第23話
気付いたら翔に電話をかけていた──……。
◇◇◇◇◇
「菜々美?どうした?」
急にかかってきた電話。だけど菜々美は何を言ってるのか分からない。
(酔ってる?あの菜々美が?)
訳も分からず、翔は混乱する。ここまで酔うなんてあり得ない。
翔が知ってるだけでも菜々美は相当飲む。それでも平然としている。なのに、これは──……。
『……んでぇ!……』
なんか叫んでる。自分が帰った後に何かあったのか?と思い悩む。
「菜々美!そっちに行く」
只事じゃないと感じた翔は、電話を切ってアパートを飛び出した。
翔のアパートから菜々美のマンションまでは一駅越えた場所にある。電車で行くよりはタクシー拾った方が早いと判断して、駅前でタクシーに乗り込んだ。
菜々美のマンションに着くまで翔は気が気じゃなかった。
今日、一緒に出掛けたときに何かしてしまったのではないかと心配になった。けど、別れ際、そんな素振りもなくごく自然に「楽しかった」と笑っていたのだ。
(何があった?)
心配で心配で、早く走らないかなと気が焦っていた。
マンション前に着くとタクシーの運転手にお金を渡し「お釣りはいらない!」と飛び出した。
エレベーターに乗り込み、菜々美の部屋がある階のボタンを連打した。連打しても早く着くわけないのに、気が焦ってた。
エレベーターが止まると、勢いよく飛び出し菜々美の部屋のインターフォンを鳴らした。
(出ない)
何度か鳴らしても出てくることない。何かあったのかと不安になる。
(どうすればいい?どうすれば……)
翔はパニックになっていた。
「菜々美?」
ドア越しに声をかけるが、返答はない。電話をかけても出ることはない。
(何が起こってるんだ?)
スマホの連絡先からかよのボタンを押した。かよなら知ってると思ったからだ。
『あら。中山くん』
「宮原!菜々美がおかしい!」
『え?』
翔は事情を説明して、かよに助けを求めた。
『酔って電話?あ──……』
かよは言いづらそうにしていた。そして「はぁ……」というため息が聞こえた。
『今、菜々美のマンション?』
「ああ。でも出てきてくれない」
『電話も無理?』
「さっきからかけてる」
『………分かった。ちょっとそっち行く』
かよはそう言って電話を切った。
かよとの電話を終えた後も、翔はインターフォンを鳴らし続けた。電話もかけている。
もう遅い時間だから、声を出して呼び掛けることは近所迷惑になるだろうから控えた。
何度もそうやっているうちにかよは晴斗と一緒に菜々美のマンションにやって来た。
「晴斗」
「かよと飲んでたんだよ」
翔の顔を見ると笑ってる。
かよはふたりのやり取りを無視して、バッグから鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。
「やっぱり上の鍵してないわ」
そう言ってドアを開けると中へ入る。そんなかよに続いてふたりも入っていく。
仕事部屋を覗いたかよはドアを開けっ放しで寝室も開ける。仕事部屋や寝室にはいないことを分かってはいるが、確認の為に開けていたのだろう。
シャワールームやトイレも開けていたから、何度かそういう事があったのかもしれない。
リビングのドアを開けると、缶ビールの空き缶がゴロゴロと転がってるのが見えた。
テレビは付けっぱなしで、ローテーブルに顔を突っ伏してる菜々美がいた。
「菜々美っ!」
翔は慌てて菜々美へ駆け寄る。
「おい!菜々美っ!大丈夫か!?」
叫ぶ翔の声に、うっすらと目を開ける。
「菜々美……?」
「……しょ………」
「どうした?」
翔は必死に菜々美に問いただすが、菜々美は答えない。かよはそんな菜々美を見るのは初めてではないからか、ゆっくりと部屋の中を見渡した。
そして床にスマホが落ちているのを目にして、それを拾った。
翔に電話をかける前に何かしらあったのは確実だと、かよは菜々美のスマホを弄っていた。
メッセージアプリを開いたかよは、養父とのやり取りを確認した。
「あ──……これか」
翔にそのやり取りを見せると、翔の顔色が変わったのをかよは見逃さなかった。
「どういうこと?おれ……っ」
「中山くんが何かしたわけでもないの。相手が誰だろうと多分こうなのよ」
かよは菜々美と養父の確執をよく知ってる。加えて異父姉弟である、弟とも関係はよくない。
かよはその全てを知っている。
「お養父さんと何かしらあった時、悪酔いするのよ。いつもは私にかけてくるんだけどねぇ……」
いつもは強い菜々美でもこういう時は悪酔いする……。その事実に翔は驚いた。
その原因となった養父とのやり取り。それは自分と付き合ってると報告し、それに対して別れろと返信がきたことだと知った翔は、どうしたらいいのか分からなくなっていた。
素っぴんの部屋着姿で、泥酔してる菜々美をしっかりと抱き締める。
そんな翔を見て、かよは部屋を片付け出した。
「中山くん。寝室、連れていって」
キッチンの方に飲みかけの缶ビールを持っていき中身を開けるかよは、翔にそう言う。
「私からは何か言うことは出来ないから、菜々美からちゃんと話聞いてね」
キッチンの引き出しを開けて、ごみ袋を取り出すとその中に空き缶を入れる。そんなかよに晴斗も一緒になって片付け出す。
ふたりが片付けてくれてる間に、菜々美を抱き上げ寝室へ連れていく。
ベッドに寝かせると菜々美の顔を覗き込んだ。
(……っ!)
菜々美の頬には涙の跡があった。泣きながら電話してきたのだろう。
泥酔して泣いていたから、何を話していたのか分からなかったのだ。
頭を撫で、安心して眠れるように菜々美の手を握った。
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