31:スパチャ解禁らしい

「ダンジョン、侵入する。入り口で警戒する。慎重に進んだってかまわない」



:け○た食堂やめろ

:なんでそんなにネタ旧いんだよ

:いいだろネタが古くても

:ネタは古ければ古いほど良いとされており

:なにそれ?

:ジェネギャもあるらしい



「知り合いの影響です。さて、今日はダンジョン攻略生放送にお集まりいただき感謝――」



:ゲリラ配信ありがたい

:今日は何処のダンジョン?

:白薔薇ちゃんの服が変わったらしいけど本当?

:今日はどんな魔法を見せてくれるんだろう



 ……というわけで、ダンジョンに入ったあたりで配信を開始しています。


 別に配信する予定ではなかったけれど、こういうのって毎日配信したほうがいいらしいので。


 というか、できるだけ早く収益化したいって気持ちもあって……。



「ちなみにアルの服装が変わってたのはガチです。東一条さんのお店で購入させてもらいました」


「ん、とてもいい人たちだった」



 アルは慣れないのか、少しセットされたふわふわロングを手でいじりつつ応える。


 前髪がそよそよと揺れ、それが鼻をくすぐったのか、小さくくしゃみをした。



:くしゃみたすかる ¥10,000

:え?

:このタイミングでスパチャ解禁ですか

:商売上手すぎるだろ 投げるけどさ ¥50,000

:くしゃみたすかる ¥1,000



 このタイミングで収益化通ったの、神過ぎます。


 くしゃみなんてマジでスパチャタイミングでしかない。お金がじゃんじゃん入るぞ~。


 ……そんな浅はかな考えを持っていた自分が居たことを否定しません。


 ちら、とコメント欄を見れば、色とりどりのチャット画面が広がっており。



「……この一瞬で、何人の人生が買える?」



:表現がいちいち大げさすぎるんだよな

:そりゃ美少女のくしゃみだからね、助かったからお礼だよ

:日本だって財布拾ったら1割渡すでしょ、俺も財産の1割渡すだけなんだよね ¥50,000

:¥50,000

:¥50,000

:¥50,000

:¥50,000

:¥50,000

:無言赤スパ怖すぎる

:なんだよ財産の1割って ぶっ壊れてんな

:初見です、何かの記念配信ですか?



「いいえ、ただの上層探索です」



:え? なんでこんなにお金が舞い散ってるんですか?

:当然の疑問過ぎて草

:配信慣れてないんだね^^ かわいいね^^

:変なおじさんもいますと

:切り抜き上がってる!

:もう万バズかよ、投稿して1分も経ってないじゃねーか

:まぁ美少女のくしゃみなので

:妥当



「さて、そろそろ攻略していきましょう」



 さて、今回の攻略だが……実は武器を何も持っていない。


 舐めプか、と思うけど。それは大きな間違いだ。


 ……あの、武器を買う金が無いんです。ナイフ買う事すらできませんでした。



「武器持ってないこと突っ込まないでね。俺だってほしいんだから」



:ごめん

:マジで貧乏なんだな

:服で金浮いただろ

:武器代 ¥1,500

:でもガチでどうするんだ またきたねえ花火でもやるんか?



「滅茶苦茶嫌だし、二つ名が本当に定着しそうなのでやりません。今日はアルに教えてもらいながら魔法主体で戦います」



:うらやましすぎる

:やあ後輩くん、現代の魔法に関してなら私にも一家言はあるから頼ってくれたまえよ?

