踊りませんか?/読み切り小説

音雲 夏空

踊りませんか?

私はダンスは嫌いだった。

きっかけは中2の体育の授業。

2人1組で創作ダンスを踊ることになった。

私はその時一番仲が良かった裕心と組んだ。

まずは課題となった曲を聴き、そこから振り付けをつけていくものだった。

幸いにも裕心はダンスの経験があったため、スラスラと振り付けていった。ダンス未経験の私にとっては心強かった。

そうして発表の時、みんなの前で2人で踊った。

そのとき、周りからクスクスと笑い声が聞こえてきた。

<若歌のやつ下手くそやん笑>

<ただの引き立て役〜笑>

などの声も聞こえた。私は苦しくなって逃げ出したくなった。それでも裕心は何も触れずにそのまま踊り終えた。

その後は覚えていない。裕心は気付いていたのだろうか。でもこの時はそんなことも考えたくなかった。




そして現在-私たちは高2になった。

すると突然しばらく動きがなかった中2のグループLINEからの通知が来た。

見てみると、あの時のまとめ役のような存在だった人が送った

[久しぶりにみんなで集まろーぜ]

という文面を見た。

私はそのとき何故かダンスのトラウマを思い出してしまった。

また何か言われるのだろうか。

そう考えると行きたくなくなったが、誰も覚えていないだろう。その一心で行くことにした。

約束の校舎の近くにあるファミレスで集まった。

裕心とは高校は離れてしまったため久しぶりに会えるのが楽しみだった。

そしてみんなが集まると真っ先に私に声をかけてきた人がいた。

裕心だ。

[ねぇ、若歌だよね!久しぶり!]

そう声をかけてくれた。

[うん!久しぶり!]

と返した。

そうすると裕心は口を開いた。

[ねぇ若歌。会ってからそうそうごめんなんだけどさ]

そう言った。私はあいずちを打つ。

[また、2人で踊らない?]

私はびっくりした。中3のときも仲が良かったからずっと話していたが、ダンスの話題などまっさら聞かなかった。でも、私はすかさず

[うん!踊ろ!]

そう返した。ダンスのトラウマはある。だけど、裕心と踊るなら全く関係ない。そう思った。

[私、知ってたんだよね。中2の発表のとき、若歌が辛くなってたこと。ずっと言えなくてごめんね。]

そっか、気づいていたんだ。やはり裕心は気づくのが早く優しい私にとってアイドルのような存在だった。


それから数年後。私たちは今、ステージの上で踊っている。

裕心にあの時誘われていなければ、私がここに登ることはないと思っていた。

私は後悔などしていない。トラウマなんて気にしない。

私が選んだ道なのだから。

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