第16話
「先生!」
久しぶりに山之内が菜々美のマンションにやって来た。その山之内が菜々美の雰囲気が少し変わったのを感じた。
「何かありました?」
「え」
「なんか、雰囲気が柔らかいというか……」
「な、なにもないわよ」
翔と付き合いだしてから、菜々美は心の余裕が出来ていた。焦らなくてもいいと思うようになっていた。
「で、どうです?書けましたか、例の
山之内がそう聞いて来た。
菜々美はギクリとして持っていたペンを落とした。
普段、手書きでノートに色々と書いてそれをパソコンの方で清書するという方法を取っている。ちょうどそれをやっていた時だった。
「書けてませんね。この話にはエッチのシーンは欠かせないと思いますよ!」
そして仕事部屋の隅に置かれたままのダンボールに目をやる。
「あれも観てないですね。観てください。そして参考にして下さい!」
「あ、あれは……っ」
(恥ずかしくて観れるわけない)
あんなものがここにあるって分かったら、翔に軽蔑されるかも……と、山之内を睨む。
「あれは持って帰って!」
「ダメです。あれはもう菜々美先生のものです。私からのプレゼントとでも思って受け取って下さいね。そして是非、カレシと使ってみてください!」
力説される菜々美は圧倒され、押し返せなかった。
「では、菜々美先生。もっと生々しく書いて下さいね!」
と、電光石火のようにマンションを出ていく山之内にうんざりしていた。
「もう……やだ、あの人……」
ため息を吐いた時、入れ違いにマンションのドアの前に翔が姿を現した。
「今の誰?」
「あ……。担当編集者の山之内さん」
「男なんだ」
「うん」
「──……」
じっと菜々美を見る翔に、顔を真っ赤にする。
「な、なに?」
「なんかされたりしないのかなって」
「しない、しないっ!何、考えてるの!」
そう言って仕事部屋に入って行く。翔も後に続いて入って行った。
「うわ……っ。すげぇ……」
本棚に囲まれた部屋。その本棚には小説も漫画も絵本も様々な書籍があった。
「あ……っ。なに、入って来てるの」
「いいじゃん」
ニコッと笑った翔は、部屋の隅のダンボールに気付いた。
菜々美はパソコンを開いて清書の途中だった。
「なぁ、このダンボールは?」
そう言って翔はダンボールを開けた。
「え……っ!それ、ダメ……っ」
菜々美は叫んだがもう遅い。翔は中身をバッチリと見ていた。
「あ──……」
顔を真っ赤にした菜々美は何も言えない。
ダンボールの中の未開封のDVDと
「お前……、そういう趣味あった?」
「ち、違うの!山之内が送りつけてきて……」
言い訳のように言う菜々美は、恥ずかしくて恥ずかしくてそれ以上何も言えなくなっていた。
顔を両手で覆い隠している菜々美に近付いた。
◇◇◇◇◇
後ろから抱きつかれた菜々美は、身体が動かなくなっていた。24にもなるのに、こんな経験はないのだ。
「な、中山……くん?」
翔に呼び掛けるが、翔はそのまま何も言わない。抱きついた腕の力が強く、突き放すことも出来ない。
「いい加減、名前で呼んでくれない?」
耳元で聞こえる翔の声がなんとも色っぽい。顔を真っ赤にしてどうにか翔の名前を呼ぼうとしている。
「あ……、しょ………、翔……くん……」
「くんはいらない」
「……しょ……、翔」
「ん」
名前を呼ばれた翔は、思いの外嬉しかったのか顔を真っ赤にしていた。
「やべっ。名前で呼ばれるの、こんなに嬉しいんだっけ」
翔の腕の力が強まる。
「ねぇ……、ちょっと、痛い」
「あ……、ごめん」
力を緩めた翔は菜々美の顔を自分に向けキスをする。
何度か「ちゅ……っちゅっ……」と音をたててキスをした翔は、菜々美の顔をじっと見つめた。
「セックスしたい」
翔の言葉に菜々美は俯いた。
目線はあちこちに移ってキョロキョロしている。菜々美の落ち着きのなさに、翔は笑った。
「優しくするから」
顔が真っ赤になってるのは菜々美だけではない。翔も真っ赤だ。
「で、でも……っ」
「あれ、一緒に観てみる?」
戸惑う菜々美にダンボールを指差す。
「え……っ!?」
慌てる菜々美が面白いのか、ケラケラと笑う。
「冗談」
唇が触れるくらい近付いては、じっと菜々美を見ている。
そっと耳元に触れるとそのまま唇を重ねる。
その行動ひとつひとつに菜々美はドキドキしてしまって、どうすればいいのか分からなくなってる。緊張しているのが、翔にも伝わってる。
「菜々美……」
ギュッと菜々美を抱きしめる。
「な、中山くん……」
「名前」
「あ……。翔……」
「おれ、結構我慢してるんだけどな」
耳元で話す声がくすぐったい。
こんな風にされることも初めてで、身体が硬直する。
「菜々美………」
ちゅ……っと、音をたててキスをする。何度も何度も抱き合いながらキスをしてくる。
「………んっ……!」
菜々美の口の中に翔の舌が侵入してくる。それに驚いた菜々美は、軽くパニックに陥った。
「んん……っ」
菜々美は翔の胸元のシャツをギュッと握って、それに耐えていた。そうでもしなきゃ崩れ落ちそうだった。
(頭がボーとする)
クラクラとするくらい、翔のキスに溺れる。
ガタッ。
「おっと。危ねぇ」
足元に力が入らなくなった菜々美をしっかりと抱く翔。
顔を真っ赤にして俯く菜々美にふっと笑みを浮かべる。
そして菜々美の手を握り寝室へと入っていった……。
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