。


 涼しい風が彼の頬を撫でる。


「うっ……」


 すると突然彼の頭に存在しないはずの記憶が流れ込む。これの記憶はこの体に転生する前の持ち主の記憶だ。


 流れ込む記憶。


 どうやら彼の転生した体は一度衰弱により命を落としていた。


 前の持ち主の名前はグランデルという名前だったらしい。


 何故こんなところを彷徨っていたのかはグランデルの両親の教育方針にあった。


 どうやらグランデルは物心つく前から剣士を目指すための英才教育をさせられていたそう。


 だが彼の理解力は弱く、魔力もさほど多くはなかった。そのため捨て子としてこの森に放されたというのだ。


 才能なしと即判断されてしまったのだ。


 その結果が衰弱死。たまたまその体にレンの魂が行き着いたというわけだ。


「これは流石に可哀想だ。3歳とか4歳はまだ駄々をこねている時期だぞ」


 ハッキリとは覚えていないが何かに没頭することはなかったよう。


「マジかよこれ……4歳にしてホームレス生活じゃん」


 頼れる場所もなく、ここまで迷い込んできた記憶も断片的だ。戻ろうと思ってもさら迷うだけ。


「よし……」


 ペチンと顔を叩き、ズボンの位置を正す。どうやらハードモードな人生は覚悟したみたいだ。


「頼れる人もおらずここの世界もよく知らない。人里とかありそうだけど異世界に慣れるまではしばらく森で暮らしたほうがよさそうだ」


 才能なしと言われ追放されているので、ある程度の生きれる力をこの森にて身に着けるつもりのようだ。


 となるとサバイバルの基本である最初にやることはまず水の確保になる。


 前世の常識が通用するのかどうかはわからないがレンはまず飲水を探し出す。


 だがサバイバル素人であるため自分が持つ知識の中で行動する。


 ただでさえ異世界だ。常識が通用するとは微塵も思っていない。


「流れのある川のほうがいいな」


 耳を澄まして自然音の中から水の音を掻き分ける。この辺にはなかったようでレンは場所を移動する。


 耳を澄ましながら、時々聞こえる叫び声や何かが這いずる音などを避けながら移動する。


「見つけた……」


 ザーっと言う音が近づくと彼は確信に変わったのか走り出す。


 そこにはかなりの速度で流れる川があった。


 深さはあまりないが魚が泳げるぐらいには水量があった。


「そのまま飲めるぐらいには透明だ……」


 川の周りには丸まった石などがあり苔むした物は見つからない。微生物があまり活動できない何かがあるようだ。


「体力があるうちに実験するか……」


 腹を壊すことを承知でレンは一口飲んだ。


 冷えた水が喉を伝い、胃に直接流し込まれる。


 体温とは違うひんやりとした液体が体の隅々まで染み渡った。


「まるで初めて水を飲んだような感覚だ……グランデルは何日も水を飲めずに苦しんで亡くなったんだな……」


 まだ体が水を欲している。だがしばらく経って腹を下さないか様子をみる必要がある。


 喉を潤せし空腹を思い出したのかレンは食料の確保に移った。


「異世界にはどんな生物がいるかわからないし……でも間違いなく山の幸は強そうだな……」


 異世界にはとんでもなく常識離れをしている魔物がいる──そんなイメージが強いのだろう。


 だが川を泳いでいる魚の見た目は意外と普通だった。違いがあるとすれば綺麗な水で生活できている点だろう。


「濁りがないということはプランクトンとか微生物がいないってことだ。それなのに一体どうやってここまで大きくなったんだろう」


 流れの速い川、レンは留まろうとする小魚に目を向けた。


 ゆっくりと近づき静かに手を近づける。


 そしてガバっと水を掴むと同時に小魚も捕らえた。


 ものすごい力で暴れる小魚を離さないように川から出る。そして暴れる小魚の体を押さえ、丸い石を握るとそれを小魚の頭に振り下ろした。


 二発、三発叩き込み魚が動かなくなるとレンは手を止める。


「ごめん、刃物とかあったら楽に殺せたんだろうけど」


 頭のスリ潰れた魚を河原の石の上に置いて2匹目を捕らえに行く。


 しばらく時間が経過した。5匹ほど捕らえた後に1時間ほど掛けて作った焚き火に魚を突き刺す。


 焚き火を囲うように魚が炙られる。


「ここの水はどうやら生のままでも飲めるようだ。雨が降ったあととかはどうなるか分からないし、貯水できる物を作っておいたほうがよさそうだね」


 焼き上がったであろう小魚を頬張り今後のことについても考えているのだろう。


「とりあえず生活が安定するまでは狩りをして生活。そのあとに体でも鍛えて肉でも狩れるようになりたいな」


 転生したことについてはあまり考えないレン。いくら前世のことを考えたって仕方ないからだろう。


 レンは食事を終えたあと、周囲の探索を進めることにした。




 ───────────────────




 異世界に慣れるまでの間は水生生物を食べながら生きながらえていたよう。


 そんな生活を日が七回昇るまで繰り返し、ようやく新しいことを始めたようだ。


 まずは体を鍛えること。森では獣の存在も予測しておきある程度抵抗、逃げられるように全身に筋肉をつけ始めた。


 バランスよくしなやかな体を維持するために負荷のかけ方は緻密に操作する。


 日が昇った回数を忘れないよう川の上流にある崖の壁に線を刻んでいる。


 丁度前世の2年となる七百本以上になるとレンは6歳になった。


 まだ幼くもあるが体の筋肉は一般の子どもよりかは遥かについている。


 あまり目立った筋肉はついてないが出力はかなり出るようだ。イノシシ1匹の突進には耐えられるぐらい。


 ──そして更にその2年後。


 8歳となったレンは木の枝を使い我流の剣技を扱うようになる。


 同時に魔力も鍛え始め大型の魔物にも対応できるような力を手に入れた。


 雨の降る日も氷の礫が打ちつける日も何日も何日も努力し続けた。自分の使う道具も工夫して作ったり、あらゆる技術を会得しながら森で生活し続けた。


「ここ4年、人とは会ってないねー。孤独というものは人間をこうもお喋りにするんだ」


 年が経つごとに独り言も増えてきたレン。孤独というどうしようもない精神的負荷に何かを考えるたびに口に出してしまいそうになる。


 それでも剣に見立てた木の枝を振り続け技術を磨き続ける。


 ──いくら孤独であろうとも生き残るために。


「筋肉をつけると身長が伸びづらいなんてことがあったけどなんか本当っぽいな……」


 小学1年生程の身長。


 それよりかは少し高いぐらいだが筋肉が骨の成長抑えているのか前世の同世代よりは背が小さい。


「せめて170は超えてよね……? いや、超えてくれるよね?」


 完璧なボディーを手に入れるためには170以上ではないといけない。


 そんな変なこだわりを持った彼は自分が満足するまで剣を振るい続けることに。

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