27:感謝、それ以外言葉が見つからないらしい
「……これが、げきうま?」
「そうだよ」
デリバリーによって届けられたご飯。
何を頼んだかといえば――当然だが牛丼だ。
正直他の料理も頼めたが、牛丼ですらかなりのぜいたくなのに、他の料理を頼むだなんて恐れ多すぎて無理だった。
……いつか、気兼ねなくピザを頼めるようになりたいな。マジで。
「じゃあ、あけるぞ……!」
「ん……!」
きらきらと瞳を輝かせながら、袋をのぞき込むアル。
袋から容器を取り出して、ソレをアルの前に置くと……怪訝な顔。
「これが、食べ物?」
「皿だよ。本当はここから」
「……ん」
再び俺の手元を中止するアル。
汁漏れ防止用の箱を開いて、内蓋を開く。
すると、甘辛いタレのにおいがふわりと香った。
なんて幸せな匂いだろう。このにおいだけでご飯5杯は行ける!
アルは……すごい目が輝いてる。見たことないくらいきらきらとした目で牛丼を見ている。
……なんとなく、DSデバイスのシャッターを切っておく。
「……これは、ごちそう」
「わかるか、アル――」
「ん。……こんなおいしそうなごはん、ごちそうと呼ばずしてなんと呼ぶ」
古めかしい口調になっているが、気持ちはわかる。
確かに素晴らしい食事をかしこまるのは人間として正常な反応だからだ。
アルにも気に入ってもらえそうでよかった。
「……さて、いよいよ実食だ。スプーンでいいか?」
「ん」
「じゃあ――いただきます」
俺はだしのたっぷりかかった牛肉と、肉とたれのうまみがしっかりとしみ込んだご飯を掬い取り――。
口へと放り込む。
瞬間。俺の意識はどこかへと消えていた。
「……はっ?!」
「――ん!」
俺も、アルジェントも。
何かに気が付いたかのように声を上げた。
今まで俺たちは何を……?
見れば、目の前には空っぽの容器が。
幸せが胸の中に満ちている。なんだこの気持ちは……これが牛丼のもたらす幸せだというのか。
あの甘辛いタレにはこの世のプラス感情がすべて詰まっているとでもいうのか……!
「……夢中で、食べてた」
「俺もだ……」
「これが、げきうまの、ごちそう……!」
神様ありがとう、この世に牛丼を産んでくれて。
神様ありがとう、この世に俺を産んでくれて。
「――ありがとう」
「――ありがとう」
俺たちの声は、重なる。
それぞれが思い思いの形で、牛丼へ感謝を述べる。
牛丼を愛し、牛丼に愛されている実感を得て。
俺たちは自然とあふれ出る気持ちのままに、手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
■
なんとなく撮った写真を、アルの許可を得たうえでswipperに投稿した。
するとなんという事だろう。アルティメット大バズり。
人々からは「白薔薇ちゃんの笑顔可愛すぎる」とか「こんな表情を独り占めにせず投稿してくれてありがとう」とか声が寄せられた。
このアルティメット大バズりが、あんな事件を引き起こすなんて、あの時のおれたちは知らなかった……。
……大層なフリをしたが、牛丼屋の公式アカウントに反応されただけだ。別に生死について語るようなイベントではありませんでした。まる。
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