一会さんと奉野君、ダンジョンのある現代日本を添えて
戸川 八雲
一日目
第1話 ゼロ回目
「こんにちは受付のお姉さん、ダンジョンの攻略者登録お願いします」
「はい、いらっしゃいませ、このダンジョン初めての方ですね、では探索者カードの提出お願いします」
「これで」
「お預かりします……えーっと……って、備考に探索者専門校卒って書いてありますけど?」
「ええ、俺は
「いえ……ここのダンジョンって、探索者専門校に通わなかった大人の転職組や副業組が訪れる事が多いので少し驚いただけです」
「知ってます、そういった一日探索者が多いダンジョンだと聞いたので、この付近に住む事を決めたんだし」
一日探索者とは、一日で済む公的試験を受けるだけで探索者になった人達の事を言う。
「簡単な公的試験をうけるだけで探索者にはなれちゃいますから自動車の免許証より簡単に……って、この『雑魚ダンジョン』とか呼ばれている第二十三ダンジョンの側にわざわざ住むの!?」
「ダンジョンから近い方が通いやすいですし?」
「うちのダンジョン低階層に出る魔物って、弱いし金銭効率も悪いし一度に複数出てこないしで、それこそ大人の探索者転職組がダンジョンのお試しや、低レベル時代の安全なレベリングに来るような場所だと言われているのだけど……」
「あーっと、俺にはその『弱くて一度に複数の魔物と出会わない』ダンジョンが必要なんですよ」
「いや、あなた……えーと
探索者のデータは日本ダンジョン開発協会、通称JDDAが管理していて。
今受付嬢がやっているように、専用の端末に探索者カードを通す事で詳しい内容を知る事が出来る。
「ええ、普通の高校に行くより安くつきますし、ちゃんと卒業証書も貰ってますよ? というか探索者データがある時点で嘘ではないと思うんですけど?」
「いや、探索者専門校って実習でダンジョンに何度も潜るわよね?」
「はい、というかダンジョン関連のルールを学ぶ時間以外全部実習ですからねぇあそこ、後は道徳の授業も少しあったっけかな?」
「そうですよね、ですから実習でダンジョンに潜っているなら奉野さんは基礎レベルがそれなりに高いでしょうし、うちみたいな雑魚ダンジョンに来る事はほとんどありえないんですけど……」
「ふむ……まぁ何処に潜ってもいいじゃないですか、それでダンジョンに初めて潜る時は、自分のレベルやスキルが表示される鑑定の石板がタダで使えるって聞いたんですけど?」
「え、ええ、奉野さんは第二十三ダンジョンは初めてなので、初回は無料で鑑定の石板を利用できます、今回登録したので二回目からは料金がかかりますのでご了承ください」
「そこは
「タダにすると問題事が起こるから料金制にしているだけで、鑑定料は千円ですからそこまで負担にはなりませんよ、低レベルの時ならまだしも、ある程度強くなるとそんなに何度も使う物ではありませんからね」
「……」
「どうしました? 奉野さん?」
「いや、登録も終わったしダンジョンに行っていいですか?」
「ああ、はい、では探索者カードをお返しします、次からは簡略化した手続きになるので、探索者カードをそこのカードリーダーにかざすだけで済みますからね」
「あざっす受付のお姉さん、ではダンジョンに行ってきます!」
「私は第二十三ダンジョン受付の『
「はーい」
……。
……。
若い探索者が受付の側から去り、それまで笑みを浮かべていた受付嬢が真剣な表情に変化する。
そして、周囲に誰もいない受付……ダンジョンの入口を覆った建物の中にある宝くじ売り場を大きくしたような受付場にて独り言をつぶやく。
「本当に気を付けてね少年……ダンジョン初心者の未帰還率は……五%を下回る事がないんだから……」
人があまり訪れない雑魚ダンジョン受付の周辺にはひとけがなく、受付嬢の表情が営業用の笑顔に戻るには十数分程必要であった。
次の更新予定
一会さんと奉野君、ダンジョンのある現代日本を添えて 戸川 八雲 @yakumo77
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