天使殺し
@moriitsuki
第1話天使たち
扉の縁から光が漏れていた。開けてほしいのだろうか。
扉の前に立ち、ゆっくりと開けた。
そこには羽が生えた人たちが行きかっていた。そこでは町のあちこちで酒を交わしていた。宴をしているようだ。
だが、どこか変だ。そもそも羽が生えているのも変だが、他にも木製の樽型のジョッキで酒を飲んでいたり、服や机、建物一つ一つがやけにボロかったり、町の明かりを電灯ではなくランプで補っていたり、まるで、中世のヨーロッパに来ているみたいで、何故か寝間着の僕は明らかに浮いている。
一体何が起きているのだろうか。
少し進んでみる。どうやら宴は大規模で開かれているようだ。どこまでも町の騒がしさは消えない。何かの記念日なのだろうか。
すれ違う度に目線を感じるのは、恐らく僕に羽が生えていないからだろう。
どうすることも出来ず、邪魔にならないように道の隅で座り込んだ。
羽の大きさは人によって異なるようだ。恐らく羽を出せるように服の背中の部分を切り取っているのだろう。
一体何が起きている?異世界か?転生したのか?最初の扉は?
とりあえず扉に向かおうと思い、立ち上がった。
「あれ、見ない顔だね」
「え、あ、はい」
話しかけてくれたのは、髭の伸びたおじさんだ。胸元辺りまで伸びている。身長は僕よりもずっと大きい。百八十はあるだろうか。
「君はここら辺の人?」
「いや、違います」
「どこから来たの?」
確かに、僕はどこから来たのだろうか。秋田県か、いや、地球だろうか。「あの、その、扉?」曖昧な返事しかできない。
「プッ、扉って」クスっと笑った。
「いやぁ、扉っていうか、地球っていうか」
僕も笑ってしまった。
「ちきゅう?」
笑みを少し残しながら怪訝な表情をして僕を見た。
「変な人だね」髭の先端をさすりながら言った。
「いや、そう、ですね」
下を向きながら頷くことしか出来なかった。
「まぁ、何があったか分からないけど、ここにいない方がいいと思うよ」
考えてもきりがないと思ったのだろう。さっきまでの怪訝な表情とは打って変わって
、真っすぐどこかを眺めて言った。
「何故ですか?」
僕が訊いた。
「ここ最近で何人も天使たちが死んでいるんだ」
「死んでいる?」
「うん、結構の人数死んでいるんだ、こんな危険な状況の中、宴なんて」ため息を漏らした。
「警察とかは、いないんですか?」
僕が訊いた。
「ここには必要ないと思ってたからね、みんな優しいから」
「そうですか」
神妙な面持ちをした、が出来ているだろうか。
何もかもが全て分からない。ここがどこで、天使がどうとか、何人も死んでいるとか、そもそも天使は死ぬものなのか。とりあえずこの場所は地球ではないことは確かだ。
とりあえず今僕がすべきことはここから出ることだ。
血しぶきが僕の顔に飛び散った。目にも止まらぬ速さで、黒い何かが酒を交わしていた天使たちを通過する。その後に天使たちから大量の血しぶきが噴出した。
さっきまで賑やかであったのに、たった数秒で町のあちこちが血に染まった。
思考が完全に停止した。
「あの、」
髭の伸びたおじさんに助けを求め、隣を向くとうつ伏せで倒れ、白い大きな羽が、赤黒い色に染まっていた。
町のあちこちで悲鳴がした。
はらわたから吐き気がこみ上げた。髭の伸びたおじさんの羽に黄色いドロドロした液体を吐いた。口の中に気持ち悪い酸味の味が残った。目が濡れていた。吐き気がもう一度こみ上げてきた。吐いた。二回目の方が長い。
何をするべきかもわからず、何も見ないように、うずくまって、唾を飲んで、嗚咽を堪えるしかない。
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