第40話

 散々食べて飲んだふたりは、ほろ酔い状態のまま唇を重ねていた。



「ん……っ」

「ちゅ……っ、ちゅっ」


 何度も何度も唇を求めて抱き合う。

 最初にキスをしてきたのは菜々美だった。菜々美からキスをしてくるのは珍しく、余程なにかがあったのではないかと、翔は感じていた。

 だけど、それを聞くことはしなかった。


「菜々美……」

 菜々美の名前を呼ぶと、潤んだ目をした彼女が翔にしがみつく。そんな菜々美を抱き上げて、寝室へと向かって行く。

 菜々美はなにも言わずにただ翔にしがみついていた。

 ゆっくりと菜々美をベッドに下ろした翔は、菜々美にキスをする。

「翔……」

「抱いていい?」

 その言葉の意味か何を示すのか分かってる。菜々美はただ黙って頷いた。





     ◇◇◇◇◇




「ン……っ、あ、ア、……あ……んっ」

「はぁ……っ、あぁ……っ」

 


 部屋の中にはふたりの甘い声が響いている。

 翔の手が菜々美の素肌に触れる度に、菜々美は甘く声をあげる。

 いつの間にかそんな声を抑えることはしないで、欲望のままに受け入れている。

「キレイだよ、菜々美」

 ほんのりとピンク色に染まった素肌に、何度も何度もキスを落とし、何度も何度も撫で回す。

「しょ……っ、あ……んんん……っ!」

 翔の手が菜々美の太腿の間に滑り込み、敏感な部分に触れる。その場所を丁寧に丁寧に撫でるその指先に、真剣が集中する。

 ピクン、ピクンと菜々美の足が痙攣を起こす。

「菜々美。ここ?」

 菜々美の反応を楽しむように、ゆっくりと指を入れていく。

「んン……っ」

 翔の背中に腕を回し、身体の奥から沸き上がる快感に耐える。

「かわいい」

 耳元で囁く翔の声が色っぽい。

「翔……、私……、なんかへん……、んんっ……!」

 その言葉を聞いた翔は、ふっと笑い菜々美の中に入れた指を何度も出し入れした。

「あ、ア、あ……ッ!」

 ベッドに倒れ込む菜々美を見て、ますますかわいいと感じている翔は、菜々美の足を掴み菜々美の上に覆い被さった──……。





     ◇◇◇◇◇




 目を覚ますと、翔に抱きかかえられていた。

(キレイな寝顔……)

 そっと頬に触れる。

 この人に、自分のこと家族のことを言わないでいるのが辛い。だけど話すことも辛い。

 どうしたらいいのか分からないままだった。

「ん……」

 頬に触れたままでじっと見てると、その視線を感じたのか翔が目を覚ます。

「菜々美……」

「……おはよ」

「おはよう」

 翔の腕が伸びてきてそのまま菜々美を抱きしめる。

「ずっとこうしていたいなぁ……」

 ポツリと呟く翔に「うん……」と頷く。だけどそうも言ってられない。

「今、何時?」

 スマホを見ると6時50分。

「あー……、起きなきゃ」

 翔はいつも7時半には家を出てる。菜々美から離れベッドから出る。

「菜々美はもう少し寝てな」

 そう言って菜々美に布団をかけた。


 バタバタと着替えて顔を洗い、軽く朝食を取る。そうしてるともう出かける時間だ。

 寝室を覗いて菜々美に声をかける。

「菜々美。行ってくる」

 布団から顔を出して翔を見て「いってらっしゃい」と言う。

 翔はそんな瞬間が好きだった。


 バタンと、玄関の扉が閉まる音を聞いて、菜々美はゆっくり起き上がった。

(ダルい……)

 そう感じるのは昨夜のことが原因だ。何度も翔に求められて、菜々美も翔を求めて、ふたりだけの甘い時間。

 誰も知らない甘い甘い時間。

 その印が菜々美の素肌に残されている。

「仕事……、しなきゃ」

 まだ覚醒しきれていない身体を起こすために、キッチンへと向かった。

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