:沙樹ちゃん先輩だ

:沙樹ちゃんだ

:チャット欄に居るの初めて見た

:というか先輩後輩呼びエモすぎる

:俺も呼ばれて~~

:沙樹ちゃん代 ¥50,000

:¥50,000

:¥50,000

:¥50,000

:配信に居ない人のために金投げるの怖すぎるよ



「というわけで、とりあえず今使える魔法について確認します。まぁ一個しかないんですけどね」



 循環する魔力を引き出し、手に込める。


 球体となった魔力に、命令を与える。


 これがアルから教わった魔法発動のプロセス。



「ほころび、花開け――灼華ファイア・ブルーム



 手のひらから飛び出た火花がパンと光れば、ぱらぱらと煌めいた。


 まさしく花火みたいな感じ。この程度の威力でシャドウウルフの臓腑をぐちゃぐちゃにできたのは不幸中の幸いだ。


 ただ、コメント欄はこの魔法にいいイメージを持っていないらしく……。



:おえ……。

:あの映像思い出しちゃったじゃねーか

:グロ過ぎて三回吐いたわ、アレ

:てかこの威力でシャドウウルフの中身ぶちまけたの凄くね? 当たり所良すぎだろ

:お前のあのアーカイブ、グロ過ぎて迷宮省が注意を呼び掛けてたレベルだぞ

:検索してはいけない言葉 アマネチャンネル シャドウウルフ

:後世に受け継がれるべきグロ映像



「マジか、そんなに?」


「……えげつなかった」


「いや、アルの魔法もえげつなかったからね?」


「……?」


「シラフであれやったの、マジか」



 アルのナチュラル冷酷なところが出たところで、目の前にモンスターが現れた。


 スライム。核となる場所をつぶせば死ぬ弱い敵。攻撃能力はあまりないので、対モンスター戦闘の初心者が相手をするモンスターだ。


 今回はコイツに魔法の実験台になってもらう。



「アマネ。魔法の呪文の詠唱は、イメージ」


「イメージね、なるほど」


「例えば凍らせるんだったら……私は夜をイメージする」



 小さく呪文を唱えて、氷塊を発射する。


 それはスライムの脇を通り過ぎて、地面に激突。


 わずかに地面を抉った。



「人には得意な属性が存在する。これは、イメージのしやすさとかではなくて……魔力の波長によって決まる」


「波長、ね」


「ん。アマネは……多分、光るものが得意」


「金が好きだからかな」


「おそらくそう」



:草

:もっとこう、もっとこうさ、まともな感じなのかと思うじゃん……!

:金が好きだから光るものが得意なんだ……

:現行の魔法とは思考が違うだけで、大本は一緒なんだね。後日それも聞かせておくれよ、白薔薇ちゃん

:現代の魔法と大本が一緒?

:コメント欄同士での会話は良くないんだが、少しだけ説明してあげようじゃないか。

 現代の魔法は、魔力を思い描いた形に操作するところから始まる。脳内で魔力を操作して、魔法陣を造るんだよ。

 だから詠唱が必要ない。でもイメージの確実さに左右されるから、力量に差が出るというわけさ。

:よくわからないけど、自由度が高い魔法が白薔薇ちゃんで、確実性が高い魔法が沙樹ちゃんってこと?

:そういうこと、といえるかもしれないね



「解説ありがとうございます、先輩」



 権威がいるとこういう時頼りになるよな、ありがたい限りだ――。


 そうだ、沙樹先輩にモデレーター権限を渡しておこう。知り合いだしパトロンなので文句は言われまい。



:ほむ、権限が付与されたようだね。

:沙樹ちゃんが管理者……。

:え、沙樹ちゃんに管理してもらえるんですか?!

:変態も居ますと



「というわけで、アマネ。今言ったことを意識しながら……なにか光るものに関して、言葉を並べてみて」


「並べるって言ってもなぁ」



 何にするか迷ったけど……やっぱり俺にとって目に焼き付いて離れないのは、最初にアルの手助けで撃ったあの花火。


 俺にとって魔法という奇跡は、光輝くものだ。……だから、目指すのは花火だ。



「地に眠る黄金、空を揺蕩う小さなもの。我火を用いて、煌めくばかりに放たん」



 いざ唱え始めてみれば、なんだかするすると言葉が出てくる。


 これが才能か、と思ったが、そもそも俺に才能はない。


 これはきっと、アルが教えてくれたからこそするすると出てきているのだ。


 詠唱が終了し、後は魔法名を述べるだけで魔法が発動する。



「大火よ、星を穿て――夏祭りで見た花火サマー・ブルーム!」



 目の前で魔法が結実し、それが形となる。


 ……そして、非常に嫌な予感がした。俺がイメージしたものは、夏祭りで見た花火だ。


 花火とは、距離をとってみるものだ。それが今、目の前で発現した。


 つまり……。



:おい、それここで爆発したらヤバいんじゃないか

:花火が爆発して死者出るなんて割と聞く話だぞ

:逃げろ――!



「心配には及ばない」


「アル!」


「壁を為せ、氷壁アイス・ウォール



 俺の目の前に氷の壁が形成され、次の瞬間――。



ドゴォン!



 多量の閃光とともに、すさまじい爆発が地面を揺らした。


 近くで大きな音を聞いたからだろうか。爆発の直後、俺は意識がふわふわとして……。



「……おっと」



 アルジェントに受け止められた。



「魔力切れ。いきなり大きな魔法、使い過ぎた」


「魔力――」




 おやすみなさい、とアルの声とともに、俺は意識を落とした。

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