第17話

「あ……っ、ん……っ」

 唇を重ねる翔は、ゆっくりと菜々美をベッドに沈めていく。

「しょ、翔……。ま、待って………」

「大丈夫だから」

「あ、あの……そうじゃなくて、あの……」

「ん?」

 なんとか回避出来ないものかと考えてみるが、それは無理そうだった。


(嫌……なわけじゃない。ただ、勇気がないだけ)

 ギュッと手を握りしめる。

「菜々美」

 その手を上から握る翔に、はっとする。

(気付いてる……?)

 菜々美が震えてること。緊張なのか怖さなのか分からないけど、微かに震えてる。それに翔は気付いているのだ。

 必死に堪えていた。隠していたことに翔は気付いてる。


「菜々美……」

 菜々美が落ち着くまで、自分の方に抱き寄せる。右手は背中を擦ってる。

「………翔」

「ん」

 何を言っていいのか思い付かず、ただ翔に身を委せていた。

「落ち着いた?」

 コクンと頷くと、菜々美の頭を撫でる。

「少しずつ……、おれに慣れて?」

「え」

「そりゃ今すぐにでもお前を抱きたい。お前とセックスしたい。けど、怖がらせたいわけじゃないから」

 さっきはあんなこと言っておいて、結局は菜々美を一番に考えてくれる。


「こうしてるだけでもいいんだ」

 耳元で囁く翔に、菜々美は何をしてあげられるだろうと考えていた。

 菜々美のことを想って、菜々美の為にこうしてるだけでいいと言ってくれる。

 本当はセックスしたいだろうに……。


 そのまま眠ってしまった翔の寝顔を見てると、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 私が未経験なばかりに先に踏み切れないでいるから。私に気を遣わせてばかりいる。

 それが申し訳ないと思う。


 だからと言って、自分に覚悟が出来てるのかと言ったらそれが分からないでいる。

 24にもなって情けない。

 好きな人なのは確か。翔とキスをしたり抱き合ったり、そんなことをしても嫌な気持ちにはならない。だからきっと、セックスしたって嫌だとは思わない。それなのに、踏ん切りがつかない自分が情けなくなってくる。



 そっと寝室を抜け出す。

 仕事部屋に入るとダンボールに目がいく。


 そもそもセックスってどんなことをするの?

 なんでそんなことをするの?

 しなきやダメなの?


 頭の中は混乱でいっぱいだった。

 ダンボールの中身を覗くと、目を覆いたくなるような代物がギッシリと詰まってる。

 何本、DVDを送って来たのだろう。そもそもこの玩具って何?と頭の中がぐちゃぐちゃだった。



《私はどうすればいいの?》

 かよにメッセージを送る。何事かとかよから返事が入る。

《なんかあったの?》

 それに対して翔が来てること、翔が自分とセックスをしたいと思ってること。自分のせいでそれが出来ないこと。どうすればいいのか分からないことを送っていた。


 ~♪~♪~♪~

 まどろっこしくなったのか、電話が入る。

『もう、面倒くさいわ』

 呆れたかよは、ため息交じりに言う。

『好きな人と触れたいって思うでしょ』

「うん」

『ならその気持ちのままに行動していいと思うよ。あとは中山くんがなんとかしてくれるよ』

「かよ……」

『大丈夫。自分の気持ちをそのまま伝えればいいんだよ』

 そう言ってかよは電話を切った。

 スマホを握りしめて見つめる菜々美は、何かを考えていた。

 そしてスマホを仕事机に置いて寝室へと戻っていった。

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