第19話

「ん………」

 寝返りを打つ菜々美の身体を、ぎゅっと抱き締める翔に気付き、目を開ける。翔が菜々美を優しい目で見ていた。

「あ……っ」

 顔が真っ赤になるのは、昨夜の事を思い出してしまったから。

「おはよう」

「……おはよう」

 思わず布団で顔を隠す。布団の中に潜ってしまった菜々美は、更に顔を赤くする。自分自身も翔も何も着けていない状態だったから。

「菜々美」

 菜々美を抱き寄せる翔は、背中にキスをする。

「………っ!」

 その行動ひとつひとつに身体が反応する。

「身体、大丈夫?」

「え」

「初めだったろ。……痛いよな」

 それに対して何も答えることが出来ない。菜々美のことを分かってるかのように頭を撫でる。


「くくくっ……」

 声を出して笑う翔を不思議そうに見る。

「お前、その容姿と性格が合ってないから」

「え?」

「容姿は凄ぇ大人のセクシーなお姉さん。でも中身は全然まだ子供ガキ

「なに、それっ」

「くくく……っ」

「もう、翔っ!」

 ベッドの中でじゃれ合うふたりは、長い付き合いのカップルのようだった。

 だけど実際はまだ付き合い出して1ヶ月。再会してからまだ2ヶ月なのだ。




     ◇◇◇◇◇




 キッチンで毎朝の珈琲を入れる菜々美を、ダイニングテーブルの椅子に座りながら見る翔。

 菜々美の行動の全てが、可愛いと感じていた。

 普段の菜々美は本当にクールなイメージ。だけど実際はそうではない。そのギャップに翔はやられていた。

「今日、仕事は?」

 菜々美に言うと珈琲を入れたカップを持ってダイニングテーブルにまでやってくる。

「締め切り、まだ先だけど……」

 そう言う菜々美にニコッと笑う。

「じゃ、デートしよ」

「え?」

「映画にでも行こう!」

 菜々美はビックリして目を丸くする。デートなんて、想像もつかない。

「えっと……」

 顔を真っ赤にして言葉に詰まる。そんな姿を見て翔は気付く。

「もしかして、デートもしたことない?」

 菜々美は誤魔化すように珈琲を飲んだ。

「じゃ行こ」

 テーブルに肘を付き、いたずらっ子のような笑顔を向ける。その笑顔から顔を逸らせない。

「おれ、一回帰るな。着替えたい」

 そう言って立ち上がり、菜々美に近寄りキスをする。

 ちゅ……と音を立ててするキスは、なんだかとてもエッチだ。

 すっと菜々美から離れた翔は「後で連絡する」と言い、マンションを出ていった。



 翔がいなくなったマンションにポツンと残された菜々美は、両手で顔を隠していた。

(恥ずかしい……)

 昨夜あんなことをしておいて、今度はデート?と頭の中が混乱状態だった。それでも菜々美の初めてを一瞬にやっていこうという翔に、菜々美はなんだかあったかい気持ちになっていた。

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